三年生はネクストステージ
三年生。
それはフィルノ学院初等部の終わりの年。
十五歳になった者達の反応は様々だ。
「……強くなってやる!」
「……魔獣の退治飽きたな」
「……あー退学してーなぁ」
このようにまだまだ強くなろうと足掻く者。
魔獣退治に退屈を感じ、対人戦を学ぼうと上級生に喧嘩を売ろうとする者。
自身の限界を感じ、四年生になった途端に自主退学する者。
選択の岐路に彼らは今立たされている。
「……しかし。 もう三年生かぁ。 早いなぁ」
レルガは頭を掻きながら廊下を歩いていた。
既に三年間慣れた学院を自由に歩く。
中庭に向かい目線を向けるとレルガが見慣れた女子生徒二人がお茶会をしていた。
「へー。 そんな家庭環境にいたの? ラファン」
「でもフィリシアもすごいよ! エルフの先祖返りなのに逞しく生き抜いて!」
「……仲良くやってんなぁ。 あの二人」
「はい! よかったですねレルガさん!」
「いやぁ君の魅力に気づいてくれる人間がたくさんおってよかったな! 狼君!」
「……なんで得意げに頷いてんだよ二人共」
レルガは左右を挟むロナと鬼丸コンビにツッコミを入れた。
「まぁまぁ君と僕との仲やん? 少しぐらい多めに見てくれや!」
「お前らは三年生になって半年だけど、俺は体感一週間なんだよ!」
レルガは二年生に起きた迷いの時間のせいで三年生の半年は過ごせていない。
もう半年でレルガは四年生になってしまうのだ。
「俺ちゃんと学院生活で三年生になりたかったなぁ。 迷いの時間で三年生になっても嬉しくねぇよ」
「でもええやん。 命があるんやから」
「あっても学院生活楽しむと楽しまないとじゃあ全然違うんだよ」
そう言いながらレルガはため息を吐いて鬼丸を睨んだ。
「いいなぁお前らは三年生間学院にいて」
「あっ? 喧嘩売ってるんか? 狼君。 僕達も迷いの時間経験しとるんやで? 羨ましいとかどんなメンタルで言っとんねん!」
「……それもそうか」
そう言ってレルガは頷いて、自分の部屋に向かって歩き始めた。
「どこ行くんや? 狼君」
「……眠いから寝るわ」
そう言ってレルガは鬼丸に手を振って自身の寮へ入り、眠りについた。
「……ふわぁ。 ……ん?」
レルガが端末を開くと、フィルノ学院のアプリからの通知として、王都付近のクヤルの街への外出届けという記載を見つけた。
「……何これ? まぁいいか」
レルガはそんな記載を無視して、そのまま食堂へ向かった。
「……なんかこの学院って自由だけどツマンネェな」
レルガは学院生活にマンネリを抱いていた。
迷いの時間があるのはいいが、一定数場数を踏んだのでなんも驚きがなくなっているのだ。
ずっと三年間学院内にいるのでとても退屈である。
鍛錬しようが読書しようが昼寝に食事をしても、飽きが来てしまったのだ。
別にレルガだけがこのような状態になる訳ではない。
一定数の生徒はこの学院に慣れて来ると、とてつもない退屈を感じる。
それはずっと掃除されていない檻に閉じ込められた動物のようにストレスがすごく掛かっている。
そんなガス抜きを行う為に、三年生から受けられる制度が女神の金貨と外出許可だ。
三年生を半年間生き残ると三年間頑張ったご褒美としてこれからは学院で過ごそうが、クヤルの街で過ごそうがどちらでも良い生活を行え、女神の金貨に至っては迷いの時間を生還すれば一度の生還につき、一枚貰えるが迷いの時間で倒した魔獣から獲得する事もある。
女神の金貨は食べれば魔力増強と肉体の強度が増し、素材として扱えば、高度な武器や道具となったり、上級生の交渉材料としても有効だ。
その為、三年生からは金貨争奪戦と言う一種の娯楽が生まれるのだ。
その為、基本外出許可が出来る中等部、高等部の学生達はクヤルの街で過ごしている為、学院には、ほとんどいない。
さらにフィルノ学院を卒業した二割はクヤルの街で過ごし、学院からやって来た生徒達の金貨をぶん取るやからもいる。
フィルノ学院で会得した女神の金貨は卒業しても手元に残るので出来るだけ多くメダルを獲得しようとする生徒が三年生からは多く出る。
何故女神の金貨がフィルノ学院で獲得出来るのかは不明だが、マクリオンの目、賢者師団の一員の一部も、この女神の金貨獲得の為にフィルノ学院やクヤルの街に潜伏をしている事もある。
だがそんな学院の裏事情をレルガはまだ知らなかった。
「……あー退屈ダァ」
レルガは腹を満たした後、死んだように三年生の教室で机に頭をうつ伏せにして唸っていた。
「レルガ! 今から外出しない?」
「……外出?」
レルガはいきなりラファンから声を掛けられて、顔を上げた。
「うん。 ロナと鬼丸とフィリシアにも声を掛けたから気分転換に一緒に行こうよ!」
「……そうだな。 気分転換も必要だもんな」
レルガはさっきまでの退屈さを忘れて、そのまま端末を起動。
一週間、クヤルの街に行く事を、アプリに申請してそのままいつものメンバーでクヤルの街に繰り出した。