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赤狼学院物語  作者: 宅間晋作
学院初等部篇 一年生から三年生編
13/22

獣、正気に戻る

「ん? つぅ!?」



レルガは頭痛の痛みで起き上がった。


「こ、ここは?」


 記憶も意識も曖昧で全く覚えていない。

 ただ覚えているのは本能的な高揚と快楽。

 森の匂いと甘い匂いだけが記憶にある。


「……えっ?」


 横に視線を向けると全裸で寝ているラファンとフィリシアを見つけた。

 灰色のローブを布団代わりにしているので、全身は見えなかったが、全裸であると直感的に悟った。


「……俺は……」


 すると脳内に記憶が蘇った。

 全身が獣化し、暴走してしまった事。

 命の危機を体が感じ、子を作る本能が刺激されていた事。

 最後にレルガを慰める為に二人が文字通り、体を捧げた事。


「あ……あぁ」


 よろよろと立ち上がり、レルガは木の影に隠れて膝を着くと胃液をぶちまけた。


「お、おぇ。 ……き、気持ち悪い」


 暴力に酔った事も、肉欲に負けて二人を抱いた事も全てが気持ち悪かった。

 二人の思いを踏み躙り、文字通りレルガ自身が身も体も心も蹂躙した事実に吐き気がした。


「気持ち悪い……気持ち悪い」


 これではシャリンやサウィナ達を奪った連中とやっている事が同じではないか。


「あ……俺、俺は? あ……あぁ」


 心が文字通り死にそうだった。

 誰か殺してくれと内心願った。

 こんな人を襲う醜い魔獣を英雄譚の勇者が殺すように今、レルガは首を、体をバラバラに斬り殺して欲しいと願った。


「あ、あぁ。 アァァァァァァァァァァァァ」


 罪悪感のあまりレルガは発狂するしかなかった。


「殺してくれ殺してくれ殺してくれ」


 レルガは目を虚にして、死を願った。

 手足に力が入らず、何もやる気が起きなかった。



「ん? レルガ! よかった!」


 するとラファンが目を覚まし、服を着て、いつもと変わらない笑みを浮かべてレルガに近づいて来た。


「来るな!」


 レルガはそんなラファンを拒絶した。


「……ど、どうしたの? レルガ! ま、まだ足りない?」


「……違う。 違うんだラファン。 俺は……俺は二人になんて事をしたんだ」


 レルガは顔を両手で覆い、涙を流した。

 泣く資格などないのに、泣くしかなかった。


「……ラファン。 殺してくれ」


「っ!? ど、どうして!?」


 レルガの懇願にラファンが動揺を浮かべた。


「……俺は人間じゃねぇ。 魔獣だ。 こんな醜い化け物は存在しちゃいけないんだよ」


「……そんな事ないよレルガ」


「……殺してくれよ。 こんな化け物は、女を襲った醜い怪物として」


 レルガは頭を下げた。

 まるで命乞いをするように、されどこの命を奪ってほしいと頭を下げた。


「……レルガ」


「っ!?」


 動揺して、抱きしめられてるという事実に気づくのが遅くなった。


「っあ。 ラファン。 お、俺、俺は」


「髪と頭を撫でるね」


 そう言って優しくたおやかな指がレルガの頭を撫でた。


「……あ。 う、うぅぅぅ。 ごめん。 ごめんごめなさい」


「……大丈夫。 私達は怒ってないよ? けれどね。 辛かったら言って欲しい。 こうやってあなたを慰めるから」


「う、うぅぅぅ」


 子供のように泣くしかレルガにはできなかった。

 どんな言葉も届かないと思った。


「私はレルガを愛してるから。 たとえ、魔獣であったとしてもあなたはレルガだって名前を呼ぶし、あなたを愛するから」


 柔らかく、乾いた心が潤うようだった。


「……ありがとう。 許してくれて」


「……それはどうかしら?」


 するとフィリシアが冷たい目でレルガを見てきた。


「……フィリシア。 俺は……」


「……レルガ。 あなたに二つ条件をつけるわ」


「なんだ?」


「一つ私達とデートする事。 二つ目。 私達と結婚しなさい」


「……いいのか? 十五歳なのに」


「ふん。 食われたんだもの。 責任取りなさい」


「……分かった」


 レルガは口を膨らませるフィリシアを見ながら頷いた。


「隙あり」


 するとフィリシアが近づいてきて、口付けを交わした。


「んっ!?」


 長く、息が止まりそうなキスを終えてレルガは呼吸を貪る。


「はぁはぁ。 が、がっつき過ぎだろ! このエルフ!」


「あら? 昨日あんなに野生染みてたのにうぶね」


「っう」


 ペロリと舌を舐めてフィリシアがレルガを見てくる。

 恐らく、昨日いいようにされたので今数倍にして返しているのだろう。


「……昨日のあなたよかったわよ?」


「へっ?」


 レルガの肩に手をつき、フィリシア耳元に囁いた。


「けれど、やはり私はちゃんと名前を呼びながらがいいわ。 その方がロマンチックだもの」


 そう言ってレルガから離れた。


「さぁいきましょうラファン。 せっかくのデートですもの。 楽しまなくちゃ」


「うん! 行こう! レルガ!」


「……あぁ」


 こうしてレルガは二人の機嫌を取るべくデートに向かった。

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