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会いたかった人

美結は心配する工には本当に申し訳ないけれど、一人になりたかったために咄嗟に嘘をついた。

明人の姿を見てからずっと、その姿が頭からずっと消えなかった。


ーどうして、明人が。


二年ぶりに彼に再会できた嬉しさよりも、辛い気持ちの方が蘇ってきて、頭の中はすっかり混乱していた。

周り道をして自転車を走らせ、いつの間にか到着した家に着くと、無造作に自転車を置いて玄関に入った。


「ただいまー。」

「……美結!お帰り!あのね!ってちょっと!」


ダイニングから甲高い母の声が聞こえたが、美結はそのまま階段を上り、放心状態のまま部屋に入った。

そして鞄を床に投げて、部屋に入ってすぐのベッドに横になった。


「ひゃっ。」


うつ伏せで両腕を広げると、抱き枕かと思った盛り上がった布団の中に硬い感触があった。


「ちょっと、紗夜。勝手に部屋に入らないでっていつも言ってるよね。ってきゃー!」


妹が寝てるのだと思い布団を勢いよく剥がして現れた人物の姿は、想定外すぎる相手だった。

美結は悲鳴を上げて部屋の端まで逃げた。


「久しぶり、みゆ。」


それは一日のほぼ半分以上いやほとんどといっていいくらい、美結の脳裏から離れなかったー明人だった。


「あき…。」


美結はすかさず明人に背を向け、鏡の前でくしゃくしゃになった髪を整えながら深呼吸し心を落ち着かせた。

波打つように速く動く心臓の鼓動が止まらなかった。

そして一呼吸置いて、恐る恐る明人に話しかけた。


「ねぇ、転校ってどういうこと?」

「今月から婆ちゃん家に住むことになったんだ。学校でみゆに話せなかったからさ、来ちゃった。」


明人はそう言って笑うとベッドから立ち上がって、硬直する美結の下に近寄ろうとしていた。

少しずつ近付く距離に美結は何故か足が動かず、強く胸が締め付けられていた。


ーずっと会いたかった。


明人と別れて、二年半。

ずっと想い、そして辛かった最後の思い出が消え去るのが分かった。

二人が見つめ合い触れ合おうとした瞬間、いきなり自室のドアが勢いよく開けられた。


「感動の再会だった?」

「もうお母さん!あきが来てるなら、そう言ってよ!!」

「美結が急いで部屋に行くからじゃない。ママ言おうとしたわよー。」


フリフリのエプロンを着た若い美結の母は、密室で久しぶりに会った二人を見つめて明らかににやにやしていた。


「あきもなんで私の部屋で寝てるの!」

「ごめん…つい。」

「ほら、感動の再会終わったらご飯作るの手伝ってよ美結。あっ、アッちゃんは気にせず。ここでゆっくりしててね。」

「いやここ私の部屋だから!あき、着替えるから出てって。」


先程の緊張感漂う甘い雰囲気を壊され、美結は明人の背中を押して母と共に部屋から追い出した。

部屋にやっと一人になり、力が抜けたようにドアの下で足をすくめて床に座った。


ーもう好きじゃない、吹っ切れてたはずなのに。


階下から母と明人の楽しそうな笑い声が響いて聞こえてくる。

二人の下に行くのは気が重すぎて、美結はしばらく部屋にこもっていた。


そして携帯からメールの着信音が鳴った。

相手は陸だった。


”今日早く部活終わったから、今から行くね。"

"うん。ねぇ、あきが戻ってくるって知ってた?"

"ごめん、知ってた。"


美結と明人が別れて間もなく彼がいきなり転校してから、陸との会話の中で明人の話題が出ることは今日まで一度もなかった。


ー陸は頻繁に連絡を取っていたのかな。ただ私には言わなかっただけで。


美結は自分だけが知らなかったことに、さすがに仕方ないのだけど一人寂しい気持ちになっていた。

そこにまたドアが勢いよく開いて、美結は思わず部屋の角に逃げ込んだ。


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