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「どうしたのミアちゃん!?」
半泣きでマオの上着を着て診療所に帰ってきたミアを見て、また何か不運な目にあったのかとシロが慌てて出迎えた。
そもそもこの買い物自体が、そろそろ壊れそうだったポットが偶々というか当然というかミアが使ったタイミングで壊れてしまったという不運がための、黒ひげ罰ゲーム的お使いだったというのは余談である。
「マ、マオに聞いてくださいぃぃ!」
ミアはそう言うと、真っ赤な顔で自室に走って行ってしまった。
シロがぽかんとしてミアの走り去った後を見つめていると、シロの後ろから顔を出したウツミがミアの陰にいたマオが少年を背負っていることに気がついた。
「ふむ、とりあえずベッドに寝かせてやりな」
少年をベッドに寝かせてウツミが容体を確認したところ、外傷や異常はなかったが軽い睡眠作用のある薬草の匂いと、それに隠れるように僅かに毒性のある薬草の匂いがすることに気づいた。
ウツミはさり気なく治癒術を使い少年から毒を取り除き、睡眠作用の方は特に害の残るものではなかった為そのままにして少年を寝かせておくことにした。
待合室の方に移動したタイミングでちょうどミアも着替えて戻ってきたので、ウツミは2人に事情を聞いた。
「んで、あいつは?」
「それが、路地裏に倒れてたんです」
「路地裏? どこ?」
「アズサさんの店から帰る途中の右にある、石畳の」
「石畳……ああ、あそこか」
言われた場所がすぐにわかったらしいウツミが何故か驚いたような顔をしたため、マオは首を傾げた。
「オレがウツミさんに拾われた場所ですね!」
「懐かしいな」
「「は?」」
ほのぼのと話す2人の言葉の意味が理解出来ず、マオとミアは疑問の声を上げ固まってしまう。
「おー、見事なシンクロ。やっぱ双子だな」
「2人ともどうしたの?」
その反応に変なところで感心しているウツミと不思議そうに首を傾げるシロ。
自分たちの発言のおかしさに全く気付いていない2人に、マオが混乱した頭でなんとか口を開く。
「あの、聞き間違いであってほしいんですけど『拾われた』って言いました?」
「ん? おー、言ったな。あの少年と一緒で、路地裏に落ちてたから拾って帰ったんだ」
「えっと……ここってシロ先生の診療所じゃなかったんですか?」
「なんだ。まだそう思ってたのか」
「それは……」
ウツミに聞かれてマオとミアはサッと目を逸らした。
この診療所で働き始めてふた月が経っていたが、2人は働き始めてから1日もかからず実態を理解した。
指示を出すのはウツミ、診察をするのもウツミ、治療をするのもウツミ、薬を作るのもウツミとなればたとえ診療所で働いたことなどなくとも理解する。
「正直何も出来ないシロ先生が自分の診療所を回すために仕事の出来るウツミさんを雇ってるんだと思ってました」
「なるほど、そういう考え方もあるのか」
ミアのぶっちゃけた発言に、何もできない自覚のあるシロは気を悪くした様子もなく、照れたようにえへへと笑っていた。
「あのね、本当はオレ医者じゃないんだ」
「「それはなんとなく最初からわかってました」」
「えっ、最初から!? ウツミさん、やっぱりこの設定無理があるんですよ!」
「大丈夫だ、問題ないさ」
「えっと、つまり……?」
マオが戸惑いながら先を促す。
「ああ、えっと、つまりね? この診療所はウツミさんのもので、オレはただの居候なんだ」
「じゃあなんで医者のフリなんかしてるんですか?」
「ウツミさんに頼まれたからだよ」
「なんでそんなこと……」
「そりゃ俺よりシロの方が感じがいいからだろ?」
「そう……ですね?」
「ミア! 流されないで! 明らかにオカシイから!!」
「失礼な。どこがオカシイっていうんだ」
「全部だよ!!」
「ついでに言うとオレ記憶喪失なんだよね」
「情報過多が過ぎる!」
思ってもいない角度の暴力のような情報の連続にマオが頭を抱えて叫ぶ。
その様子を面白そうに眺めていたウツミだったが、ふと立ち上がって歩き出した。
それをきょとんとした顔で眺めていた3人だったが、静かになったことによってベッドの方から呻き声が聞こえ慌ててウツミに続いて男の子の元に向かった。




