女神様よ微笑んで
「ん?」
賢者師団の一員を斬り倒すと景色が見慣れた学校の校舎に変わっていた。
「……戻って来たのか。 ん? こんな金貨俺持ってたっけ?」
レルガはいつの間にか手にしていた銀色の女性が描かれたメダルを見てレルガは首を傾げた。
「レルガ!」
「おっ! ラファン! 久しぶり!?」
「一年間もいなかったのよ! 心配したわ!」
するとラファンがレルガを抱きしめて涙を流した。
「……はっ? い、一年!? 一年も経ってたの!?」
レルガはラファンの口から出た言葉を聞いて驚いた。
「……じゃあ俺、今日から三年生なの?」
「うん。 そうだよ」
「……えっ? 俺さっきまで雪原にいたんですけど? それで一年経ってるってマジ?」
レルガはラファンの言ってる意味が分からず首を傾げた。
「レルガ君!」
「レルガさん!」
すると鬼丸とロナもレルガの存在に気づいて走って来た。
「本当心配したで! 探索の時間って時間の喧嘩が全く分からんからほんま心配したわ」
「ええ、そうですよ!」
そう言って鬼丸が肩を叩き、ロナが安堵の声を出した。
「なぁ三人ともこの金貨って分かるか?」
そう言ってレルガが金貨を取り出して見せると三人は首を傾げた。
「……これなに?」
「なんかよく分からんな」
「……なんでしょう?」
「何? 何か困り事?」
すると背後から声が聞こえて背後を振り返った。
「おっ! フィリシア! 見てくれ! この金貨って分かるか?」
レルガはそう言って金貨を見せた。
「……これ女神の金貨じゃない」
そう言ってフィリシアが驚いた表情をした。
「「「「女神の金貨?」」」」
「この世界を作った女神様が作ったとされる魔力と魂の金属の塊と言った所かしら……人間の魂として転生している物もあれば魔獣や、何かの魔道具として転生している場合もあるわ」
「……でこれを持ってるといい事あるのか?」
レルガはそんな疑問を口にした。
「さぁよく分からないけれど噂では強い魔力を秘めているから売れば十万ポイント貰え、治療に使えば死者を蘇生し、道具として制作すれば世界をも破壊出来る兵器なると聞くわ」
「……なんだそれ……要領得ないな」
そう言いながらレルガは頬を掻いた。
「とりあえずこれからよろしくねレルガ?」
そう言っていきなりフィリシアがレルガの腕を組んで強引に引っ張った。
「ちょ、なんであなたがレルガの隣にいるの!? レルガを放しなさい!」
「へー? 彼女でもない癖にお隣を要求するなんて子供じみた事を言う竜人ですね」
フィリシアの行動に赤面してラファンが顔を赤くし、手を伸ばし無理やりレルガとフィリシアを引き放した。
「ふふ。 お子様な竜人ね?」
「この誘惑エルフ!」
「……なんでこんな修羅場な光景になっているんだ?」
「さぁな。 君の胸に聞いてみぃ」
レルガは鬼丸に助けを求めたが、助けは期待出来そうになかった。
「お二方落ち着いて下さい! まだレルガさんは誰とも恋人関係ではありません。 多婚制度もあるのでよく話合ってみて下さい!」
「「それもそうね」」
すると何故かロナがフィリシアとラファンの間に割って入り仲裁すると、二人はロナに目線を向けて頷いた。
「ん? 何故か剣呑な雰囲気が霧散したぞ?」
「レルガ君。 良かったな多婚制度があって。 今から君を賭けて淑女が血で血を洗う決闘なんて僕、見たくないわ」
すると何故かレルガの肩に鬼丸が手を乗せてゆるゆると首を横に振った。
「何言ってんだお前」
そんな鬼丸の発言にレルガはジト目でツッコミを入れたがそんなツッコミを無視して鬼丸はまた口を開いた。
「レルガ君良かったなこの学院入って。 君、今一番のリア充やで」
「……知らねぇよ」
ドヤ顔で言ってくる鬼丸をぶん殴ってやりたかったがレルガは堪えて、フィリシアとラファンの会話に耳を傾けた。
「……ま、まぁあなたの方が先にレルガとの交流をしていたわけだしね。 その関係に無理やり割って入ったのは謝るわ」
「いえいえ。 レルガはかっこいいですからね。 惚れてもおかしくありません。 これからは二人仲良くレルガを支えていきましょう? フィリシア!」
「ええ、確かラファンさんと言ったかしら?」
「はい。 私はラファンと言います」
「いい関係を築きましょう。 あなたが正妻でいいかしら」
「いえいえ。 私なんて父親が一夫多妻の二番目の妻の娘で家族から捨てられた身です。 正妻なんて名乗れませんよ」
正妻と言う言葉を聞いてラファンの表情が曇った。
恐らく家でのトラウマが脳裏で蘇っているのだとレルガは察した。
「いいえラファンさん? あなたが一番レルガを思っているのは見て分かります。 ですから形だけでもいいですからあなたを正妻として扱わせて欲しいの」
そう言ってフィリシアがラファンの手を取り、口づけが出来そうな距離まで近づいた。
「わ、私の様な鈍臭い女がレルガの一番隣でいいのでしょうか?」
「まだ付き合ってもいないんでしょう? これからよ」
「はい。 よろしくお願いしますね! フィリシア!」
「ええ、これから仲良くしたいわ。 ラファンさん」
「……俺達何見てんだろう」
「……レルガ君。 君もう一回探索の時間行ってこい」
レルガは目の前の女子生徒達が未来の話をしているのに全くと言っていい程、話を理解していなかった。
目の前で繰り広げられている恋バナに対して鈍化を通り越して無理解なレルガに対して鬼丸は毒舌を吐いたのだった。
「ねぇ姫咲明さん。 なんでここに来たんですか? 導師様があなたにお願いしたのですか? この学院に行けとそして私を始末して来いと」
「……そ、それは……ギィヤァァァァァァ!?」
一方校舎の別の教室では異様な光景が広がっていた。
フィルノ学院四年生ユクラ・レティスが今年入学し、二年生になろうとする異世界からの転移者である姫咲明を雷魔法であるエレックを使いながら拷問をしていた。
「ゆ、許して! な、何も! 何も知らないの! 私、三年前にこの世界に転移して来たから賢者師団の機密なんて何も知らないの! ねぇお願いこの学院から出して! こんな地獄な学院一秒も居たくないの!」
姫咲明は元いた世界ではいじめっ子であった。
ふとこの異世界で迷い込み、多少自身に力がある事に気がついて好き放題していたら賢者師団にスカウトされた後、賢者師団の頼みでフィルノ学院に来たはいいもの多少力のある異世界転移者でもフィルノ学院の迷いの時間は苦痛だった。
姫咲が迷いの時間に初めて巻き込まれた時は大変だった。
いくら殴っても倒れない魔獣。
無限に魔獣が湧いてくる絶望感。
叫んでも生徒がいないどころか新入生が死体となっている現実。
体力の限界や魔力限界を考えずに行動したせいで熱を出してうなされた事。
死ぬかもしれない緊張感。
そんな悪夢が続くフィルノ学院から一刻も早く姫咲は抜け出したかった。
「はぁ。 何も考えないでこの学院に来たんですねあなたは」
「えっ?」
明の泣き言にユクラは見下した目をして、吐き捨てた。
「まずこの学院に入学したら自主退学は四年生からしか出来ません。 さらに退学金として十万ポイントを支払わなければいけません」
「え? な、何それ? 私聞いてない。 トーゼからは何でも出来る夢の学院だって聞いたから私入学したのにこんなクソみたいな所なんて知らなかった!」
大粒の涙を溜めて、姫咲は子供のように泣き始めた。
彼女は十三歳の子供だ。
そんな常に死んでも良いと言える戦士の様な心構えを彼女は持っていない。
もしもこの世界が他の異世界の様にチートやら、スキル、加護、職業と言った恩恵を与える世界ならばこの学院でも彼女は精神に余裕を持って学院を卒業出来たかもしれない。
しかしここはそんなものは存在しない。
どんな超人、超越者、神でさえ油断すれば命を落とす魔境だ。
自身で選び、成長し、受け入れ、失敗し、一つの判断が自身の命を救う事に繋がる。
究極の自己責任と自由を異世界の少女が背負うにはとても重すぎた。
「な、何よここ。 異世界なのに全然チートなんて貰えないじゃない! 腕はちぎれるし体の治りは遅いし死人は多いし! 地球とほぼ一緒じゃない! ここ全然異世界じゃないわ! 早く私の元に返して! 返してよ!」
姫咲は子供の癇癪の様にありったけの怨嗟をぶちまけ始めた。
「……はぁ。 仕方ありませんね。 勿体ないですけど。 ねぇ姫咲さんあなたの言葉が嘘でないことを信じて私はある道具を使おうと思います」
「え?」
急なユクラの態度の変化に驚いて姫咲は困惑した。
「えーと確か胸ポケットに」
そう言ってユクラは銀色の女性が描かれた金貨を取り出した。
「……何それ」
「うーんあなた達異世界人の基準で言ったらチートアイテムと言う奴ですね。 まぁ高純度の魔力と金属の塊なんですけどね」
そう言ってユクラが微笑んで姫咲の掌に金貨を置いた。
「……こんな金貨がなんになるの?」
姫咲は掌に持った金貨を見ながらユクラに問いかけた。
「あなた達異世界召喚人がこちらに来るのは大きな魔力の歪みが影響しています。 まぁあなたの様な一般人であれば金貨一枚で事足りますね。 良かったですよあなたが異世界の魔王やら勇者やら神や超越者の化け物じゃなくて。 もしもあなたがそのような存在だったらざっくり一万は必要ですからね」
そう言いながらユクラは姫咲に対して微笑んだ。
「……これはなんなの?」
「これは女神の魂というか、魔力の一部みたいなものですね。 簡単に言えば異世界召喚人達は運賃を払わないで勝手に乗り物に乗った無断乗車したお客さんなんです」
「何それ」
「まぁあくまで例えですからスルーしてください。 コホン。 とりあえず。 それはその運賃を後払い出来るお金と言う事です」
そう言いながらユクラはニッコリと笑った。
「あ、ありがとうユクラさんありがとう私元の世界に帰れるんだね!」
「はい。 その金貨を持って祈ってください」
『私は元の世界に帰りたい!』
姫咲が金貨を持って祈ると体が透け始めた。
「ありがとうユクラさん」
「ええさようなら姫咲さん」
そう言ってユクラと姫咲は別れを告げた。
そして誰も見ている者がいないのを確認してユクラは教室を出た。
「はぁ。 金貨つかちゃった」
ため息を吐いてユクラは校舎の椅子に座った。
女神の金貨とは文字通り女神が奇跡を起こせるアイテムだ。
金貨を食べれば肉体強度や魔力量が増え、加工すれば特殊な魔道具を製作出来るし、祈れば願いが叶う。
「本当に万能よね」
そう言ってユクラは懐にしまっている金貨を取り出して眺めた。
「ここでくつろいでいるなんてらしくないな。 元賢者師団の聖女様」
「……何? 帝国騎士団の騎士団長様」
すると逆さまの向きでセンディアが顔を覗き込んで来た。
「……なんですか? 嫌味や愚痴。 惚気でも懺悔にしにきましたか?」
そう言ってすぐさまユクラは金貨をしまい、短い杖を取り出してセンディアの首元に当てた。
「おや、僕が先手を取られたね。 これは困った」
「……要件を言ってくれませんか? あなたも首とお別れを告げたくないでしょう? 後、奥さん」
「はは、嫌われてるなぁ。 僕、君に酷いことしたっけ?」
そんなユクラの脅しにセンディアは飄々と軽口を叩いて挑発。
だがそんな軽い挑発に乗せられる程ユクラの精神は未熟ではなかった。
「……私の友である聖女候補達を虐殺した事」
「……あれか。 でもそれってトーゼが悪くない? 彼女達使ってハーレム計画と宇宙と接続する為の生贄探しをしようとしてた癖に」
「……だから私は賢者師団を抜けたのです!」
そう言いながらユクラは浮遊し、服装が変わった。
白い僧衣を纏って杖をセンディアに向けていた。
「……何か勘違いしてるみたいだけど僕は君と戦うつもりはないよ。 ずっと見てたけど生徒の拉致どころか君は賢者師団もマクリオンの目も粛清しているらしいじゃないか」
そう言ってセンディアがクスリと子供の様な笑みを浮かべた。
「それが? 帝国騎士団は私達聖女達は真っ先に粛清対象でしょうに? そんな言葉誰が信じますか?」
それでもユクラはセンディアを睨みながら杖を構え続けた。
「……いつの時代を話しているんだいユクラ? 百年も前の話だろそれ」
どこか呆れた口調でセンディアが両手を広げてやれやれと首を振った。
「……あなたは違うと言うのですか? センディア」
センディアの纏う雰囲気を察してユクラは杖を仕舞った。
どうやらセンディアは本当にユクラと戦うつもりがないらしい。
「これでも吸血鬼の妻がいるんだ。 どんな女性相手でも紳士でいたいんだよ。 聖女だって偏見の歴史に埋もれた救世主じゃないか」
「……その口調……あなたは『聖女』の本質を知っているのですね」
ユクラは目を細めてセンディアを見た。
「まぁね。 こう見えても読書家なんだ」
「……うるさいですね厨二病」
「ははっ手厳しいね。 聖女殿。 そろそろ孤独を埋めるいい相手が見つかりました?」
「その言葉の意味が挑発ではなく、私に対する祝福にの言葉だからとてもムカつきますね」
「聖女様に褒めれて光栄にございます」
「はぁめんどくさい相手ですねあなたは」
「いやぁ聖女様程ではありませんよ」
「……はぁ」
こうして秘密裏に行われた聖女と帝国騎士団長の密談がレルガの二年生の終幕だった。
異世界召喚人は本当にこの世界ではほとんど現実世界と変わらない身体能力です。
元々異質な才能とかお持ちでしたら色々とやりたい放題出来る世界ですがそんな人達でも戦い続けていたら死ぬ平均年齢はだいたい五十代で死んでますね……
この世界は戦国時代となんら変わりありません……