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「今日は患者さんが多かったですねー!」
最後の患者を見送って、ミアがふぃーと息を吐いた。
ミアの言う通りに今日は珍しく朝から患者が途絶えず、日課の午後のお茶もしていない。聞くところによるとどうやら畑にイノシシが入って来たらしく、その騒動で結構な数の怪我人が出たらしい。牡丹鍋は美味しかったとのこと。
「そうだね、オレもびっくりしちゃった。けど皆軽い怪我だったから安心したよ」
「マオとミアにはちょうどいい勉強になったな。今日教えたこと、ちゃんと覚えとけよ」
「はい。いつも自分でやってた処置とあんまり変わらなかったんでたぶん大丈夫だと思います」
「私も不運な事さえ起こらなければ大丈夫です!」
「わぁ、マオくんもミアちゃんも頼もしいなぁ。もうオレより立派な先生だね」
「「シロさん……」」
卑屈になるでもなくにこにこと事実として述べたシロに何と返してよいか分からず、ミアは慰めるような視線を送り、マオはそっと涙を拭った。
そんな会話をした日から早数日。日によって差はあれど、確実に以前よりも患者が増えた。
カガミが来た日もあったが、彼女は患者がいるのを見ると中には入らず、「頑張ってね」とだけ言って帰って行った。
患者とカガミには悪いが、シロにとってこの状況は都合がよく、このまま続いてほしいなぁとぼんやりと思った。
今日も今日とて患者は絶えない。
冬以外はいつも閑古鳥が鳴いていた診療所が異例の忙しさを見せ始めてから既に3週間が経っている。
患者は増えているが、大きな怪我や病気をした人はいない。
イノシシが出ただの新しく開拓を始めただの原因はいろいろあるようだが、それにしてもここ最近の人々の様子には何か裏があるとウツミは考えている。
皆尤もらしい理由を口にするが、怪我自体はこれまで自分で対処していただろう程度のものばかりであるし、そもそも聞いてもいないのにやけに詳しく経緯を話してくれる。そしてウツミが経過を見る為次回の診察の予約を入れると分かりやすくホッとした顔をするのだ。
おかしいのは分かるが、その原因は分からない。こういった大規模な不可解な出来事を起こしそうな人物で真っ先に思い浮かぶのはカガミだが、いつも「診療所なんてたたんで戻って来い」と言っている彼女に患者を増やすメリットはない。
マオとミアは診療所が潰れてしまう事を心配していたが、だからと言ってお金の大切さを知っている彼らがそんなことを人に頼むとは思えない。それに彼らなら仮に診療所が潰れたとしてもすぐに別の働き口を見つけて逞しく生きていけるだろう。
シロについては、彼は診療所が無くなることを心配はしているものの、同時にウツミの「1人でも患者がいる限り潰れない」という言葉を信じているので患者を増やす理由がない。それに過去に「患者さんになるのはかわいそう」ということも言っていた。
原因が分からないことを気持ち悪く思いながらも、幸い重傷者や重病人が出ているわけではないし、ウツミは暫くこのまま様子を見ることにした。