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はじまり

はじまり

世界の『音』がする。

そう、小さいけど大きな。

聞き逃してはいけないくらいの。


カチリ、コチリ


――


「そっちに行った!」


大男が叫んだ。

その先で、細身の男性が大事そうに何かを抱えて、走っている。

貧民街から走り出してきたその男性は、古びた布っきれの服で、周囲の人々は、汚い、臭いと、追いかけられながら助けてくれと助けを求める男性に嫌悪感を示していた。

抜けてきた先にある平民達が住むこの港町に、貧民街の者などゴミにしかならないから。なんなら、面倒事なら尚更だ。


「ようやく、追い詰めたぜ。さっさと渡しな。」


貧民街の男性は細道の行き止まりになった先で大事に抱えた何かをぎゅっと握り、男達に背を向けて地にへばりついていた。


「それが大事な『鍵』かもしれないだろ。お前みたいな汚いやつが綺麗なもん似合わねぇよ。」


貧民街の男性がもつ大事に抱えていた先にあるものは、綺麗な装飾が施された鍵。


ただの、家や、箱の鍵であれば、そこまでだったかもしれない。


「これは、そういうものじゃない!」


必死に男性は鍵を抱えて更に道の先に進むもあるものは壁のみ。


「それが『王の鍵』かもしれないんだ!渡せ!」


――王の鍵。


それは巷を騒がしてるモノ、だ。


この世界には語り継がれてる物語がある。

それは史実に基づいているもので、闇が表れし時、王の鍵が現れる、と。

王の鍵を手にした者は世界を救い、世界を統べてきた。

そして最近黒き魔物が増えてきたことで、王の鍵が現れるのではないか、と噂されている。

そんな時に、貧相な貧民街の男性が綺麗な鍵を持っているのを目にした大男は、奪おうと追っていたのだ。


「ちっ、めんどくせぇな!!」


大男は拳を振り上げ1発男を殴ると、簡単に男は吹っ飛び、カランカランと、音を立てて鍵が床に転げ落ちた。

急いで男が鍵を握るも大男が男の手ごと踏む。


「うわぁぁぁーーーー!!!」


男は痛みで叫ぶも離さない。

その声が大通りにも聞こえてきていたが、皆迷惑な顔しかしていなかった。

そう、1人を除いて。


「お止めなさい。」


凛と、鈴が響くように、

通りの先に声が抜け、大男は聞こえた先にある背の方を振り返る。


そこに居たのは、白いローブのフードで顔まで隠しているものの、声と立ち姿から小柄な女性と分かる。


「なんだテメェ。」


大男はジロリと女性を見る。

ローブから、見える肌は白く、綺麗な金髪の紙はややピンクがかっていて高貴な雰囲気、何よりローブからでも分かる豊かな胸元と細身の足に、にやりと口角を上げて女性に大男は近づくも、それをさっと避けて女性は奥にいる男性に近付いた。


「大丈夫ですか?」

「こ、これは違う!違うんだ!」


必死に鍵を握る男性。

その手にそっと女性が手を触れた。


「知っています。これは違います。もう大丈夫です。」


顔は見えないが、女性の口角が上がり、にこっと男性に笑いかけられ、しばし見入っていていたあとに、はっと気付く。

殴られて全身を痛めていた身体と踏まれていた手の痛みが消えていることに気付いた。


見上げた時には女性は大男の方へと向かっていた。


「おいおい。姉ちゃん。邪魔するってんなら、お前が代わりに俺について来てもらうが?」

「その必要はありませんわ。そもそも、あれはただの鍵で、あなたはただ暴力を奮っただけ。そうでしょ?クローネ。」


そう女性は壁の上の方に向かって話しかけると、スタッと何かが地に降りた。


「ひっ!!!魔物!!!!」


大男はその場で尻餅を付いてお尻を痛めたものの、なんとか力を振り絞ってその場から走り去っていった。


魔物、と言われた者は顔を顰めて女性に話しかけた。


『誠に遺憾だ。』


その声は、口から発したものではなく、頭に直接響く、そんな声だった。


「仕方ないわ、クローネ。」


女性は魔物と呼ばれたクローネを撫でた。

その風貌はたしかに一見魔物に見える風貌で、見た目は大きな猫のようで、人1人くらいは背に乗って走れそうな大きさ。しかしその風体は白く光り輝く綺麗な毛色に、黄金に輝く瞳、耳や首には高級そうな装飾品を着けた獣で、どちらかというと聖獣とでも呼ばれそうな見た目だった。


「あ、ありがとうございます!」


男性は涙を流して女性に、お礼を告げている。


「鍵、大丈夫ですか?」

「はい。これは亡くなった娘が唯一私にプレゼントしてくれた大切な鍵だったんです。本当にありがとうございます。」


男性はぺこぺこと、女性に何度も頭を下げた。


「いいえ、無事であれば何よりです。」

「け、獣様もありがとうございます。」

『け、獣様!?私はクローネだ。特に私は何もしてないがな。』

「ふふ。クローネ拗ねてる?」

『拗ねてなど、断じて無いっ!』


2人のやり取りをみて、男性は僅かながら笑みを零した。

大事な鍵を胸に抱きながら。

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