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小っちゃな街の青い鳥たち  作者: 柊夏木ヤヤ
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面談 その5

推しアイドルの卒業でメンタルブレイクしたけど、とりま頑張ります。

「これで四人目か。テツ、あと何人だ?」

「あと、二人っすね。後の二人はうちに入って間もない新参の二人なんすよ。中学の時からの友人らしくて、ここにもほぼ同時に入ってきました」

「そうか……なら、その二人はまとめてやっちまうか。大体聞くことは同じになるだろうから時間短縮だ。他の奴らでだいぶ時間使っちまったからな」

 それを聞いたテツは、部屋を出て二人にまとめてくるように言いに行ってくれた。





 数分後、二人を連れてテツが戻ってきた。

「じゃあ、さっそくで悪いが、面談の方を始めるぞ」

 二人が座ったのを確認してから、蓮が話を始めた。


「えっと……始めにそっちの日焼けをして真っ黒になっているお前から……」

「あ、俺っすね!犬川(いぬかわ)和弘(かずひろ)っす!」

「ちなみにあだ名は『ポチ』っす」

 淡々と補足説明を入れたテツのそのセリフに蓮は一度聞き流したが、アニメの二度見かのように勢いよく彼の顔を見た。

「えっと……お前はイジメられてるのか……」

「いや?イジメられてないっすよ?このあだ名は小学校からのあだ名なんすよ」

「しょ、小学校の時からイジメられてたのか……?」

「いや、イジメられてないっすって……」

 この無謀なラリーが二、三回続いた後、痺れを切らしたテツが再び、補足的な横槍を入れた。

「でもこいつ、イジメられてはなかったらしいっすけど、アホな性格とキツイ目つきのせいで周りから不良だと勘違いされて学校に全然馴染めず、せっかく入った高校を一年も経たずに退学してるんすよ」

 それを聞いた蓮は、再度彼の顔を憐みの目で見つめる。

「いや、イジメられてないっすからね?」




「話を面談に戻すが、お前は仕事してるんだな。交通誘導員って書いてるんだが?」

「そうっすね。高校を退学したときに親父から学校を辞めるなら働けよと言われたんで親父の知り合いの建設会社で交通誘導の仕事をしてます。もうかれこれ七年くらいやってます」

「かなりのベテランじゃないか……よくこんな集まりにいるな……いや、お前の稼ぎがあったからここまでやってこれたのか……?」

 前半の面談で無職が多すぎるわかってしまったこの軍団。普通はあたり前のことなのだが、ここまでくると、この軍団にいて働いているやつの方が少なくて、そっちの方がとても目立ち、蓮のヒエラルキー内でトップに食い込む勢いであった。

「俺、テツさんが言ったようにアホだから周りから馬鹿にされてきたんすよ。あいつは社会のお荷物だとか、クズだとも言われてきました」

 重い雰囲気の中、ポツポツと語る姿を見て、先ほどのように茶化し半分で接していた蓮の姿はもうなく、自分の受けた仕打ちと重なるものを感じていて彼がしている話を真剣に聞いていた。


「それでも、俺を誘ってくれたテツさんやデビルキャロッツのメンバーは誰もそんなことは言わなかったんす。むしろ、俺には俺の良いところがあるって言ってくれたんす。そんなの家族以外で言われたの始めてだったんで嬉しくて嬉しくて……だから絶対に恩返しをしたい……そう思って今もここでお世話になってます」

 話を聞き終わった蓮の心の中には同情、共感など様々な言葉が頭にあるが、その中でも一番彼の中に刺さったのは信頼している仲間がいるという彼への嫉妬心だった。

「お前には良い仲間がいて、羨ましい限りだ……。俺にはそういうのはなかったからな……」

「アニキに何があったかは俺はよく知りませんが、ここの人たちは信頼できると思いますよ」

「あぁ、俺もそう思ってる……」


(良い意味でも悪い意味でもバカどもの集まりだ。少なくともあの街の奴らとは雲泥の差だろう……)


 今までの記憶と比較しながら、彼の言葉に耳を傾けていた蓮。出会った間もない彼らに少なからずの安らぎを感じていた。




「じゃあ、次に行くか。ポチの隣のお前」

「はい、花田勇気です。皆からは身長の高さからノッポと呼ばれています」

 先ほどのポチと言い、いじめにでも遭っていたんじゃないかと言わんばかりのあだ名に、蓮は目を丸くすることしかできないでいた。


 しかし、先ほどの流れから察するに彼もイジメられていたわけではなく、こいつらの独特な言語感から生まれてしまったワードなのだろうと蓮は考えていた。


「こいつは、高校でイジメにあって学校にいられなくなっちゃったので、俺がここに誘って今に至ってます。ちなみに、臆病な性格が災いしてこの間、バイトもクビになりやした」

 蓮のポジティブな予想は秒にして崩れ去った。ここにきて、さらに重たい事案が増えてしまい、蓮の脳内では何が正解なのかを導くことができなくなり、思考はグチャグチャになっていた。


「でも、こいつはすごくいいヤツなんすよ!よく学校では女々しいなんて言われてたけど、作ってくれる飯は美味ぇし、掃除洗濯も完璧なんすよ!」

 先ほどの発言とセットのように、蓮が何かを言う前に口早に説明していた。

「あぁ、分かった。分かったからひとまず落ち着け。まずは本人に語らせろ」

 蓮はポチの必死な説明に待ったをかけ、目線を隣に座るノッポの方に向ける。


「あ……じ、自分は、確かに内気でオドオドしてるからよく頼りないとか、学生の頃も女々しいとか言われてきました……で、でも!ここの人たちはそんな自分でも仲間として受け入れてくれました!だから、やれることを精一杯頑張りたい……です」


 挙動不審な話し方ではあったが、彼はまっすぐに蓮を見つめ、自分の思いを伝えた。


「なんだ……自分で話せるじゃねぇか。クンセイのやつに比べれば、こんだけ自分のこと話せれゃ十分だろ。俺は別に昔にイジメられてたからってハブにするほど器の小さい人間じゃねぇ。お前がここにいたいという間は好きにすればいいさ」

「は、はい!」

 ノッポ、そして隣に座っているポチがキラキラと輝かせた目で蓮を見つめていた。


「ひとまず、これで面談は終わる。この後、全員集まった今後のことを話すぞ。話さなきゃならねぇことは山ほどあるからな」

 そういう連ではあったが、彼の中で真っ先にやることは決まっていた。




 それは、この軍団の名前の改名だった。

面談編、完結!

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