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マルメルモックの街医者  作者: はねうさぎ
第三話:青い天使
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 ノックをすると、バタバタと騒がしい足音の後勢いよく休診の札が下げられた扉が開いてシロが顔を出した。


「あ、カガミさん……ウツミさんは?」

「そのことについて説明しに来たの。ちょっと長くなるから、中に入れてもらってもいいかしら?」

「あ、はい。どうぞ」


 カガミの言葉に少し不安そうにしながらも、シロはカガミを待合室へと案内した。

 待合室にはマオとミアもおり、ミアは先程と違いいつも通りのカガミの様子を見てホッとしたようだった。


「皆ここにいるのね」

「ウツミさんがいつ帰ってくるか聞いていなかったので」

「ああ、そうだったわね。ごめんなさい、ちょっと私も冷静じゃなかったみたい」

「あ、いえ! いつもなら診療所が開いてる時間ですし!」


 ミアとカガミが話していると、お茶を淹れに行っていたシロが戻ってきてカガミの前にそれを置いた。

 カガミはお礼を言ってお茶をひとくち飲むと、シロが座ったのを確認してから口を開いた。


「ウツミから頼まれたから話すけれど、今から話すことは軍外には情報規制のかかる内容よ。外部に漏らせば処罰の対象になるからくれぐれも注意してね」

「えーっと……それはカガミさんはオレらに話して大丈夫なんですか?」

「良くはないわね。けれど貴方たちはウツミの関係者なのだから、事情を知る権利があるわ」


 カガミの言葉に3人は真剣な顔で続きを促した。


「ダンテドールとの国境を守っていた軍の駐留地が襲撃を受けたの。死人は出なかったけれど、結構な数の怪我人が出たわ。その怪我人の対応をウツミにお願いしたの。このままじゃ戦争になりかねなかったから」

「カガミさんはウツミさんに『戦争を回避するために来て欲しい』って言ってましたけど……怪我が治ったとしても襲撃を受けた事実は残りますよね?」


 不安そうに言うミアに、カガミは困った顔をして少し悩んだ後、まあいいかと呟いて口を開いた。


「駐留地を襲撃したのはマルメルモックの人間だったの」

「え?」

「恐らく向こうで奴隷として買われた人間だとは思うの。けれど本人がこの国の人間だと言っているし、向こうと繋がるような証拠もないの。だから怪我人もいなくなってしまった現状では上も下手な事は出来ないってわけ」

「うーん……それって解決したって言えないんじゃ……」

「なんだかモヤっとします……」


 カガミの話を聞いて、マオとミアは複雑そうな顔をした。


「表向きではこれで終わりだけど、ちゃんと信頼できる上司が動いてくれる予定だから安心して? 首謀者の見当はついてるし、あの人もウツミに頼られて張り切ってたしね」

「そうだ、そのウツミさんは?」

「……ごめんなさいね」


 ウツミがここに居ないことをマオが尋ねると、カガミは申し訳なさそうにそう言った。




 突然ぐらりと傾いたウツミの体をカガミが咄嗟に支えた。

 慌てて確認したウツミの顔は少し疲労の色が浮かんでいたが、呼吸は正常で微かな寝息が聞こえホッと息を吐く。


「元帥、これはどういうことでしょうか?」

「心配するな、寝ているだけだ。医務室に連れて行くからお前もついてこい」


 そう言うと、ヤツイチはひょいとウツミを抱え、一緒に連れてきていた部下にここのことを任せて歩き出した為カガミもその後に続いた。


 ヤツイチが向かったのは医務室ではなく、かつてウツミが使っていた部屋だった。

 まるで必要になるのが分かっていたかのように整えられていた部屋に顔を顰めたカガミに気づいて、ヤツイチが苦笑する。


「この部屋を整えていたのはあくまで念のためだ。使わずに済むのが一番だったんだがな」

「……ウツミは大丈夫なんですか?」

「さっきも言ったろ? 力の使い過ぎで疲れてただ寝てるだけだ。つっても、ああ言ってたってことは数日は起きないだろうがな」

「数日……」

「治癒術のこと、ウツミから何か聞いてるか?」

「いえ、何も……」

「俺もそんな詳しい訳じゃないがな、こいつの親父の話じゃ術を使うには相応の体力を使うらしい。大きな力を使う程その対価は大きく、過ぎた力を使おうとすりゃ死ぬこともあるそうだ」


 死ぬこともあると聞いてサッと顔を蒼褪めさせたカガミに、安心させるようにヤツイチが笑ってポンとその頭を撫でた。


「心配しなくても死にゃしねーよ。こいつの親父なんて戦場中の瀕死の人間を治療してもピンピンしてたしな。そいつが治癒術の腕は自分よりウツミの方が上だって言ってたんだ。まあただの親バカだったのかもしれねぇが……」


 ヤツイチの話を聞きながら、カガミはベッドに横たわるウツミを見た。ヤツイチの言う通り死にそうな感じはなく、ただ疲れて寝ているだけのようだ。

 カガミと同じようにヤツイチもウツミを見ると、こちらは呆れた顔をする。


「こいつは昔から頭を使うのは好きだったが運動は嫌いで、そのせいで体力がない。この様子じゃ今は全く運動してねーな」

「そう言えば軍にいた頃もよく体力育成プログラムはサボってましたね。軍事会議には関係ないものまで参加していたくせに」

「カガミ、お前ウツミにこいつの従業員たちへの説明頼まれてたよな? ついでに軍の体力育成プログラムも教えてこいつにやらせるように言っとけ」

「一応言っときますけど、無駄だと思いますよ。それよりその部外者への説明ですが、どこまで許可いただけますでしょうか?」

「こいつの関係者だ。お前が必要だと思えば全て話して構わん。但し、取り扱いについてはちゃんと釘を刺しておけ」

「了解しました」




 カガミはヤツイチから聞いた治癒術の代償と今のウツミの状態について話した。


「ということで、ウツミは暫くこちらで預かるわ。何日かかるかは分からないけれど、目が覚めたらちゃんとこちらに帰すから安心して」


 カガミがそう締め括ると、マオとミアは心配そうにしながらも頷いた。

 しかしシロだけは眉間に皺を寄せたまま何事か考え込んでおり、心なしかその顔色は悪い。


「カガミさん、もしかして、なんですけど…………見当がついているっていうその首謀者って、『カグラ』って家ですか?」

「知ってるの?」


 シロが首謀者の名前を言い当てたことにカガミが目を丸くしていると、シロが切羽詰まった様子で叫んだ。


「ウツミさんを守って! アイツらの狙いは戦争じゃない! ウツミさんだ!!」


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