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「ダンテドールってどんなとこ?」
ウツミが知り合いに連絡をとりに行ってから、ミアがノアに興味津々に尋ねた。
「どんなって言われても……」
「マルメルモックと違う?」
「そんなこと言われても、僕もマルメルモックに初めてきたからわからないよ」
「あ、そっか。うーん……あ! 海! ダンテドールって海があるんだろ?」
「うーん、あるけど……僕は海見たことないんだよね」
「え? そうなんだ。じゃあ市場は? 私すごい賑やかだって聞いたことがある!」
「ごめんね。市場も行ったことないんだ」
わくわくしながら質問をしていたマオとミアだったが、ノアの返事に思わず顔を見合わせた。
「……ノアって実はすごい箱入りのお坊ちゃんだったりする?」
「うーん、確かに両親はちょっと過保護かも」
そう言って苦笑するノアに、そういえば、と言ってマオがナイフを差し出した。
何も知らないシロはそれを見てぎょっとする。
「ママママオくん!? なんでナイフなんか持ってるの!?」
「オレのじゃないよ。ノアが持ってたのを預かってたんだ。もう大丈夫そうだから返すな」
「……あ!」
マオの言葉を聞いてノアの顔がサッと蒼褪めた。
「ごめん! 僕あの時……! 怪我とかしてない!?」
「だだだ大丈夫だよ大丈夫! うん大丈夫! マオが助けてくれたし! ね! マオ!」
「あー……うん。大丈夫だぞ」
明らかに様子のおかしいミアにシロとノアは首を傾げたが、何はともあれ大丈夫だという2人にノアはほっと胸をなでおろした。
ノアはマオからナイフを受け取ると手の中のそれを微妙な顔で見つめた。
その様子を見てシロが首を傾げる。
「なんでナイフなんか持ってるの?」
「これ、奴のとこから逃げ出す時に持ってきたんだ」
「え!? 自分で逃げ出せたの!?」
「じゃなきゃあんなとこで倒れてないよ。僕が目を覚ましたのは馬車の荷台の中だったんだけど、僕が目を覚ますはずがないと思ってたのか馬車の周りには誰もいなかったんだ。だから護身のためにとりあえずナイフを持って逃げ出したんだけど、路地裏に身を隠したところでまた意識が朦朧としてきて……」
「はー……運がいいんだねぇ……! 私だったら絶対逃げられないよ」
「運が良かったらまず誘拐されないと思うんだけど」
「ミア……」
ノアの話にミアは目を輝かせ、マオはそんなミアを見てそっと涙をぬぐった。
「おー、ちゃんと大人しくしてたな」
連絡を終えたらしいウツミが帰ってくると、ノアを見てどこかほっとしたように言った。
そんなウツミに対しノアはムッと頬を膨らませる。
「だから逃げたりしないってば!」
「悪い悪い。けど家を抜け出すようなやんちゃ坊主だしな。そんなもんも持ってるし?」
ウツミの言葉にノアはぎくりとした後、うろたえて目を泳がせた。
「家を抜け出した? ウツミさん、もしかしてノアの家族と連絡取れたんですか?」
ノア本人は散歩に出たと言っていた筈だと思い、マオがウツミに尋ねた。
「いや、まだだ」
「じゃあなんで……」
「なんでと言われても。なんとなく?」
「なんとなく??」
「悪ガキっぽいし」
「悪ガキっぽい!?」
ウツミの適当な返答にノアは唖然としているが、残りの3人は慣れたもので特に気にした様子もない。
「ふむ、元気そうだな。ならお茶の続きにしよう。お前も来い」
「あ、うん。……うん? そういえば今日お休みだったの?」
「いや?」
「え? じゃあ……え?」
「うちの繁忙期は冬だからな。それ以外はこんなもんだ」
ウツミの言葉に信じられないという顔でノアはシロを見るが、シロはにっこりと笑って頷いた。
「なあミア、いつここが潰れてもいいように次の仕事探しとこうな」
「そうだね、マオ」
「そこの2人、聞こえてるからな?」
わざとらしくわりと大声でコソコソやる2人にウツミが苦言を呈するが、その言葉にも表情にも特にトゲはない。
「患者が1人でもいる限り潰れたりしないよ。安心しな」
「「いや、ムリでしょ」」
「おー、さすが双子」
真顔で答える2人に対しても、ウツミはけらけらと笑うだけだった。