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第三章3


摩耶目線。


ある日の帰り道。


今日の天気が夕方から雨だと言うのは、朝占いチェックの為に見てるニュース番組の天気予報で知っていた。


「静、帰ろ。」


流石にこの雨じゃ寄り道もめんどうかな。


そんな事を考え、今日は早く帰ろうと静を誘う。


「ご、ごめんね、今日私日直だから……。


雨酷いし待たせちゃうのも悪いから先に帰ってて!」


申し訳なさそうに頭を下げる静。


「そ、そう…分かった。


それじゃ、また明日。」


静と別れ、下駄箱に向かう。


ローファーに履き替え、持って来ていたお気に入りの傘を広げる。


白地に水玉模様。


その下にはまるで水玉の雨の下を歩くように小さな黒猫の絵が描かれていてとても可愛いらしいデザイン。


誕生日に友達にもらった!と中学時代お母さんに嘘ついて自分で買ったやつだ。


うん、やめよう……悲しくなってきた……。


少し大きめな傘をクルクル回しながら、ズンズンと歩く。


今日は晩御飯何にしよう。


冷蔵庫、何があったっけ。


そんな事を考えながらいつもの帰り道をそのまま何事も無く進んでいた所で、ふと、進行方向に見慣れた人影が立ってい るのが見えた。


「あ!敵!」


「またそれかよ……。」


再び呆れられる。


「だ、だってしょうがないじゃない。


あれからその……どう接して良いか分からなかったし……。」


「別に……普通にすりゃいいじゃねぇか。」


「あ、あんたがそれで良いなら……別に良いけど……ってそれより!


どうしたのよ、まさかこの雨なのに傘忘れた訳?」


「見ての通りだよ。


折り畳みは持ってたがロッカーに放り込んだままだから今は無い。」


「馬鹿じゃないの!?


今日夕方から降るって天気予報で言ってたじゃない!」


「そんなの知らん。


俺は基本テレビを見ない。」


「なら新聞……なんか見るわけないか……テレビ見ないくらいだし……。


でもどうすんのよ?」


「別に、適当な頃合を見て走って帰る。


それだけだ。」


「いやいや…今日はこれからずっと降るんだから。」


「へぇーそうか。」


「いや……へぇーそうかって。」


「俺は俺でどうにかする。


お前もさっさと帰れ。」


「何それ…。」


「いや……だから敵の相手してる暇があったら濡れる前にさっさと帰れって。」


言いながら手をしっしっと上下に振る中川。


相変わらずムカつく態度だ。


お礼だとか言ってブラックコーヒーを突き付けるくらいなら、そんなのいらないから普段からもっと優しくしてくれれば良いのに。


とは言えコイツはこれがいつも通りだ。


うん、言っといてあれだけど露骨に優しいコイツとか普通にキモイわ……。


「なんか失礼な事考えてんだろ……。」


「べっ……!別に何も!!」


体育祭のクラス対抗リレーで、バトンを渡された時。


練習の時はあんなにムカついていたはずなのに、コイツのあの言葉に私は言葉を失った。


「よくやった。


後は任せろ。」


その一言に、強く胸が高鳴った。


確かに口が悪いかもしれない。


でも本当はそんなに悪いやつでもないのかもしれないと思った。


いや、実際口は悪いし、お礼とか言ってブラックコーヒー押し付けるような奴だけど!


でもそれからだ。


コイツに興味が湧いたのは。


お見舞いに行って、その時に自分と同じ……と言っても経緯も、今の状態も全然違うけど片親だと知って。


それなのに私なんかより精一杯上手くやれてて、尊敬したんじゃなかったか。


でもあいつが静の応援じゃなくて佐藤の味方をするから……なんとなく……敵だって。


そうじゃないじゃん……最初は敵じゃなくて私なんかと全然違うけど静にも話せなかった過去を知ってもらいたいって思えるような【仲間】だってそう思ったんじゃん。


そう、仲間、仲間だ。


だからこれだってただのその……。


「んっ!」


持っていた傘を中川に突き付ける。


「なんの真似だよ……。」


「み、見れば分かるでしょ?


傘、入れてあげるからあんた持ちなさいよ。」


「いや……なんでだよ……?」


「その……悪かったわよ。


さっきも言ったけど今は敵だなんて思ってない。」


「へぇ…?」


「その、仲間……でしょ……?」


「はぁ……?」


「び、微妙な反応すんな!!言った私が恥ずかしくなるじゃない!」


「俺の事は気にすんなって言ってんだろ?


あ、コケんなよ。


それだけは言っとく。」


「コケないわよ!バカにすんな!」


「なら……。」


「あたしと一緒に帰るのが……そんなに嫌な訳……?」


「っ……。」


あれ、なんで……?


コイツは相変わらずムカつく。


でもコイツにこうして突き放されると、なんだか突然とても寂しくなってきた。


昨日だって……静に出会う前まではずっと一人だったのに……。


どうしようもなく寂しくて、ただ苦しい。


溢れ落ちる涙は、降り注ぐ雨では隠しきれない程にとめどなく零れ落ちる。


「ちょ、なんで泣いてんだよ!」


「私を……一人にしないでよ……!」


こんな事、言うつもりはなかったのに。


ただ敵じゃなくて……今度は仲間として……仲直りしたかっただけなのに。


涙まで流しちゃって、本当最悪。


あぁあ、余計嫌われちゃったかな。


それがまた寂しく思えて、また涙が零れ落ちる。


諦めて背中を向け、歩きだそうとすると、不意に傘を掴まれる。


「ったく……。」


「何よ……?」


泣き顔をいつまでも見られたくなくて前を向いたまま悪態をつく。


「……今日だけだぞ。」


「別に頼んでないし……。」


「めんどくせぇなぁ……。」


「あんたが言うな。」


言いながら傘から手を離すと、それを持った中川が自然に隣に並ぶ。


突然の至近距離に、また胸が高鳴る。


なんだか自分がおかしい。


なんで私……コイツ相手にこんなにドキドキしてるんだろうか。




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