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「シロくん、落ち着いて。どういうこと?」
カガミだけではなくマオとミアも戸惑ってシロを見た。
シロは迷うように視線を彷徨わせたが、それも一瞬の事で覚悟を決めたように口を開いた。
「オレは、カグラの当主がこの国で買った奴隷の母に手を付けて産まれた子供です。ここに来る前は、カグラの家で奴隷として働いていました」
衝撃の告白に、マオもミアも言葉を失う。カガミは真剣な顔で話の続きを促した。
「母が生きていた頃は、母と一緒に当主と過ごすこともありました。当主は母の事を気に入ってましたから。その時にいつも言っていたんです。『戦争はあの馬鹿どものいい目くらましになる。今度こそ何としてでも手に入れろ。あの美しく便利な青は私の手にあるのが相応しい』って。その時は何の話か分からなかったし、その話自体忘れてたんですけど、この前のカガミさんの話を聞いてそのことを思い出したんです」
シロの言葉に、カガミとミアの脳裏に青を纏ったウツミの姿が浮かぶ。
「だから今回の襲撃は死者を出さなかったってわけか。治癒術師であれ死者の蘇生は出来ない。どこまであっちが治癒術の情報を持ってるかは知らないけれど、最近出て来なくなったウツミを引っ張り出すためには普通の治療じゃあ間に合わないような怪我人を大量に作るのが手っ取り早い」
「な、ならウツミさんを軍に置いておくのは危険なんじゃ……」
「いいえ。いくら居場所が分かっても軍人がうじゃうじゃいる軍の施設内。そう簡単に手出しは出来ないわ。それにもし今ウツミを狙っている輩が影で機会を伺っているとすれば、こちらに帰す方がよっぽど危険よ」
カガミの話を聞いて3人は不安そうな顔で口を引き結んでいる。
その様子に、カガミは安心させるように柔らかく微笑んだ。
「心配しなくても大丈夫よ。軍の一番のお偉いさんはウツミの味方だし、現場に出る軍人の大半は『戦場の青い天使』の崇拝者だしね」
最後はいたずらっぽく笑って言ったカガミの言葉で、緊張していた部屋の空気が少しだけ緩んだ。
それを感じ取ったカガミが真剣な顔をしてシロを見たと思ったら、深々と頭を下げたのでシロはとても驚いた。
「情報提供感謝致します。お陰で最小限の犠牲と労力で対処出来る」
「え! え、えぇと、どういたしまして?」
わたわたとしながら返事をしたシロの様子を満足そうに眺めてから、カガミは「対策を強化しなければならないので」とあっという間に診療所を後にした。
診療所内に沈黙が落ちる。
最初に口を開いたのはシロだった。
「ごめんね、2人とも」
「? 何がですか?」
「記憶喪失って嘘ついてて。本当は……」
「シロ先生、ストップ!」
事情を話そうとしたところでマオに言葉を遮られ、シロは素直に口を閉ざした。
「もしシロ先生が話したくないことなら、無理に話さなくていいですよ」
「そうです! それに謝る必要もないです! 嘘ならウツミさんの方が絶対いっぱいついてますし!」
「確かに。オレシロ先生よりよっぽどウツミさんに謝ってほしいことのが多いわ」
「帰ってきたらまず心配かけたことについても謝ってもらわなきゃね!」
2人の暖かい気遣いに、シロは思わず泣いてしまいそうになるのを堪えて、ズッと洟を啜った。
「あ、でもすいません、1個だけ。記憶喪失じゃないって話、ウツミさんには黙ってた方がいいんですか?」
「ううん、ウツミさんが帰ってきたら、ちゃんと話すよ。その時にマオくんとミアちゃんも一緒に聞いてくれる?」
シロの問いかけに、2人は揃って頷いた。




