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恋敵の出現

「ねぇ、あの子誰?」


それは週末最後のホームルームでのことだった。まだ席替えをしていないのが幸いだった。

美結はある女子を遠くから鋭く睨めつけ、工に視線を送った。

工にしか見せられない素の自分でもあった。


しかし本能的に聞いたはいいものの、相手が間違えだったと美結は我に返る。


「知ってるわけないか。」

「知ってるよ。濱田千花。」


工はそう言い放った。

それは再来月に開催される文化祭実行員に立候補した女子の代表だった。

美結が気にした理由はその隣にいる、先に立候補して決まった男子代表だった。


「千花はね、二年生ながらもオーケストラ部でコンサートマスターを務めるバイオリニストでさ。なんで俺が知ってるかって?俺、実はビオラ習っててオーケストラとかよく聴きに行くんだよね。あ、俺の家族音楽一家でさ…。」


そう工が珍しく恥ずかしそうにしながら語るのも、美結の頭には入って来なかった。

周りからお似合い!だの茶化されて照れ合う、黒板の前の男女の様子をひたすら呆然と見つめていた。


「柄じゃない…。明人が文化祭実行委員なんて。」


そう美結がついボソリと呟いたのを、幸い誰も聞いていなかった。


人懐こっくてでもどこかヤンチャな明人は帰宅部が似合うような自由人間だ。

しかし転校先でいろんな人に会い高校に馴染みたいからと、文化祭実行委員を自ら立候補した。


そして人気であろうその次席をすぐに手に入れたのが千花だった。

黒髪ストレートでスカートの丈も短くない優等生タイプで一見実行員には相応しい。

しかし地味だけれども素肌の顔がよく整った原石のような女の子だった。


大好きな人のあからさまな嫉妬を見抜けない工ではなかった。

工はそれに気付くと音楽通の語りを止め、しばらく美結を見つめて机に突っ伏した。

しかし突っ込みたくないくらい、唇を噛む美結の姿が可愛すぎてつい何も言えなくなったのである。


「じゃあね。バイバイ。」


しかし美結はその気持ちの理由を工にも告げることなく、ホームルームが終わったらすぐに帰宅した。

ムカムカする胸の内を明かせれば楽だろうが、自分でもまだ分からない誰にも言えない感情だった。


ー元彼のはずだった…のに。

こんなことで心がかき乱されては、これから一年心が持たない。

今はクラスメイトなだけで、友達でもないし話すことすらほとんどないのにー。


「心を無にできますように。」


美結は速攻近所の神社に行き、しっかりお賽銭を入れ、鐘を鳴らしてそう願い事をしていた。

誰にも見られても聞かれたくもない光景だった。

しかしそれは願い事に入っていなかったからか、それはあっさりと破られた。


「あれ、美結こんなところでなにしてたの?なにか願い事でもあった?」

「…陸!?あれ、今日部活じゃなかったんだっけ!?」


酷く取り乱した美結だったが、陸はさきほどの自分の神頼みの内容までは聞いていないようだった。

二人は何事もなかったかのように一緒に帰路についたはずだったが、美結はついホームルームであった出来事を陸に話してしまった。


「そっか…明人が文化祭委員なんて珍しいね。」


同じ幼馴染みとして、いや自分以上に深く知っているかもしれない陸も明人の行動に神妙になりながらも笑った。

笑い返した美結はまさかその相手とのツーショットに動揺してることまでは吐露せずに済み、少し安心したはずだった。


「美結は…まだ明人が気になるの?」

「え…。」


それは陸らしくない、美結の本心につくような返しだった。

美結はつい黙ってしまい、俯いて返す言葉を考えたが出てこなかった。

そして困っている美結に偽りの返事をさせたのもまた陸だった。


「そりゃあ、気になるよね…。」


その理由までは言わなかった。

それは普段落ち着いてる陸も信じ難いことであった。

そして自分がこのまま美結と心地の良い関係ではいられない未来を危うみ、前に進まなきゃいけない決断をさせた。


「俺、来月の球技大会のサッカーで絶対二組に勝つから。」

「え?あ、頑張ってね。応援してる!」


中学生の頃、転向するまで明人はサッカー部のエースだった。

それは陸の明らかな宣戦布告だった。


しかし美裕はいきなり話題が変わったことに素直に安堵して笑みを溢していて、陸の気持ちに気づくことはなかった。


そして文化祭の前に球技大会で陸の一方的な対決が切って落とされ、また自分にも一波乱があるなどまだ平穏に過ごしていた美結には想像できなかった。


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