第1章 1-4 リリアーナ・アルカディア
もう1度、剣に魔力を注ぎ込むと先程とは桁違いの魔力が剣に流れ込んでいく。
自分の魔力の量に驚いてしまう程だった。
恐らく本来持っていたものではなく、この錠の中に底知れぬ量があって借りて自分の力にしているという感じだろうか。
「晶き刃よ、我が手に集い凍てつけ――クリスタルブレイド!」
剣が透き通るほど精度の氷、馴染むような魔力、ただただ溢れる力。
右手を思いっきり振りかざし、あの1点の場所に振り下ろすと、魔物は悲鳴と共に細かい塵となって消えっていった。
あんなに苦労して戦っていたのに、本当に一瞬、だった。
唖然としてその場に立ち尽くしていると、リリアーナがスノウの顔を覗き込むように上目遣いでこちらを見上げた。
やはり、黄金に光る瞳……魔力を多く浴びているからこそ持つ色。それに可愛……
「お疲れ様です、スノウさん。あとは封印しちゃいますね。」
「封印?」
封印とはなんだ?と思ったが、それはすぐに知ることになった。
リリアーナが鍵を持ち、真っ直ぐ腕を伸ばしあの黒いモヤに向かって突き刺すように宙に回す。
「聖光の鎖よ、闇を縫い、この地を永遠に鎮めよ――ルクス・カテナ!」
鍵の周りから光る鎖が何本と現れ、その鎖達がモヤを縛って行き複数で絡まっている。
モヤはただそこにあるだけに感じていたが、鎖からギチギチと音が聞こえてくるとこをみると、モヤ自体も抵抗しているのだろう。ただ鎖はびくりともせず、完全に封鎖され、光の鎖が迸る光るを放ち、眩しいと目を閉じて、次に開いた時にはそこにはもう何も無かった。
ここに来てからの一連の流れにただただ、呆然とするしかないスノウはさすがにどれに何やらと思ったが、はっとすぐ切り替えて、倒れていた人達の所に向かった。
でもやはり傷は全て綺麗に消えている。
「スノウさん、大丈夫です。みなさんの事は回復しておきました。ただ、もう亡くなっている人たちは蘇らせるということは出来ないので……。」
淡々と話すリリアーナにさすがにスノウは口を開かざるを得なかった。というのも。
「いやいや待てよ!回復って言ったよな!?それも王の鍵の力なのか!!」
「いいえ……。」
「そんな……元から……。」
そう。この世界に魔法はあるものの、『回復』というものは存在しない。
例えば補助的なもので、毒を取り除くとか、折れた骨を固定する程度は可能だけど、傷を癒すというのは聞いたこともなかった。
だからこそ、王の鍵かと思ったが、本来持っていた、ということは、信じられないくらいだった。
リリアーナは、おもむろに白いローブのフードをパサりと下ろすと、透き通る薄い色のブロンドの髪をふわりと払った。
隠していた髪は腰まであるロングで、ややウェーブかかりよく見ると先の方はピンク色がかっている。
そして瞳もまたピンク色で黄金の光を放ち、大きな瞳でスノウを見上げた。
というのも、スノウは183cmあるが、恐らくリリアーナは160cm前後だろか。スノウを見るには見上げる身長差だった。
「やっぱり……リリアーナ、君……。」
「……。きっと、スノウさんは気付いてしまったかなと思ってました。私はリリアーナ・アルカディア。アルカディア王国の第一王女です。」
アルカディア王国。
それは5大王国のひとつ。
魔法を主とする国。
国民のほとんどが、魔法を扱えるほどの国。
もちろん使えない者もいるが、魔法がここまで国全体で扱えるのは、他にはない。
他の国では魔法が使える国民はせいぜい全体の5%といったところだと思う。
それくらい、無いわけではないものの貴重な力。
アルカディアは魔力は血筋にあると考え、アルカディアはアルカディアの者同士の結婚しか認めないほどで、血裔結婚が普通の国だった。
そしてその魔力は絶大で、戦争となれば巨大な魔法でどの国も手足が出来ないほどの強大な国。
その国の王族となれば、自分が安易に話が出来る相手なんかでは無い、という事だ。
「ええと、リリアーナ様……。」
「えっ。や、やめて下さい。そういうつもりじゃなくて……そのままリリアーナって呼んでください。」
これ呼び捨てにして不敬罪にあたるとかならない?って色々モヤモヤして考えてしまったが、そもそも護衛もなしに1人でいることも不思議に思ってしまう。
「鍵を持つものとして、ちゃんと名乗ろうと思っただけで、王女とかは気にしないでください。国からも、王の鍵の使命を全うするよう命令されてますし。」
命令。
恐らく国としては、リリアーナが王の鍵を持ったことで、自分たちの国が世界を支配出来ると考えただろう。国としては当たり前の考えだ。
そして、命令という言い方からするに、リリアーナは家族として応援ではなく、国として言われてここにいる、そういうことなんだろう。
「私……ずっと、この力のせいで、城から外に出して貰えなくて。今はこうして、こう言っては良くないかもしれませんが自由に出来て、リリアーナとしていれることが嬉しくて。だから、スノウさんにもリリアーナとして接して欲しいです。」
「リリアーナ……」
癒しの力は貴重だ。
本来ずっと外に出したくないほどだったろう。
王の鍵という絶大なる力を手にしたから、初めてリリアーナは許可が出て、自分の足で歩いて。
初めて、リリアーナになれた。
「わかったよ。でも……もし本当に不敬罪とかなったら、ちゃんと助けろよっ!」
「そんなことならないですよ!そもそもあなたは、錠なんですから。とりあえず、皆さん連れて宿に戻りましょうか。心配してるでしょう。」
「ああ、そうだな。」




