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小っちゃな街の青い鳥たち  作者: 柊夏木ヤヤ
9/15

蓮、戻るってさ。

 購入やら、ローンやらの契約を無事に済ませて晴れてマイホームとなった民宿風の家の中を改めてグルっと周ってから蓮たちは他のメンバーが待つボロボロの倉庫へと帰り始めた。


「おかえりっす!家はどうでしたか?」

 まもなく五時になるという夕方の時間帯。外にいた軍曹が帰ってきた三人に声をかけた。

「ひとまず家は決まったぞ」

 蓮がそう一声をかけてから、中で待つ()()のメンバーにもそのことを伝えた。


「……多くないか?」

「やっぱそうっすよね……ビールばかりを買ってきたけど、チューハイとかワインとか、もう少し違うお酒も買っておくべきでした……」

「違う、そこじゃない」

 蓮は中で待っていたメンバーの顔を一人一人確認していく。


 既に缶ビールを開けているポチ。カセットコンロでつまみらしきものを作ってくれているクンセイ。あたりを掃除して皆で食事をとれる空間を作ってくれているノッポ。スマホでゲームをしている制服を着た高校生くらいの少年。


「いや、誰だお前!!?」

「お?帰ってきてたのか、海斗」

 しれっとこの場にいることに驚きを隠せないでいる蓮に対して、周りはいつも通りの日常といった顔をして少年のことを見ていた。


「アニキ、紹介します。こいつは大山海斗。俺の息子です。養子っすけどね」

 横にいたテツが、蓮の驚きを我関せずで少年の説明を始めると、座っていた彼がこちらに近づいてきた。

「話はノッポさんたちから聞いてます。大山海斗、高校二年っす。つい数時間前まで高校の林間学校に行ってた感じっす。これから何がどう変わるのか知らないっすけど、変わらずに学校に通えるなら俺はどうなっても構いませんので、そこんとこよろしくっす」

「あ、あぁ……よろしく」

 あまりにも呆気ない自己紹介に身構えていたのが、バカバカしくなり、それを示すように変な声が蓮の口から洩れた。






「それはそうとだな。新居も決まったので、俺は住民票を変更するため、明日前の街へ戻る。多少だが、前の家にある持ち切れなかった荷物もこっちに送らんとだしな」

「前の家は解約になってるって言ってませんでしたっけ?」

「大家さんの計らいで次の家が決まるまでは荷物を置かせてもらってたんだ。その荷物を引き取りつつ、挨拶もしてくるつもりだ」

「そういうこと……了解しやした。お気をつけて!!」

「まぁ、行くのは明日だがな……」

 そして、蓮たちは明日からの予定の確認や、新居での過ごし方についてなど、積もりに積もった話をしてから眠りについた。




 ちなみに、新しい軍団名は未決定のままである。








 電車に揺られること二時間ほど。蓮は戻ってきたくなかったこの街に戻ってきて、役場へ住民票の変更を行う前に元自分の家へと向かう。一度大家さんの部屋に向かい、経緯の説明をする。大家さんとしては蓮が野垂れ死ないで戻ってきたことに驚きを隠せていなかった。

「そういえばね、一度君の親御さんだという方がやってきて、鍵を借りてきたね。部屋のものの処分にでもきたのかと思ったけど、来た時と荷物の量が変わらなかったから。君を探しに来たのかもしれないね……」

「そう……ですか……」

 そういう大家さんの顔は心配という言葉が顔に浮かんでいたが、蓮としては、色々な感情が頭の中で錯綜していて、まともな思考はできていなかった。気づけば、この街に来てから極端に口数が減っていることにも今、気が付いた。


 そして、大家さんから部屋の鍵を借りて二階にある自分の部屋へと向かう。



 年季が経ち、錆も酷くなっている鉄製の階段を登り、大家さんから借りた鍵を使って数日前まで住んでいた部屋の扉を開けて、中へと入っていく。




 誰もいるはずがない部屋。





 そのはずだった。

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