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少年は目を覚ましたが、まだ意識がはっきりしていないようでぼんやりと天井を見つめていた。
しかしすぐにはっとして上体を起こし、ずりずりと後退って壁に背をつけ警戒の姿勢を取った。
「やあ、気分はどうかな? ここは診療所だから安心して?」
「診……療所?」
優しげな笑顔で話しかけてきたシロの言葉を聞いて男の子は少し警戒を解いてあたりを見回した後、戸惑った顔をした。
「君が路地裏で倒れてたのをこの子たちが見つけて連れてきたんだ。どうしてあんなところで倒れてたのか、覚えてるかい?」
「それは……」
きょろきょろと視線を彷徨わせた後、男の子は言葉を選びながら話し始めた。
「僕は……えっと、散歩に行こうとしたんだ。そしたら変な男に捕まって……」
「変な男?」
「うん。顔は隠してたから見えなかったけど……突然後ろから抱えあげられて、顔に何か変な匂いのする布を押し付けられた」
「ふむ」
「ひっ……!」
話を聞いていたウツミが突然ずいっと少年に顔を近づけてきたため、少年は短い悲鳴を上げてポケットを弄った。
その動きを見て、恐らくナイフを探しているのだろうとマオとミアは気づいた。しかしそのナイフは念のためマオがまだ預かっている。
同時にマオは相変わらず患者への配慮の足りないウツミの行動に呆れた視線を向けた。
「やっぱりこの匂いなら、睡眠薬として処方されることもある薬草だから問題ないはずだ。目も……異常なさそうだな。だるかったりどこか痛かったりするか?」
「あ、えっと、いや、大丈夫……だと思う」
「そうか。ところで、その男に襲われたのはお前の国での話か?」
「! ここはやっぱりダンテドールじゃないの?」
「そうだ。ということは、やはり自国から連れてこられたのか……。相手の男はこの国の人間か?」
「……いや、たぶん、だけど。ダンテドールの人だったと思う。僕と同じ色の手だったから」
「そうか……。少年、名前は?」
「……ノア」
「よし、ノア。見ての通り俺たちはマルメルモック人だ。お前を家に送っていきたいところだが、そうすると厄介な事になりかねない。今から俺の知り合いを呼ぶからそいつに対応させる」
ウツミの言葉にノアは素直に頷く。
「よし。マオ、逃げないように見ててくれ」
「逃げないよ!」
ウツミの冗談とも本気ともとれる言葉にマオは苦笑し、ノアは声を荒げて反論した。