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「それで、この子はどうしたのかな?」
女の子を寝かせた後、シロが青い顔をしている男の子に優しく問いかけた。
ウツミからシロへの3つ目の頼みごとは、シロに患者の対応をしてほしいというものだった。
曰くシロは顔がいいし、自分よりも愛想もいいからその方がこの診療所の評判が上がるだろう、俺はシロの助手をする、とのこと。
これにはさすがにシロも無理だと言って断ろうとしたのだが、いろいろ言いくるめられて結局は頷いてしまった。
今ではすっかりシロが『診療所のお医者さん』として認識されている。
そんなわけでシロが男の子から話を聞き、その話を聞きながらウツミが女の子を診察している。
シロに医療の知識などないため、当然ながら診察、治療はウツミが行う。
男の子はウツミが女の子の目を開きながら至近距離で覗き込んでいるのを気にしながらシロに説明を始めた。
1時間くらい前から彼女が調子が悪そうにしており、それはだんだん悪化して遂には倒れてしまったため慌ててここまで連れてきたということ。
名前は女の子がミア、男の子がマオ。
自分たちは双子の兄妹で2人とも14歳、家族はお互いしかいないから毎日働いて暮らしているということ。
今は住み込みで農家の手伝いをしており、今日も朝から働いていたということ。
「農家? どこの?」
「えと、アライさんのとこです」
「ああ、じゃあ南の方の」
「はい、ヒノウシが見えるとこです」
「ああ、あそこかぁ」
ウツミとマオの話を聞いて、シロは先ほどのことを思い出した。
平原のすぐ側には柵で囲まれた大きな畑があり、たくさんの人が働いていた。その中に彼らもいたのだろう。
シロがそんなことを考えていると、目の前のマオが悲鳴を上げてウツミの方に走っていった。
驚いて振り向くと、マオがウツミとミアを必死で引き離していた。
「ミアに何してるんですか!?」
「診察だが」
「嘘だ! 何で診察でスカートの中を覗き込む必要があるんだよ!?」
「必要あるんだよ。先生」
ウツミの態度に苦笑しながら、シロは返事をしながら彼らに近づいた。
ちなみに先生、というのはシロのことらしい。ウツミは患者の前ではシロをそう呼ぶ。曰く自分は助手だからとのことらしいが、シロは未だにそう呼ばれることに違和感しかない。
「……おい」
ウツミが再びミアのスカートに手をかけると、マオが睨みながらその腕を掴んで制止した。
ウツミはその様子に呆れながら、お前も見てみろと言って渋るマオの手を剥がして太ももの付け根あたりを指差した。
そこには3つの小さな赤い点が正三角形についていた。
「これは?」
「ヒノウシに寄生するダニに噛まれた跡だな。この格好ならここを噛まれることが多い」
「そうなんですね。………………あの、すいませんでした」
「気にするな」
無事に誤解はとけたようだが、マオはまだモヤッとした顔をしている。理由が分かっても兄としてウツミの妹への行動が受け入れ難いのだろう。
「先生、ミアは大丈夫なんですか?」
不安そうな顔をしてシロに向かって聞いてくるマオに、シロはちらりとウツミが頷くのを確認して笑顔で答えた。
「大丈夫だよ。とりあえず治療についてウツミさんから説明するね」
シロの答えを聞いてパッと顔を輝かせたマオだったが、ウツミから、と言った途端に微妙な顔になり少し間を置いたあと頷いた。
「ところでお前の方は大丈夫か?」
「オレは何ともないです」
「ならいい。まあ本来噛まれないものだしなぁ」
「え?」
「元々ウシに寄生してるもんだからな、基本人は噛まれない。が、ごく稀に噛まれる人間がいるんだよ」
ウツミの話を聞いて、マオは傷ついたような顔をした。
「……ミアは昔から半端なく運が悪いんです。そのせいで冗談じゃなく死にかけたことが何度かあって。逆にオレはわりと運が良くて、だからミアのことはオレが守らなきゃって出来るだけ一緒にいたんです。でもこんなことになって、結局守れなくて、苦しめて。……きっとオレがミアの分の運まで奪って生まれちゃったせいなんでしょうね」
ウツミはマオの話を無表情で静かに聞いていたが、顎に手をあてて少し考えた後口を開いた。
「世の中にはどうしようもないことなんていっぱいある。『運』や『運命』なんてその最たる例だ。お前が妹の運を奪ったなんてのはただのお前の被害妄想だ。それより確かなのは、お前がいたおかげであの子は今日まで死んでなくて、今もここに来ることが出来たっていう事実だ。よく頑張ったな、お兄ちゃん」
ウツミの話を聞いて、マオは顔をくしゃりと歪め声を殺して泣いた。




