17席 桑実アキ(くわのみあき) 野球部マネージャー
三人官女の真ん中で笑う少女は恋を知らない
毎朝クラスに響くのは、彼女の大きな笑い声。鈴村茉子と凪雛里の間に座り、お菓子を広げて盛り上がっている。
元気すぎるあまり、一部のクラスメイトからは苦手意識を持たれているが、持ち前の明るさでクラスの一軍に立っている。
入学早々、クラスメイトを呼び捨てにする風習を作り上げたのも彼女だ。おかげでクラスの雰囲気もにぎやかになった。
野球部のマネージャーとしても活躍している。顧問や先輩の懐に入り、可愛がられるなどお手の物。選手にも人気が高く、男子との関わりが薄い看護科生でありながら、トップクラスのリア充である。
誰も、彼女が悲しんでいる顔を見たことがない。笑っていて当たり前。元気で当たり前。深く考えすぎない性格から、悩み事など無いように思えた。
実際、彼女はメンタルが強い。思春期特有の悩みがまるで無い。それはもう不思議なくらい。
誰も思いつくはずがない。彼女が恋心を持たないなんて。
"アセクシャル"をご存知だろうか。
同性にも異性にも恒常的に恋愛感情や性的欲求を抱かない人のことを示す。所謂、無性愛者だ。
悲しいことに、彼女自身もそれに気づいていない。否、気づいていないふりをしている。
いつか自分も恋する乙女になり、良い相手と結ばれることを信じているのだ。
彼女は将来、どんな女性として生きていくのだろうか。