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ノアも交えて5人でお茶をしていると、外の階段を一気に駆け上がってくる音が響き、そのまま壊されそうな勢いで診療所のドアが開けられた。
ドアを開けたのは、くすんだ金髪をポニーテールにした大変美人でセクシーな女性だった。
しかしそれ以上に目を引いたのはその身に纏っている服装だ。彼女が着ているのはこの国の軍服だった。
コツコツと靴音を響かせて診療所に入って来た女性に部屋に緊張が走った、次の瞬間。
「こんなとこに居たなんて、それにその見た目、どうりで見つからない筈だわ! 居場所くらい教えなさいよ!」
女性はウツミを見て不満そうな顔でそう叫んだ。
状況についていけていない4人はポカンとして女性からウツミへと視線を移したが、そのウツミは女性に負けず劣らずの不服そうな顔をしている。
「嫌ですよ。知ったら連れ戻されるじゃないですか」
「それが分かってて連絡してきたってことは、戻る気になったってことよね?」
「電話で説明したでしょう? 仕事ですよ、先輩」
ウツミの言葉を聞いて、4人はやっと彼女がウツミが言っていた『知り合い』だと気づいた。
呼んだと言っていたのだから真っ先にそうだと気づきそうなものだが、女性のインパクトが強すぎたことと軍服を着ていたことから、ウツミの知り合いとすぐに結びつけることが出来なかったのだ。
ウツミに先輩と呼ばれたその女性は残念そうにウツミから視線を横に移した後、ノアを見た途端目を見開いて開いた口を戦慄かせた。
「ウツミ、あんた……! ちょっとこっちに来なさい!!」
「ハイハイ。お前らはもうちょっとゆっくりしてな」
女性の怒涛の勢いに、4人はウツミが引きずられて行くのをただ見送ることしか出来なかった。
人目のない場所を要求され、ウツミは女性を自室へと案内した。
部屋に入ると、それまで黙っていた女性は眉間に寄った皺に指を当てぐりぐりとほぐしながら深いため息をついて口を開いた。
「王子なんて聞いてないわよ」
「へぇ、王子だったんですね」
「白々しい。ダンテドール人の金色の目は王族の証、そんなの軍では常識でしょう?」
「そんな昔のこと覚えてないですね」
「嘘おっしゃい。覚えてたから居場所が知られるデメリットを冒してまで私を呼んだんでしょう?」
「小綺麗だったんでいいとこのお坊ちゃんだろうと思って呼んだんですよ。それだけで十分面倒事になりそうだし」
じとりと女性がウツミを見たが、その顔は嘘をついているともついていないとも判断がつかず、女性は再びため息をついた。
「まあいいわ。それで、王子は誘拐されたってことで間違いないわけね」
「本人の証言を信じるならですね。相手はダンテドール人だったとも言ってましたから、恐らくは」
「戦争を起こさせたい連中の仕業でしょうね。行方不明になった王子がマルメルモックで奴隷として売られてたなんて恰好のネタだもの」
女性の言葉にウツミも同意見だと頷く。
「ついでに言うと、『奴隷として売られていた』なんて生易しいものじゃなかったみたいですよ。もう取り除きましたが、遅効性で致死率の高い毒を盛られていました。殺すつもりだったみたいですね」
ウツミの補足に、それも想定内だったようで女性は不快そうに眉間に皺を寄せただけで動揺はしなかった。
「ということで先輩、上手いことよろしくお願いしますね」
「はぁ……仕方ないわね」
希望通りの返事にウツミは満足そうに笑うと、心の底から面倒くさいという雰囲気を纏った女性を連れて診療所へと戻った。