ドーナツたくさんに金貨は一枚はお約束
クヤルの街。
それは魔法も科学もあり、多くの人が住む街だ。
街はレンガ式のヨーロッパの街並み。
まるで毎日をパレードのように暮らしている。
それがクヤルの街である。
「……本当にすごい街並みだぜ」
レルガは目の前に広がる景色に感動を覚えた。
一年間旅をしていてもこんな綺麗な街並みに出会った事はなかった。
「ははっ。 すごいねぇ。 レルガ! これが学校の近くにある街なんて信じられない!」
「そうやなぁこれは絶景やで!」
「……すごいです」
レルガ一行は初めて見るクヤルの街並みに驚き、心を躍らせた。
「はぁ。 でもここはフィルノ学院の敷地だという事を忘れないで頂戴ね? それと迷いの時間はここにいても発生するんだから気をつけなさいよ」
するとフィリシアがため息を吐いてレルガ達に忠告を入れてきた。
それもそうだ。
ここはフィルノ学院の敷地内。
フィルノ学院の敷地内にいるものは何人も例外なく、迷いの時間に巻き込まれる。
つまり、このクヤルの街にいる住人達も迷いの時間を日々経験している人間達なのだ。
そしてそこに加わる女神の金貨争奪戦。
これからレルガ達はさらに過酷な学院の生活を送らなくてはいけないが、初等部卒業間近の彼らにはそんな事は今は何も関係なかった。
「か、買い物が! 直に買い物が出来る!」
「宅配じゃない! ちゃんと実物を見て買い物出来る!」
「す、すごいこれがユクラの街なんや!」
「す、すごい賑わいですね!」
「……子供じゃないんだからそんなにはしゃがないの」
レルガとラファンは様々な店を歩いて感動を覚えていた。
そんな雰囲気に鬼丸もロナも同意して頷き、興奮するが、そんな浮き足だっているメンバーをフィリシアがピシャリと叱った。
「……だって外出だぜ? 外出。 とても楽しいだろ?」
「けれど何度も言うけれど、ここはフィルノ学院の敷地内なのよ。 少しは落ち着きなさい」
「「「「はーい」」」」
レルガ達はそんなフィリシアの真面目な説得に頷くしかなく、多少テンションを落ち着かせた。
「君達見ねぇ顔だな。 フィルノ学院の三年生の子達だろ?」
「あ、はい! 今日からクヤルの街の外出が出来るようになった三年生です!」
街並みを歩いていると、ドーナツ屋を営んでいるおっさんが笑っていレルガ達に話し掛け来て、それに対してレルガ達も笑顔で返した。
「そうかい。 ならほれ!」
すると五人に向けて女神の金貨をそれぞれ一枚ずつ投げ渡してきた。
「へ、記念にもっときな少年少女。 それを食べてもっと強くなれよ。 それとよければ俺の作ったドーナッツも食べて行ってくれよ? 味は保証するぜ!」
そう言ってドーナツ屋のおっさんが笑った。
「た、食べるって言ったて金貨を食べるんですか? それともドーナツの話ですか?」
レルガは困惑してドーナツ屋のおっさんに話しかけた。
「まぁ金貨は食べるにしても一日一枚にしとけよ? それ以上食べると体を壊すから。 それだったら俺のドーナツを毎日食べて元気に過ごして欲しいな!」
「……本気か冗談か分かんねぇが。 じゃあ。 普通のドーナツ五つくれ」
「お、気前いいな坊主! お前、名前はなんていうんだ?」
「俺は三年生のレルガって言いますよろしくお願いします」
「俺はドーゼル。 ただのドーナツ屋だぜ!」
レルガの挨拶にドーナツ屋の店主ドーゼルは笑った。
「えっといくらですか?」
「五百ポイントだ」
「端末出しますね?」
レルガはドーナツポケットから端末を取り出して、精算機にかざした。
「おっ! 毎度あり! でも本当に金貨は一日一枚にしとけよ? 一日にたくさん食べた奴の末路は恐ろしいって聞くからな」
そう言ってドーナツを渡しながら、ドーゼルは目を細めて再度女神の金貨について忠告して来た。
「ありがとうございますドーゼルさん」
「いいって事よ。 あ、でも女神の金貨を狙って奴らもいるからな。 気をつけろよ。 坊主達!」
「はい!」
そう言ってレルガ達はドーゼルと別れた。
「う、うぅぅぅぅ金貨! 金かぁァァァァァァもっともっと金貨が欲しいぃぃぃぃぃぃ!!」
クヤルの街の路地裏で一人の男が歩く。
地面にはマフィアの構成員や賢者師団の一員の死体が転がっていた。
「はぁはぁ。 金貨! 金貨のにぉぃぃぃダァ!!」
その男は金貨を求める捕食者の目をしていた。