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赤狼学院物語  作者: 宅間晋作
学院初等部篇 一年生から三年生編
7/22

獣の旅人として

「はぁはぁ。 きつかった」


 大量の汗を掻いてラファンが迷いの時間から戻って来ていた。


「ラファンちゃん大丈夫か!?」


「ラファンさん!」


 廊下で膝を突くラファンを鬼丸とロナが心配して駆け寄った。


「ラファンちゃん背中さするで! それと一ヶ月も迷いの時間におったんか! よく無事やったな!」


「はぁはぁげほ。 がは」


 鬼丸の言葉にラファンは言葉を返す事も出来ない。

 今回ラファンが迷いの時間で転移した場所は熱帯の砂漠であった。

 毒を持つサソリや幻惑を見せてくる草花の魔獣、さらに体力を奪ってくる暑さなどラファンの体力と精神をゴリゴリと削っていき、いつ死ぬかも分からない恐怖で手足が震えて呼吸も浅かった故に学院から帰って来てようやく呼吸らしい呼吸が出来たのであった。


「れ……るがは?」


 ラファンは掠れた声で大切な友であるレルガの名を口にした。


「……戻って来てへん。 もしかしたら探索の時間になっとるかもしれへん」


「ちょ、鬼丸さん!」


「……えっ?」


 鬼丸の真面目で硬い口調にラファンの背中に恐怖が走った。

 迷いの時間から帰って来たばかりの相手に親しい人がまだ帰って来ていないと報告するのは悪手だとロナが慌てて止めようとしたが既に遅かった。


「……レルガは帰って来てないの?」


 レルガが帰って来ていない。

 皮肉にもそんな現実がラファンの呼吸と思考を取り戻させた。


「……すまん言葉間違えた」


「た、探索の時間ってあれよね? 長時間迷いの時間が発生する迷いの時間の事!? あぁ……レルガ」


「「ラファン!?」」


 大切な親友が見知らぬ土地で死体になっているかもしれない。

 そんな想像を脳裏に想像してしまいラファンはショックのあまり気絶してしまった。



「……思えば上級生見ないな」


「そうね」


 そんな会話をしながらレルガとフィリシアは昼食を食べていた。


「……妊娠した女子生徒も迷いの時間を生きるのか?」


「当たり前でしょ? 迷いの時間に妊婦も隻眼になった生徒も関係ない。 死ぬか退学するかしないと迷いの時間から逃れる事なんて出来ないわ」


 そんなラファンの心配なぞつゆ知らずレルガはフィリシアと力を合わせて探索の時間を乗り越えていた。

 見方によっては仕事の帰りを待ってる恋人否妻がいるのに堂々と浮気してるようなクソムーブであるが仕方がない。

 フィルノ学院が何故ハーレムを容認しているかそれは血筋が絶えないようにする為である。

 だがそんな腹の膨らんだ女子生徒でも腹の子を守りながら戦わなくてはいけないのがこの学院の辛い現実である。

 その為フィルノ学院は四年生になった途端に退学する生徒が多い。

 フィルノ学院は途中で転校という形での編入する事は出来ない。

 その為一度入学したが最後、四年生になるまでは退学は許されない。


「……でも大体冒険者か帝国騎士団に入る人も多いんだよな。 卒業しようが退学しようが」


「……まぁそうね」


 レルガの言葉にフィリシアはこくこくと頷く。


「というか思ったんだけどよ。 なんでフィルノ学院にくる奴らがこんなにも多いんだ? 普通に近くの学院に行けばいいのに」


 そんなふとした疑問をレルガは口にしていた。

 レルガ自身サウィナに進められてこの学院に来たはいいものの、他の学院に行く人達の話を獣の旅団の中でも一人で旅をしていた時も聞いた事がなかった。


「……それはやはり自由の一言に尽きるわね」


 そう言ってフィリシアが口を開いた。


「個人的な意見だけど、この学院は本当に自由よ。 自分で決めて考える自由と自主性を尊ぶ。 けれどその責任は人生を賭ける程の重荷を背負わなくてはならない。 そんな学院の意図を感じるわ」


 そう言いながらフィリシアが目を細めて自身の学院に対する感想を口にした。


「まぁ迷いの時間。 探索の時間で得た魔獣の素材とかは成人年齢の十六歳でもないのに換金出来るしな」


「……それに、普通冒険者は十二歳から始めれるけど結局十六歳以上の冒険者が同伴しないと魔獣の素材を換金が出来ない制度だしね」


「……それなら自身で稼ぐ為にここに来る……と」


 レルガはフィリシアの言葉を聞いてなんとも言えない。

 法律や教師に縛られるならばここで一人逞しく強く生きていく、そんな学院の裏の意図にレルガは戦慄したがそれでも自身がこの学院に在籍している事の矛盾に気づいてなんとも言えない。


「……そんな悩まなくていいのよレルガ」


「どうしてだ?」


「理由がなんであれ、自分で決めてここに来た。 その自己肯定が私は大事だと思うから」


「……ありがとう。 フィリシア」


 フィリシアの慰めの言葉にレルガは頷き、黙々と魔獣の肉を食べた。


「しかし、学院に戻らねぇな」


「そうね……もうフィルノ学院の時間帯じゃあ半年過ぎてるんじゃないかしら」


 そう言いながらレルガとフィリシアは雪原を歩いていると目の前に人影が見えた。


「……えっ?」


 死体。死体。死体。


 それはレルガがミフィユに指を指して紹介されたハーレムを築いている学院の先輩達だった。


「おや? 迷える子羊がまた一人」


 白い僧衣を纏い、剣を帯刀している男にも女にも見える人物が目の前に立っていた。


「……お前何者だ?」


 レルガは帯刀した剣を抜いて構えた。


「私は賢者師団の一員に過ぎませんよ。 ……とは言え学生を拉致するのも大変ですね」


「賢者師団?」


 レルガは首を傾げてからすぐさま気を引き締めて、目の前の敵に集中した。


「……魔法使いの集団にして、武闘派。 それが賢者師団よ」


 するとフィリシアが額から一筋の汗を掻きながら答えてくれた。


「おや? 我々の活動を知ってくれる方もいるのですねぇ。 エルフの君。 ウチに来ませんか?」


「……お断りします」


 目の前の賢者師団の人間がフィリシアを勧誘するがフィリシアは即座に断りを入れた。


「で、なんでそんな賢者師団の一員様がこんな所にいんだよ」


「ふふ。 それはこの学院にくる生徒達を勧誘及び拉致する事ですよ。 年々死者の出る学院にわざわざ捜索を届ける親はいない。 そして優秀な生徒達がここにはいる……まぁ断られたらすぐさま殺せばいいだけの話ですしねぇ」


 淡々とまるで報告を読み上げるように目の前にいる賢者師団の一員は笑ってレルガを見てくる。


「……君。 獣人ですねぇ。 いやはや獣人が学院にいるなんて馬鹿馬鹿しい」


「えっ?」


 急な話題の変化についていけずレルガはキョトンと首を傾げてしまった。


「知っていますか? 獣人は魔獣からの進化体なのです。 その為即座に殺すのがこの世界の掟なのですが……私が殺してあげましょう!」


 そう言って賢者師団の一員は炎の魔法を放って来た。


「エレック!」


 すると隣にいたフィリシアが魔法に対して反応。

 雷の魔法を放って炎を打ち消した。


「素晴らしい! 二年生でこの威力! 優秀ですねぇ!」


「うるさい! 黙りなさいよ!」


 そう言いながらフィリシアは背中に隠していたナイフを抜刀。

 そのまま賢者師団の一員の懐へと突っ込んでいく。


「ははっ! なるほど! あなたエルフでは無いありませんね! 見た感じ先祖返りでしょうか素晴らしい!」


「ちっ、一発で見抜くなんて気持ち悪いわね! エレック! エレック! エレック!」


 フィリシアは雷の魔力を詠唱すると電撃ではなく、雷の球体を作り出し、そのまま賢者師団の一員に放った。


「おお! 器用ですね! 素晴らしい! ぜひうちに来て信者達の神子を産んでいただきたい!」


「ちっ、やっぱり優秀な魔術師の子供産む為に男も女も誘拐しているのね!」


「もちろんですとも! 世界は強者を!

賢き物を! 英雄を! 家族の繁殖を願っています! だからこそあなたにもぜひウチに来てほしい!」


「嫌だって言ってるでしょ!」


「……なんだよそれ」


 レルガは賢者師団の一員の話を棒立ちで聞いて、呆然とした。


「……じゃあなんで獣の旅人は……俺の家族は俺を育てたんだよ」


 レルガとて思った。

 この学院にも、どの地方にも獣人が少ないと。

 こんなにも自身と同じ種族の相手に出会わない事があるのかと。

 それともう一つ思い出した。

 サウィナがボロボロになっていた写真を。

 アレは男達に暴行を受けてああなったのだと今更ながらに思い知った。


「……ふざけんなよ」


 レルガの中に怒りが溢れていた。

 レルガとて性知識の一つや二つある程度ある。

 まだ子供であった頃、サウィナとダルウィンが情事を行っている際に間違えて部屋に入ってしまい人間は情交をして子を成すのだと勉強した。

 あいにくとレルガは母親だった魔獣も兄弟姉妹と言えるべき魔獣も食い殺した身だ。

 それでもレルガは思う。

 もしもこの学院でマクリオンの目や賢者師団の組織が自身を人間として育ててくれた家族を奪ったというのなら。


「……ふざっけんな!」


「レルガ!?」


 レルガは走り出していた。

 フィリシアの静止も気にせずに。

 剣を抜刀しながら、賢者師団の一員に向かって突っ込んでいく。


「おや? 何か気に触ることでもありましたか?」


 賢者師団の一員はそんなレルガの行動を興味深そうに見ていた。


「お前達のような奴らが! 俺の家族にしたような仕打ちをしていると知った今。 俺はお前らを許さねぇ!」


 レルガは脳裏に思い浮かべる。

 タバコと酒臭いリズリードの事を。

 真面目で几帳面なジーグの事を。

 からかっておねぇさんぶるシャリンの事を。

 頼れる兄貴分でいつも頭を撫でてくれたダルウィンの事を。

 盲目なのに歌や楽器の弾く事がうまくいつも口を開けばあなたは選ばれた子なのですと言ってくるリノ事を。

 そして今更ながらだが、姉でもあり、母のようであり、初恋だったのだと腑に落ちた。

 とても優しく夢をくれたサウィナの事を。


「うぉぉぉぉぉぉ!!」


 踏みしめた。

 力強く、自身はレルガなのだと。

 叫ぶように。


「っ!?」


 賢者師団の一員がレルガの気迫に押されて足を引いた。


「俺は、魔獣でも獣人でもねぇ! 獣の旅人の一員! レルガだ!」


「がはぁ!?」


 賢者師団の一員が張った魔力の盾すら一刀両断してレルガは賢者師団の一員の命を奪った。


「……もう絶対に何も奪わせない」


 レルガの中に迷いは消えていた。

 絶対に潰すと決めた。

 賢者師団とマクリオンの目を今日この日に。

 



 

 

 



 





 


 


 


 


 




 

 

 


 




 




 




 






 


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