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「すっごいおっきくてすっごい可愛かったです!」
無事にヒノウシを見ることが出来たらしいシロは、興奮冷めやらぬままに診療所まで走って帰ってきたらしい。
この感動をウツミに早く伝えねばと思ったそうだ。
「シロは牛が好きなのか?」
「牛も好きです! けど動物はだいたい好きです! 特に好きなのはティノサウルスですね! いつか会ってみたいです!」
「うん? そうか」
「はい!」
ティノサウルスは絶滅しているので会えることはないのだが、ウツミは言葉を呑み込んだ。サンタクロースに会いたいと瞳を輝かせる子供の夢は壊してはいけない。それと同じだ。
「行かせてくれてありがとうございました! 患者さんは来なかったですか?」
「どういたしまして。あぁ、最近すっかり暖かくなってきたしな」
春のこの診療所は基本的に暇だ。それはこの診療所の場所が関係している。
この国は城を中心として、その周囲に街が広がっている。
城から近い内周には王侯貴族や城勤めの人間、大商人など比較的裕福な人間が住み、その周りはぐるりと石壁に囲まれている。石壁を挟んで外周にはそれ以外の比較的貧しい人間が住んでおり、この診療所はその外周にある。
内周には城内を含めいくつか医療機関があるが、外周にはこの診療所と、城を挟んでちょうど反対側の診療所の2箇所しか医療機関がない。
内周と外周では広さも人口も外周の方が圧倒的に多いが、裕福ではない彼らはよほど酷くない限りは診療所に来ない。ちょっとした怪我や病気の治し方は心得ているのだ。
そのためこの診療所に来るのは自分たちではどうしようもなくなった重症者か、ちょっとした薬を買いに来るお客さんかのどちらかである。
寒い冬の間は風邪で訪れる患者もちらほらいるのだが、春になり暖かくなってくるとほぼ毎日が開店休業状態となる。
「……診療所、潰れないですよね?」
「患者が1人でもいる限り潰れないよ。安心しな」
シロには何故それで潰れないのか全く分からなかったが、ウツミがそう言うのならきっとそうなのだろうと思った。
「患者さんになっちゃうのはかわいそうだけど、診療所も潰れてほしくないので、常に1人元気な患者さんがいてほしいです」
「元気であれば患者ではないな。まあもし患者が1人もいなくなって診療所が潰れたとしてもまた何か別のことを始めればいいさ。シロを養うくらい問題ないよ」
「ならその時はオレも手伝います」
「そうだな。頼りにしてる」
2人がのんびりと話していると、外の階段を上がる足音が聞こえてきた。
シロの時とは違う1段1段踏みしめるようなゆっくりした音に、シロは診療所の扉を開けて外を確認した。
「わ、わ、大丈夫!?」
階段を覗きこむと男の子がぐったりとした女の子を背負ってフラフラしながら階段を上がっていた。
2人とも同じくすんだ金髪で似たような顔立ちをしており、外で遊んでいたのか、服には葉っぱや土がついている。
シロは男の子が階段を上がりきったところで女の子を引き取り奥のベッドへ連れていった。




