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第一章2


ヤス目線


ある日の昼休憩。


「でさ、昨日のテレビがさ!」


「あ!それウチも見た!面白かったよね!」


いつものように昼飯の自前弁当を広げて食べようとしていたら、いつの間にか鬱陶しいカップル二人に捕まっていた。


「説明辛辣過ぎない!?」


「なんで俺はお前らカップルの昼飯に巻き込まれてんだよ…?」


「今度は普通に聞いてきた!?」


いや、実際に口に出したのは一回だけなんだが。


「顔見たら分かるっての……。」


「へぇ……。」


確かに俺も、付き合いが長いだけあってコイツが何を考えているのかは顔を見れば大体分かる。


でもコイツに見破られんのも分かりやすいみたいで癪だな。


「辛辣過ぎない!?ねぇ、絶対悪いように考えてるよな!?」


「さぁ……どうだろうな。


…それよりお前らせっかくまたヨリを戻したってのにどうしたんだよ?」


「良いだろ?たまには皆で食べた方が楽しいって。


な、美波?」


「うんうん、中川君とはまだそんな話した事無かったと思うしこの機会にウチとも仲良くしてほしいな。」


「なんってったって俺の彼女だもんな!」


「え、うん……。」


ドヤ顔でふんぞり返る春樹に苦笑いの沢辺。


「えwちょw反応悪くないw?」


「いや間違いではないんじゃけど……ね?」


「あぁ 、コイツ持ち上げるとすぐ調子に乗るからな。」


「辛辣が過ぎるw」


「うーんまぁ……。」


「否定してくれない!?」


「まぁでも気持ちはもう変わらないから、ね?」


「なんかフォローされた!?」


気持ちは変わらない、ね。


コイツら……本当去年までのはなんだったのかってくらい態度変わってんな。


今からちょうど一年前ぐらい。


この世の終わりみたいな顔で机に突っ伏していた春樹。


そしてこれまでは毎日の様に春樹のいる教室に通っていた沢辺が、急に全く寄り付かなくなった事。


そんな姿を直に見てたら、二人が喧嘩でもしたんだなってぐらいすぐに分かった。


まぁ、実際にはそれよりも状況は面倒な事になっていて、二人は喧嘩別れをしたらしかった。


話を聞けば聞くほど思うが、恋愛ってのはどうにも面倒な物らしい。


ただお互いがお互いを好き合ってれば良いってだけじゃ駄目みたいだ。


コイツらの場合で言うと、春樹は本当は沢辺の事が好きだけどそれが恋だと気付いてないが故に意地になっていた。


沢辺は沢辺でまだ春樹が好きな癖に消極的な春樹と付き合うのが辛いからと身を引いていて。


結局春樹は気持ちに気付いたものの、今度はライバルの幼なじみには勝てないからと言って身を引こうとした。


お互い好きな癖にお互いがお互いの為に…いや実際は自身の為でもあるか。


そうやって身を引いてモヤモヤし合ってる様を見ているとこっちまでモヤモヤしてくる。


組み合わさる筈のパズルがすり減って重ならなくなるみたいなむず痒さ。


確かに同じパーツで、ついこないだまで組み合わさっていた筈なのに。


まぁ、今は新品でも買い直したのかって程元通りな訳だが。


本当……なんで喧嘩なんかしたんだコイツら……。


でもまぁ、コイツらの場合喧嘩して良かった事もあった。


それはお互いがお互いに気付いていなかった気持ちに気付けた事。


多分これは喧嘩する事でお互いを一度遠くから見る事が出来たからだろう。


紆余曲折あった訳だが、なんだかんだコイツらはお互いに思い直してまた結ばれたのだ。


喧嘩別れもある意味過程の一つだったのかもしれないと思うくらいには今は前よりも上手くやっているみたいである。


「もう春樹ってば、ほっぺたにご飯ついとるってば!」


「あはは、ごめんごめん!」


「はい、取れた!」


本当……鬱陶しいくらいに……。


思わず深いため息が出る。


「なんか露骨にため息吐きやがった!?」


「そんだけ宜しくやってんなら俺はもういらねぇだろ。


二人で仲良く食ってろよ。」


しっしと手で追い払おうとするも春樹は全く動こうとしない。


「いや……でもあのさ!」


どころか食い下がってくる。


「何企んでんだよ?お前。」


「うっ……別に企んでなんか……。」


「本当にか?」


そう言って睨むと、春樹は渋々と言った表情で口を開く。


「だ、だってさ。


お前、俺が居なかったらまた一人になるだろ?


ほっとけねぇよ……。」


気まずそうにそう言う。


「俺は別に一人でも構わない。


群れるのは嫌いなんだ。


めんどくせぇし。」


「そう言うなって。


なんならお前も彼女を作ってみたらどうだ?


俺と美波みたいに!な?」


「うん…?」


「さっきから反応微妙過ぎない!?」


「だってその…そう言うのちょっと恥ずかしいし…。」


本当なんで喧嘩したんだよお前ら……。


「大体友達作るのもめんどくせぇって言ってるやつが恋人なんか作る訳ねぇだろ。」


「あ、うん……言っといてなんだけどちょっとヤスが恋人作ってキャッキャウフフしてるとこ想像してたら似合わないなって思ってしまった。」


「……殴っていいか?」


「ごめんなさい!?」


「まぁ、でもさ。


中川君も運命の人に出会ったら考えが変わるかもしれんよ?」


「運命の人……ね。 」


「そうそう俺達みたいにな!」


「えへへ……。」


照れ臭そうに顔を赤らめて自分の頭をさする沢辺。


そのノリまだやんのかよ……。


内心でゲンナリしながらも思う。


小さな頃からやたらと絡んで来るコイツはたまにめんどくさい。


いや、実際いつもめんどくさい訳だが……。


幼馴染の春樹とは、かれこれ十数年の付き合いだ。


小さい頃から無口でどこか冷めてると言われていた俺と真逆で、鬱陶しいくらいにヤンチャで明るく、友達も多い。


性格も趣味だって違った俺達だったがどう言う訳かよく俺に絡んできた。


「ヤス!一緒に虫取りに行こうぜ!」


「……暑いから嫌だ。 」


「暑いから行くんだろ?」


「馬鹿じゃねぇの……?」


そんなこんなで俺はなんだかんだコイツとよく遊んだ。


ヤンチャ故にか、よく怪我をするコイツに絆創膏を貼ってやったのも一度や二度の話じゃない。


唯一コイツと趣味が合ってた戦隊ヒーローのヒーローごっこをやってはレッド役をめぐって喧嘩になったりもしたが、喧嘩が終わった後にはなんだかんだ笑い合う。


俺とアイツの関係はいつも大体そんな感じだった。


それから母さんが死んだ後、アイツはそれまで以上に俺に構ってくるようになった。


「なぁヤス!今日さ!」


「おはよう!一緒に行こうぜ!」


「それでさぁあのテレビでさ!」


「よーし一緒に帰ろうぜ!」


「そんじゃ、また明日な!」


おはようからおやすみまで、飽きもせずに、だ。


「うぜぇ……。」


「酷くね……?」


必然的に俺はコイツといる時間が長くなる訳だが、春樹は俺と違ってその明るさとどこか憎めない人懐っこさで俺以外の友達も出来ていたし、高校になると彼女まで出来ていた。


その都度もうこいつも絡んで来ないだろうと思ったりした。


でも、だ。


「あぁ、悪い。


今日はヤスと帰るからさ。」


「昼飯、ヤスも一緒で良い?


出来れば仲良くしてくんね?」


挙句の果てには、二年になると彼女そっちのけで俺と飯を食おうとしてみたり。


と言う具合に、コイツは不気味なぐらいに俺との関わりを優先しようとした。


ある日、それが気になって聞いた事もあった。


「お前なぁ、なんでそんなに俺を巻き込もうとすんだよ。」


「いや……巻き込むって……別に良いだろ?


お前も皆と仲良くすればさ。」


「俺は一人が好きなんだ。


群れるのは嫌いなんだよ。」


「またそんな事言って。


だからほっとけねぇんだって。」


「意味分かんねぇっつの。」


いつものように軽くあしらうと、春樹はため息を吐いて肩を竦める。


「まぁ……ヤスは分からないか……。」


「なんだよ。」


「べっつにー?」


「うざっ。」


「はうっ!?」


春樹が彼女と別れてからまたヨリを戻すまでの期間では、あいつの周りだけじゃなく俺自身にも色んな事があった。


合宿では夜にトランプしたし、夏休みにはカラオケに行ったりもした。


ん?俺どっちも寝落ちしたんだっけか。


体育祭もなんだかんだ本気出したっけか。


そのせいで久しぶりに体調を崩した時には春樹だけじゃなく小池が見舞いに来たりとかもした。


そう言うのはまぁあいつのおかげ……いや、あいつのせいだな。


普通に面倒事に巻き込まれただけだわ……。


でもなんだかんだ悪くなかったのかもしれない。


まだ母さんが生きていた頃。


体が弱かった母さんを助けるために俺は自分に出来る色んな事をした。


部屋の掃除も洗濯も、料理だってそれなりには覚えた。


でも今はその母さんは居ない。


なんだかんだ俺は、そのやたらと……鬱陶しいぐらいに絡んで来る頼りない幼馴染と母さんを重ねていたのかもしれない。


面倒事を押し付けられたと思っておいて、結局ここ最近過ごした時間はなんだかんだ悪くなかったのかもしれないと思える。


でももうあいつも大丈夫だろう。


俺が何かをする必要はない。


たまに背中を蹴り飛ばすくらいで充分だろう。


あんなに大事だった母さんを失ったあの日から俺は、守りきれず最後に泣かせてしまった後悔と罪悪感。



コイツの面倒を見ているとそんな思いが少しは紛れているような気がした。


そうして誰かを支える事で、あの日を境に無くなったはずだった存在意義が少しは取り戻せたような気がするからだ。


でもそれも無くなった今、俺の存在意義はなんなのだろう。

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