黙って俺についてこい!
「ここで間違いないんだな?」
「はい……その通りです……」
彼は半ば強制的に連れてきた男たちと一緒に今にも崩壊寸前と言わんばかりにボロボロな倉庫へと来ていた。
「んじゃあ、行くか」
「あの、何をするつもりですか……?」
最初にちょっかいをかけた男がボロボロの体を庇いながら彼に質問をした。
「聞いてどうする?」
しかし、彼はそう一言だけ放って彼らを置き去りにして中に入っていく。
中に足を踏み入れた彼は、一言も放つことなくただまっすぐ歩いて行く。そして歩いてすぐの所で外にいる彼らの仲間と思われる男が二人座っていた。
「何だお前、誰の許しを得て入ってきてるんだ?あぁ?」
真っ白な髪に片目を覆うほどの長髪の男が椅子から立ち上がり、彼の前に向かっていく。
「お前か、あいつらの親玉は……」
「あいつら……?」
男の視線が倉庫の入り口に向く。その先には彼によってボコボコにされ伸びている四人の男の姿があった。
「てめぇ、俺の仲間によくも手だしてくれたな……この後、どうなるかわかってるんだろうな……?」
普通に考えれば、単身で乗り込んいる彼に勝つ手段なんてまずない。しかし、今の彼は至って普通ではなかった。
「うるせぇな……こちとら虫の居所が悪い時に手出されたんだぞ!!その落とし前つけろやぁ!!」
「上等だ、返り討ちにしてやる!!」
彼はこの一件が落ち着いたときに気づくこととなる。これはただの八つ当たりであると言うことを……。
乗り込んでから大体二十分が経過した。彼が一番最初に乗り込んだときに白髪の男が座っていた椅子の隣にあるソファに腰をかけていた。
そして彼によってボコボコにされた男たち、その後に倉庫で彼に挑んで同じくボコボコにされた白髪の男、そしてそれを横で傍観していたややぽっちゃりとした男、計六人は彼の目の前で正座をさせられていた。
「で?言うことは?」
「いや、本当にすみませんでした……」
「「「すみませんでした!!」」」
彼の一言をきっかけに男たちが一斉に謝罪をし始めた。
「あの……それで、我々はどうしたらよいでしょうか?」
「まず聞かせてほしいんだが、どうしてカツアゲなんでことしたんだ?金にでも困ってるのか?」
「あ、はい……お金に困っているのも確かではあるんですが、俺らは全員が家庭や社会で問題があって集まった荒くれ者の集団でして……自分たちが生きていくためにあぁするしかなかったという感じです……」
「そっか……」
半泣きになる男たちを見て彼の怒りも沈み始める。それは彼も同じ境遇でこの町に来たという共感部分もあってのことだった。
「お前たち、このままで言いと思っているのか?」
彼の問いかけに男たちは下を俯いたり、目を逸らしていた。
「お前ら絶望的に暴力向いてないからな……だって、どっかのアニメの雑魚キャラと大差なかったし……」
彼の発言にあからさまにへこみ出す男たち。そして、代表するように白髪の男が口を開きだした。
「だったら、俺らにどうしたらいいっていうんすか?俺らにはこの道しか……」
『今更、どこへ行っても同じなのに……どうしてここに来たんだろうな……』
聞けば聞くほど、自分との境遇と重なっていきとても他人事には感じられなくなってきた。
「だったら、俺についてこい……」
立ち上がって言った彼の一言に男たちは一斉に俯いたり、逸らしていた顔を彼へと向ける。
「俺がお前らが見たことも考えたこともないような毎日に連れていってやるよ!!」
この言葉には、何の自信も根拠もなかった。だがしかし、自分と似た境遇の彼らをこのまま見捨てることはできない。その思いだけで今、彼らの目の前に立ち、そう宣言した。
「あ、あんたの……いや、あなたの名前を教えてくれませんか……!?」
「名前か?そうだな……正直、前の名前はもう名乗りたくねぇからな……」
彼は腕を組み、悩み始める。そして、悩むこと数分。彼は組んだ腕を解き、男たちに向かって一言放った。
「俺の名前は『蓮』だ!今の生活を変えたいやつ、黙って俺についてこい!!」
こうして蓮とその仲間たちの愉快で珍妙、そして唯一無二の物語が始まりを告げたのだった。
ここまでが序章となります。
次回から本編のはじまりはじまり!