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雪 〜儚きもの〜

作者: 神名代洸

【ザザザザーッ!】

又雪が屋根から落ちる音が聞こえた。

それと同時にボソボソと何か誰かが喋る声が聞こえた気がした。

1日に何度も落ちる。

それだけ昨日雪が降ったと言うことになる。


それは突然…前触れも無くやってくる。

だが慣れとは怖い物で、ある程度体験をし続けると慣れてしまってなにも思わなくなる。


そう……それは知らないうちに埋まっていたようだ。

多分この家の住人だろう。

どのくらい埋まっていたのか、体は固まっていた。

それは雪の中から何とか抜け出そうと足掻いている姿のまま固まっていたのだ。惨い。惨すぎる。

顔は呼吸が苦しいらしく歪んでいた。


気づいたのは飼っていた犬だった。

臭いに気付いたのだろう。



この家にはこの亡くなった家主と犬が1匹しかおらず、近所の人もこの雪かきに追われて気づかなかったそうだ。



例年よりも多い積雪で交通は麻痺しつつあった為、除雪車も出動していたが、表通りは作業するが一本中になるとなかなかやってはくれない為、住人が自分で何とかするしかないのだ。年寄りには大変な重労働になる為、ボランティアが毎回集まって作業していた。


「なぁ、あそこの家の人さっきから全く見えないけど、除雪はしないのかなぁ?」

「さぁ〜、どうなんだろう?でも結構積もってるよね。この辺で1番じゃない?」

「だよね〜、私ここ終わったらちょっと見てくるわ。」

「あ、うん。きをつけてね?」

「うん。そうする!」


私は自分の担当区域を除雪し終わると気になってた家の屋根上に上がる場所を探した。

梯子があれば楽なんだけど…あ!あったぁ。良かったよ。

無かったら上がれないもん。

いっぽ、また一歩と上がっていくが、住人の姿は見えてはこなかった。

「どこにいるんだろう?」

そうこうしているうちに屋根上まで上がった。

さっき除雪していた方向に体を向けて手を振った。そしたら手を振りかえしてくれた。


何処にいるのか分からない。

だから当たりを何度も見回した。すると初めは気づかなかった穴らしきものが見えた気がした。まさか、まさか…だよね?不安になった私は犬を探した。ここの住人は確か犬を屋根にあげていたはず。危ないからと何度も注意しても無視されて腹たったので、皆見て見ぬふりをしていた。

その犬を探した。

「ワンワンワン!」

犬が近くにいるのはすぐにわかった。

しっぽをフリフリしてアピールしてるから。見てる分には可愛いと思う。内緒ね?

住人は近くにはいなさそうだけど、犬は吠えてるんだよね〜。絶対近くにいるはず。

そしたら人一人分の穴を見つけた。まさか!そんな…。私は下にいる仲間に状況を説明すると手にしていたスコップを持ち替えて穴を広げることを始めた。仲間は上に上がってくるもの、下から様子を見ながら目星を付けて掘り崩すもの……黙々と続けていった。


時々ライトを穴の中を向かって照らしながら続けていくと黒い塊にぶつかった。

いた!

この雪の中持ち上げるのは危ないということで下から穴に向かって穴を広げていくことにした。

誰もが固唾を飲んで見守るも、願いは届かず固まった住人の姿が穴から運び出された。

その顔はもがき苦しんだようで般若のようだったと見た人は言う。


亡くなった住人と共に屋根から降ろされた犬はその場をクルクル回ってはしゃいでいた。誰一人として声をかけるものはいなかった。どうせ分からないだろうしね。



誰かが救急車を呼んだのかサイレンの音が聞こえてきた。

残念だけどこの人はもう亡くなってるから救急車には乗せてもね~。


救急隊員がやってきた時には住人の保険証は誰かが家から持ち出したのか何故か私の手の中に……。

付き合いなんぞなかったのにね。

歳が違いすぎた。

30も違うと話が噛み合わない。

けれども他の誰も一緒について行こうというものはおらず、仕方が無いので私が一緒について行くことになった。

顔には白いタオルがかけられ表情が分からないようにしてくれていた。助かったよ。聞いた話じゃ怖い顔をしていたって話だったし……。やじゃん。


病院についても私は身内では無い為書類にはサインはできない。

多分今頃近所の人が連絡してるだろうけど…。

帰りたいけど帰れなかった。

来るまで、……後どのくらい?

1時間くらいだっただろうか…ようやく身内がやってきた。どうやら娘さんらしい。

歳の頃は私と近いかな?

でも話すことは無いのでお互いが突っ立っていた。

看護士がやってきて家族という娘さんと話を始めたのでもう私は用はないと思いその場を離れようとしたのだが、「待って。」と止められて娘さんの用事が住むまで待っていることになった。

「ゴメンなさい。ご迷惑かとは思ったんですが聞きたくって……。最近の父はどうでしたか?」そう言われてもあまりひとづきたいがなかったのでよく知らないのだ。多分どの近所さんも同じだと思う。正直に話した方がいいのかどうか悩んだが、その方が娘さんもスッキリするんじゃないかと思いありのままを話した。

「そう、でしたか…。多分そんな気はしてたんですよ?うちでもそうだったから……。ありがとうございます。ホントのこと話してくれて。」娘さんはそう言うとハンカチで顔を拭いた。

私はもう用はないと思いここで帰らせて頂こうと思い、会釈してその場を後にした。もう娘さんは呼び止めはしなかった。



帰りは足がなかったからタクシーを使って自宅までかえってこうとしたのだが、大通り迄しか車が通れなかったので行ける所まで行ってもらいあとは歩いて帰宅した。

近所の人はもう誰も外にはいなかった。それはそうだ。あれから4時間もたってるんだから……。あたりは暗くなってきていた。もう今日の除雪は無理だなと諦め自宅に入っていった。





その日の夜、いつもは見ない夢を見た。

よほど疲れてたんだなぁと思いながらももう一人の自分がなにか喋っている。何だろう?

もう一人がいる場所は…知らない場所みたい…。

ボソボソと独り言を言ってる気がするのだが、何を言っているのかなぜかわかってしまう私がいる。

なんでだろう……。なんかよからぬ感じがして寒気が取れない。

もう1人の私は全く気づいてなかったが私は気づいた。

壁にもやのようなものが立ちこめるのを。

それはやがてかたちを作り、黒い人影となった。

「ヒィィィィ。」私は慌てて口を噤んだが、相手の方には気づかれてないようでほっとした。

目の前の自分の分身はそりゃもう驚いたのなんのって……。言葉に言い表せない程だった。

壁伝いにドアを探した。出口から逃げようとしたのだ。でも肝心の出口は黒い影の後ろにある。

なら窓から飛び出るしかない。

あいにくここは一階。出られないわけではなかった。


慌てて窓を開けると柵をまたいで飛び出した。

「フゥ……助かった、かなぁ?」

助かったと思っていた。

でもね、なんか変なの。

壁にもやのようなものが立ちこめていた。

霊によって黒い影だ。

ヤバい!

なんでこうなるの〜?

私が何したっての?

全力でダッシュしたが、しばらくすると横っ腹が痛くなる。

普段使わない筋肉を使ったせいとはわかっているが、逃げる事で頭がいっぱいでほかのことには気が回らなかった。

だからさ、逃げても逃げても追いかけて来る。

どうしたらいい?分かんない。泣きそう……。

走る足も疲れが見え始めやがて歩き出す。

走れないのだ。

疲れてしまって…。


その時耳元に生暖かい風が吹いた。

分かっちゃったんだもん。怖いよ。怖いけどこのまま逃げ続ける体力もない。意を決して振り返った。


そこには……。



口だけが大きく開いた霊が立っていた。

目も鼻もない。

普通の人の倍はあろうかと言うくらいの口の大きさに私は怖いを通り越して泡を吹いて倒れた。意識が無くなったのはどのくらいだったのか。

気が付いたら誰もいなかった。霊も何も。

一体なんだったのか……謎でしかない。

ただあの恐怖にまた遭遇したら耐えられそうもない。

口元をハンカチで拭いて携帯で時間を確認するも気を失っていたのはせいぜい1時間くらいだろうかというとこのようです。


起きなきゃ。

怖い体験なら雑誌とかに投稿できるじゃんと忘れる前にノートにメモをし始めた。

するとね、背筋が寒いの。

何でだろう?

あれって夢…だよね?だから私は無事に済んだんだよね?

でもおかしいな…誰かがいる気配がする……。

腕を見たら鳥肌が立っているじゃないか。

ほんとにどうしたんだろう?私の体は。


それでも何とか文章を描き続けた。

大丈夫、まだ覚えてる。

恐怖との戦いだった。

なんでこんなことになってしまったのか、私には分からない。たかが夢。だけど夢。



ようやく全てを書き終えると1度読み直してミスがないかをチェックした。どうやら間違いはなさそうだ。

ホットしたら背中が寒くて堪らなかった。

そうだ、さっきなんか変だった。

夢と現実がごっちゃになっちゃってるのかなぁ?

でもね?

ある瞬間私はその場で固まってしまった。

そう、鏡を見てしまったのだ。

ほんのわずかの隙間から見えた鏡に写るそれは明らかに男性だった。

そう、数日前に雪の中から助け出したけど助からなかった男の人だ。

口だけだからはっきりとは分からないが多分そう。

何がしたくて出てきたのか。

なんで私のところにでてきたのかはわからない。

でもやっぱり霊は怖いよ~。

数珠も何も持ってないからただお祈りした。

どうか成仏してくださいって。

それと霊として出るなら娘さんのところにお願いしますって祈っちゃった。



ただそれ以降私の元には現れることはなくなった。


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