1席 藍川彩葉(あいかわいろは) バトン部
親愛なるマスターへ
お久しぶりです。お元気ですか。受験勉強が忙しかったせいで、なかなかお手紙を書けませんでした。
高校は受かりました!マスターのおかげです。
島のみんなは元気ですか。マスターもお体に気をつけて、喫茶店を続けてください。
またお手紙書きます。 彩葉。
イルカの絵の封筒に、薄い水色の便箋を入れる。ポストに入れる前に、大好きなマスターへ思いを馳せる。
最初から独りだった。なんていうのは嘘だけど、家族の温かさは知らない。覚えてない。マスターに拾ってもらったのが七年前。島にある喫茶店でバイト代と賄いを貰って、なんとか生活していた。高校のクラスメイトは知らない私の二つ目の顔。
小学校も中学校も、まともに行けてない。マスターはお人好しだから、仕事の合間を縫って私たち島孤児に勉強を教えてくれた。高校に入れたのも、マスターのおかげ。マスターはすごく美人で、優しくて、料理が上手な人。島には女の人しかいなかったから、本土に来てから驚くことばかりだった。
高校は楽しい。中学校では、私の二つ目の顔をバラしちゃったせいで、すごく気を遣われた。苦しかった。高校のみんなは仲良くしてくれる。
手紙に全部書けないのが悔しい。また書こう。まだうまくクラスに馴染めてないけど、頑張って仲良くなりたい。
そんな私の、私だけしか知らない内緒のお話でした。