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小っちゃな街の青い鳥たち  作者: 柊夏木ヤヤ
10/15

小さな小鳥

 鍵がかかっていて誰もいるはずがない自分の元部屋。


 そのはずなのに、部屋の奥に進んでいく度になぜか人の気配が感じられた。

 蓮は、中にあるもう一つの扉を開け、リビングへと進んだ。しかし、そこには誰もいない。なのに人の気配を感じる。

「……まさか、隣の和室か?」

 蓮は恐る恐る和室へと続く襖へと手をかけた。


「あぅ……?」

 六畳間の和室の真ん中。そこには、推定七歳くらいの小さな女の子が座っていた。

「なんで、ここに女の子が……いや、それよりも……」

 蓮がこの場に女の子がいることよりも驚いたこと、それはこの子の容姿にあった。服とは呼べないボロ布のようなワンピース、まともに風呂に入れてもらえてないだろう汚れ、そして到底見過ごすことができない身体の至る所にあるケガや傷たち。

「どうしてこんな……」


 その疑問の答えを考えている時に、蓮は少女の横に置かれた一枚に気が付いた。

「養子縁組届……って、親の名前、俺じゃねぇか!?」

 身に覚えのない届の紙。見る限りこの紙はコピーであるため、本物は既に届けだされている可能性が高い。

「本人の許可なしにこんなこと法律的に許されるのか……?」

 その時、蓮の中にふとある人物の顔が浮かぶ。


「なんてことしやがる、このクソ親父とババァ……」

 蓮の個人情報を知っていて、本人の許可がなくともこんなことを可能にする。そんなことができるのは、親以外ありえない。そう思った蓮はただただ、彼らへの憎しみを募らせるばかりだった。


「うぅ……」

 そんな蓮の怒り狂う姿を見て、女の子は体を震わせ、怯えていた。

「あぁ、ゴメンゴメン。別に君に怒ったわけじゃないからね!?」

 その言い方もきつかったのか、女の子はついに目に涙を浮かべてしまった。下に妹がいる蓮だが、小さな子供をあやしたことなんかはなく、今にも泣きだしそうになっていた目の前の女の子に対してただただ、右往左往するばかりだった。

「あぁ……えっと、チョコ、食べる……?」

「チョコ……?」

 蓮はズボンのポケットに入っていた一口サイズのチョコレートを少女に差し出した。


「はむはむ……」

 少女は蓮から受け取ったチョコを嬉しそうに食べる。その様子を見て一安心をした蓮はその場に腰を下ろした。


 口に入っていたチョコを食べ終え、少しだけ物足りなさそうな顔をしている少女を見て、少しだけ笑いそうになったのをこらえてから蓮は少女に話をし始めた。

「君、ここに来た時のこと覚えてる?」

「うにゅ……お父さんにこの部屋に連れてこられて……この部屋で待っていなさいと言われた」

 ポツポツと話し始めた少女は、蓮と目を合わせることはできず、畳の目を手でなぞっていた。

「お父さんに……ここにやってくる人の言うこと……聞きなさいって言われた……」

「それを君は理解したと……イヤじゃなかったの?」

 蓮の中では、それは自然な質問だった。小さな子供が親と離れ離れになって寂しくないはずがない。そう思い込んでいた。

 少女は畳をなぞる手を止めて質問の返答を返す。


「もう……痛いことされないから……いいの」

 この時、初めて少女と蓮は目を合わせた。

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