激闘
『折り曲がれ』
「うおっ!?」
レドがそう一言発音しただけでレルガのいた地面がひしゃげた。
声を聞くのと同時に距離を取ったお陰でなんとか殺される事を免れる。
「……まるで別人だなこりゃあ」
『眷属来たれ』
またレドが発音をすると、今度は一万はいるであろう白い甲冑に羽根の生えた天使の大軍がレルガを襲う。
「……迷いの時間の次にこれとかふざけてんだろ!」
そう言いながらレルガは次々とじゅうおうむじ縦横無尽に動きながら剣術で天使の頭や体を斬る。
魔法を放つ瞬間はない。
もし、魔法で詠唱すればすぐさま戦況が変わってしまうほどに数の有利が向こうにあった。
「おら! そい! てい!」
掛け声と同時に一つ、また一つと天使を斬っていくだがその間にもたくさんの天使が荒野全体を埋め尽くしていた。
「全く数多すぎるんだっよ!?」
『外したか。 まだ行くぞ』
「うぉぉぉぉぉぉ!?」
背後からの拳の一撃を避けて、レルガの右頬が掠る。
それすら、始まりの合図に過ぎずレドが拳の雨を降らしそれをレルガは反射神経と感と視認で全て防ぐ。
「はぁぜぇ。 はっ!?」
呼吸を落ち着かせる間もなく、天使の大群が四方八方から槍を持って串刺しにするべく刺して来たがこれをレルガは飛んで回避。
「ぬぅお!? せい! や!」
剣を持ちながらでは体の動きが状況に合わないと判断し、剣を帯刀。
そのまま殴り合いへと戦い方を切り替え、天使を魔力を込めて殴り飛ばす。
「おらおらおら! そいそいそい!」
次から次へと来る天使の軍勢を獣の動きで一掃。
戦術や効率合理を捨ててひたすら目の前にいる敵を殺す事だけを思考し、行動に移す。
「はぁ……はぁ。 ぜぇぜぇ」
『ヒカリアメ』
「ちっとは休ませろよ! おい!」
息が上がって来たところに光の剣の雨が降って、呼んだ天使の眷属諸共もレルガを殺すべくふり続ける。
レルガは悪態つきながらも逃げに徹する。
背後で天使達が串刺しになろうがお構いなし、ただ逃げに徹する。
「くっそぉ。 規模感ちげぇだろよぉ!」
レドから距離を空けて、背後を振り返ると既に呼んだ天使の軍勢は死屍累々の山を築き、粒子となって消えた。
「よかったのか? 大軍殺してよ」
レルガは休憩ついでに会話を挟み、体力回復を図った。
『……あの程度の天使いくら呼んでも魔力はそんなに消費されないのでな』
「あーさいでがっ!?」
会話をしていると思ったら既に右頬をぶち抜かれていた。
容赦なく地面に転がってレドを見据えが既にレドは見た場所にはおらず、レルガの後頭部を掴んでいた。
『死ね人間』
そう一言言ってからレルガの顔面は荒野の大地とキスをした。
「あ……がぁ」
何度も何度も打ちつけられて意識が半壊した。
『よし。 フレイムボルマ』
頃合いを見て、レドは容赦なく爆発魔法を直接レルガにぶち込みまるでゴミを投げるように荒野へレルガを投げ捨てた。
「あ……あぁ」
『……つまらぬなぁ。 所詮人はこんなもの?』
レドが話していると背後から衝撃が来て、背後を振り向く。
「……なんだお前は」
「へっ、天使呼び過ぎたなぁお前。 上級生ぐらいだったら空間の把握ぐらい朝飯前なんだよ!」
灰のローブにオレンジの星バッチをした男子生徒がいた。
『七年生か』
「俺だけじゃねぇぞ!」
するとレドの周りには五十人程度の七年生の生徒達が囲んでいた。
『……神に抗うのか? 貴様ら』
「へっ! 神もどきにゃあ好きにさせねぇぜ!」
『……愚かだな。 実に』
「やるぞみんな!」
「「「おおー!!」」」
レドはレルガにトドメを刺せなかった事を悔やみながら七年生達を相手に死闘が幕を開けた。
「おらぁ! そいそい!」
『くだらぬ』
「ごっ!?」
背後を刺して来た生徒が剣術を披露するがつまらなそうにレドは右頬を裏拳で命を奪った。
「エレック!」
「ビュム!」
一人の男子生徒が杖でレドの胸を刺して雷魔法詠唱でレドの動きを牽制。
そしてもう一人の男子生徒が大砲の大きさはある風の球をレドに向けて放ち、胸を刺した生徒ごと細切れにした。
『正気の沙汰ではない……な』
「「「フレイム!」」」
膨大な魔力でレドは体を再生するがすぐさまそこに炎の合体魔法が炸裂し、レドの全身を消し炭にする。
『やれやれ?』
「うぉぉぉぉ!」
「おりゃぁぁぁぁ!」
全身を五秒で再生すると同時に手足が斧と剣を持った男子生徒達による連携で斬り落とされる。
『ねじ切れろ』
「がっ!?」
「ごっ!?」
口は動くので、魔法の詠唱で手足を奪った男子生徒達を肉片に変える。
「やぁぁぁぁ!」
するとすかさず背後から剣を持った女子生徒が特攻し、レドの首を斬り落とした。
「魔法を!」
「「「フレイム!」」」
「「「コオイス」」」
女子生徒が指示を出して離脱し、魔法使いの生徒達が一度に詠唱。
レドの顔と治りかけの体を消し飛ばし、再生を一秒でも遅くする為に氷漬けにする。
『愚かな。 ……ん?』
「オラオラオラ!」
すると大柄な男子生徒が空から降って来てレドの顔面をタコ殴りにする。
「どうだぁぁぁ賢者師団!」
再生が少し遅くなった所で大柄の生徒は肩で息をしながらドヤ顔を披露。
『どうと言われてもな?』
大柄の生徒を始末するべく全身を十秒で再生手刀を繰り出して命を奪おうとするも、背後から来た女子生徒にすぐさま腕を斬り落とされる。
『……連携がすごいな。 個人主義のフィルノ学院では珍しい』
「へっ、珍しくもなんともねぇよ。 俺らは卒業すりゃあ冒険者になるんだ。 そして日々の迷いの時間で顔見知りの奴だっているからなぁ。 こんだけ一緒にいりゃあ連携ぐらい屁でもねぇ」
『……そうか。 だがいつまで連携が持つかな?』
「上等!」
そう言って七年生達はレド相手に三十分連携一体の戦いを見せた。
「はぁはぁ……これだけやってもピンピンしてのかテメェ。 どうなってやがる?」
『神は不滅だからなぁ』
「そうかい。 んじゃあ。 まだまだ出来るなぁおい」
『何が……ん?』
レドが鼻を擦ると血が手に付着している事が分かった。
『……呪詛か? もしくは毒か?』
「両方だよ」
レドの質問に大柄の生徒は答える。
「まぁ。 剣に仕込んでたんだよなぁ呪詛と毒。 何回も斬ればそりゃあ体全身に巡るよな!」
大柄な生徒はそう言ってニコリと笑う。
『小癪な! フレイム! フレイム! フレイム!』
「もう今更感強いよお前」
そう言って大柄の生徒はレドの目の前に移動そして、胸を貫いた。
『ごばぁ!?』
「あばよ賢者。 これが人間の力だ」
そう言って大柄の生徒はレドの心臓を握り潰した。
『ど……う……し』
力無くそう呟きながらレドは命を終えた。
「よしっ! お前ら! 無事ならと」
「いやはや、神となった賢者が死んでしまうとは」
「あっ?」
「ローダ!」
「……そんな!」
「嘘だろ……おい」
大柄の生徒が撤退の命令を出した時だった。
その体が爆散し、燃え尽きた。
「やれやれこの老骨にこの数は面倒ですな」
レドが立っていた場所に何故か賢者師団の導師トーゼ・オイクが立っていた。