2
カガミの話によると、国境を守っていた軍の駐留地が奇襲を受けたらしい。
幸いなことに死者は出ていないが重傷者多数。設備の被害も甚大だそうだ。
「上層部ではダンテドールへ報復をという声が高まっているわ」
「そりゃそうでしょう。開戦も時間の問題なんじゃないですか?」
「それがそうでもないの。奇襲を受けた駐留地と隣接する地のあちらの貴族は戦争推進派だし、私としては十中八九裏で手を引いているとは思うのだけど。証拠が無いのよ」
肩を竦めて言うカガミの言葉にウツミは怪訝な顔をする。
「証拠がない? ダンテドール人に襲撃を受けた。単純な上層部はその事実があれば十分だって言うでしょう?」
「その事実があれば、ね。襲撃者は全てマルメルモック人だったらしいわ」
「それはそれは。用意周到なことで」
「ええ全く。小賢しくて嫌になるわ。けど今回はそのおかげで即開戦にならなかったから助かっているのだけれど」
恐らく奴隷か何かを使ったのだろう。襲撃者は何人かは捕らえることが出来たが、何か弱みでも握られているのか「自分はこの国の人間で軍に恨みがあった」の一点張りらしい。
戦争は起こしたいが、開戦のきっかけはこちらの国の勘違いであり、自国は完全なる被害者であるとしたいのだろう。
その為上層部の意見も割れていて、今は膠着状態だという。
カガミがそこまで話したところでちょうど軍本部へ到着した。
カツカツと靴を鳴らして歩くカガミにすれ違う人たちが頭を下げた後、後ろに続くウツミを見て驚いた顔をする。
目的の会議室に到着すると、カガミはノックをして扉を開けた。
「失礼致します! 治癒術師を連れて参りました!」
カガミが良く通る声でそう伝えると、会議室の中がざわついた。
その大半が安堵や喜びの表情を浮かべているが、中には余計な事をという顔を隠しもしないものや一見喜んでいるように見えてその実不満なのがにじみ出ているものもいる。恐らく彼らは戦争推進派なのだろう。
「患者はどこに?」
「私が案内しよう」
問いかけに答えたのは、ウツミが軍に居た時にお世話になっていた上司だった。服装から今は軍のトップだと分かり少し驚くと、彼はニヤリと楽しそうに笑った。