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いつも通りの昼下がり。
流れていたゆったりとした空気を引き裂くように、慌てた様子のカガミが診療所に飛び込んできた。
「あれ、カガミさん久しぶりですね」
「ええ、悪いんだけど急いでいるの。ウツミはいる?」
ちょうど入り口の近くにいたミアがカガミに声をかけたが、カガミはそれにおざなりに返事をした後続けて尋ねた。
そんなカガミの態度を初めて見たミアは目を丸くしたが、何か緊急の用事なのだろうと察して直ぐに奥の部屋にウツミを呼びに行った。
「ウツミ、直ぐに私と一緒に来て欲しいの。説明は歩きながらするわ」
久しぶりに診療所へやって来たと思えば顔を見るなりそんなことを言うカガミに、ウツミは頷かずに顔を顰めた。
「騙そうとしても軍へは戻りませんよ」
「確かに来てもらいたいのは軍だけど、今回は連れ戻そうとしたりしないと約束するわ。戦争を回避するために貴方の力が必要なの」
真剣な顔で言うカガミの言葉にウツミは更に眉間の皺を深くしたが、ひとつため息を吐いた後ガシガシと頭を掻いた。
「分かりました。ただ準備をしてくるので少し待っていてください」
「ありがとう。恩に着るわ」
ホッとした様子のカガミを残して、ウツミは自室へと向かった。
「あの、聞いても大丈夫ですか? 戦争って……」
カガミと2人残されたミアがおずおずと尋ねると、幾分か落ち着いたカガミが安心させるように優しく微笑んだ。
「驚かせてごめんなさいね? けどウツミが来てくれるなら大丈夫。安心して」
答えになっていない返答に釈然としないものを感じながらも、それ以上聞くことも出来ずミアはこくりと頷いた。
「ところで、今日は2人しかいないの?」
「あ、いえ。シロ先生とマオは今薬草を摘みに出ているんです」
「へぇ、そうなのね。ミアちゃんは一緒に行かなかったの?」
「やー、私が行くといろいろと問題が起こるので」
「? そうなのね?」
以前マオと一緒に薬草を採りに行った際、昼間だったのにも関わらずオオカミに追い回されたことを思い出してミアは遠い目をした。
カガミがミアの様子に「これは聞いても大丈夫なやつかしら?」と悩んでいると、カガミが尋ねる前に診療所の扉が開きウツミが戻って来た。
戻って来たウツミは髪も目も服も青く、その色のせいかどこか神秘的な雰囲気がありミアは『戦場の青い天使』と呼ばれていたことに納得した。
「あら、懐かしいわね」
「軍に行くんでしょう? ちゃんと目くらまししとかないと後が大変ですから」
「ほぇー……ウツミさんまるで別人みたいですねー」
「それが狙いだからな。こんな目立つ色してりゃ、そっちに気を取られて顔なんて覚えてないもんだ。ミア、面倒くさいがちょっと行ってくるからあいつらへの説明と留守を頼む。あと開けてても誰も来ないとは思うが、一応俺が帰ってくるまでは診療所は閉めておいてくれ」
ウツミはミアが了承したのを確認すると、カガミと一緒に足早に診療所を後にした。