面談 その1
「それでは、これより個人面談を始める」
蓮の『俺についてこい』宣言から一時間が経過した。蓮は男たちにそれぞれペンと紙を一つずつ渡し、プロフィールを書くように命じていた。
「俺がお前らの事を知るためにやる面談だからな。さっき紙に書いてもらった内容に加えて、気になった点とか割と細かい事を聞くことになると思う。そこは覚悟しておいてくれ」
「了解しました、アニキ」
白髪の男のその一言についていくように男たちが次々に声を上げていった。
「……で、さっきから俺のことを呼ぶときのその『アニキ』ってのは一体何だ?俺はヤクザのリーダーか何かなのか?」
「いやだって、俺らの一番上になるんですから、それなりの呼び方をしねぇとですよ。あと、ヤクザのリーダーだったらアニキじゃなくて『組長』って呼び方になると思います」
後から「そうだそうだ!」と後付けで加わる他の男たちに圧倒され、蓮は返す言葉を失っていた。
「なるほど、そうか……まぁ、お前らの言いたいことは分かった。好きに呼ぶといい」
「あざっす、アニキ」
このままだと、アニキを呼び方が定着するだろう。半ば諦めながらもそう考えていた。
「では、改めて面談を行う。順番はまずお前。お前がこいつらのリーダーらしいからな。後はテキトーにやる!」
蓮が指名したのは、白髪の男だった。後は投げやり気味に思考を放棄した。
「じゃあ、俺からっすね……」
そう言うと、蓮と男は倉庫の中にある個室に移動した。
「えっと……大山哲人、二十七歳。あだ名はテツ。職業、無職……。まぁ、無職であることは今、人の事を言えないからそこは置いておくとして、俺の一個上なのかよあんた……」
「アニキ、二十六なんですね。てっきり俺より上だと思ってました。あと、無職ってのもこの間、バイト先のコンビニが潰れて仕事がなくなったっていうのが理由っす」
「まぁ、それを置いておくとしてもだ。なぜ、このグループのリーダーになったんだ?無職ってのと関係があるのか?」
「まぁ、そうっすね……」
哲人は一瞬だけ目を逸らしてからゆっくりと話し始めた。
「自分、ガキの頃に親から虐待を受けていまして、児相保護になったことがあるんすよ。この髪の長さも左目にある傷を隠すためのものなんすよ。これを見られるだけで周りから怖がられてしまうんで……だから高校にも進学できず、コンビニのバイトで今まで繋いできた感じっすね」
淡々と、しかしどこか切なげな表情で語り始めた哲人を見て、蓮は一度声を詰まらせる。
「そして、最初にアニキにちょっかいをかけたあいつと二人でこの「デビルキャロッツ」を結成したっていう経緯になりますね」
「いや、ちょっと待て。デビルキャロッツって何だ?」
同情をして黙って話を聞いていた蓮だったが、あまりにも聞き慣れない言葉が飛び交い、ツッコまずにはいられなかった。
「デビルキャロッツは俺らのグループの名前っすよ。みんなで話し合い、なんとなくかっこいい名前になったこいつを使っています」
「お前ら……意味を分かって使ってるのか……?」
「いや……アニキは知ってるんすか?」
「デビルキャロッツ……直訳すると『悪魔の人参』だ」
蓮と哲人の間に数秒の沈黙が流れる。そして、先に口を開いたのは哲人だった。
「え……だっさ……」
そして、初めて知った自分たちの名前のダサさに軽く衝撃を受けていた。
「さて、ひとまずお前はこの辺にしておこう。これ以上の深掘りはかなりの時間を使いそうだしな……。それに、残り五人もいるわけだからな。この後の面談には補足役としてお前にも参加してもらうぞ、テツ」
「了解しました、アニキ」
この後も、こんなツッコミどころや重たい話が続いていくのかと思うと、ため息が大きく出た。