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「はー……まさか王子様だったとはな」
「私、もしかして今日で一生分の運を使い切ったんじゃ……」
「ミア、止めて。笑えないから」
カガミとノアを見送った後、4人は待合室に戻り中断していたお茶の時間を再開した。
隣国の王子と友達になるなんて普通ならあり得ない出来事に、ふとミアが思ったことを口にすると真剣な顔でマオがそれを止めた。
ウツミはそんな2人を微笑ましく見守りながら、そう言えば先程からシロが大人しいなと気づき視線を向けた。シロは少し俯き真剣な顔で何事か考え込んでおり、ウツミはそんなシロの珍しい姿に首を傾げた。
「シロ?」
ウツミが呼びかけても反応は無く、心配になったウツミが肩に手を置くと弾かれたように勢いよく顔を上げた。
「びっくりした。大丈夫か?」
「あっ、すみません! ちょっと考え事をしてて」
「いや、別に構わないが……」
わたわたと慌てる様子に、マオとミアも何事かと視線を向けた。
「さっきから黙り込んでるが、何か気になることでもあったか?」
「え? 何か悩みがあるなら聞きますよ!」
「そうですよ。力になれるかは分かりませんけど、話すだけでも気持ちが軽くなったりしますし」
ウツミだけでなくマオとミアにも心配そうに尋ねられ、シロは言うかどうか暫く逡巡した後、意を決したように口を開いた。
「ウツミさん、どこにも行かないですよね?」
「……??? 買い物ぐらいは行かせて欲しいが」
「絶対にそういう話じゃないと思います」
シロの言葉に本気か冗談か分からない答えをウツミが返し、すかさずマオがツッコミを入れた。
「もしかして、さっきのカガミさん? が言ってた話ですか?」
ミアの指摘に、シロが力なく頷く。
「あの人、ウツミさんのこと探してたって言ってたし、戻って来て欲しいって言ってた。もしウツミさんがあの人のところに戻ったら、オレじゃ軍なんて絶対に入れないし、もう会えなくなるのかなって……」
シロの言葉を聞いて、マオとミアは揃ってウツミを見た。
まだここで働き始めてふた月ではあるが、2人もここでの生活を気に入っているし、シロ程ではないにしろウツミが居なくなるのは寂しい。
そんな縋るような3対の目に見つめられ、ウツミは珍しく少し照れたような顔をしてポリポリと頭を掻いた。
「心配しなくても、俺はあそこに戻るつもりはない。から、安心していいぞ」
「本当ですか!?」
シロの勢いに目を丸くしてから、ウツミは笑ってわしゃわしゃと隣に座るシロの頭を撫でまわした。
「そもそも戻る気があるなら最初から隠れやしないしな。先輩にはバラしちまったが、あの人は言いふらすような人じゃないから大丈夫だよ」
「っていうか、何で隠れてるんですか?」
「あそこは万年人手不足だからな。辞めてから戻って来いって代わる代わる日参されたんだよ。ほら、毎日毎日断るのも心が痛むだろ?」
「つまり面倒くさかったんですね」
マオの言葉にウツミは何も言わなかったが、ニヤリと笑ったその顔はどう見ても肯定を表していた。
「そういえば見た目がどうとか言ってましたけど、前の職場では今みたいな感じじゃなかったんですか?」
「ああ。訳あって俺だとバレたくなかったから、軍では変装して偽名を使ってた」
「アンタ実は犯罪者とかじゃないですよね??」
「安心しろ。ちゃんと真っ当な理由だ」
「オレウツミさんなら犯罪者でも構いません!」
「シロさん、流石にそこは気にしてください。犯罪は駄目です」
「だから犯罪者じゃないと言ってるんだが」
何故か犯罪者扱いをされていることに釈然としないものを感じながらも、ウツミはシロが元気になったことに一先ず安心した。
実は日参していた人たちの筆頭がカガミだったのだが、それはまあ言わない方がいいかとウツミはその事実を胸の奥にしまった。