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予期せぬ再会

高校二年に上がったー春。

彼女は平凡すぎる穏やかな高校生活に、大きな変化が訪れることになろうとはまだ知る由もなかった。


「美結、おはよう。」

「陸!ごめんね待たせちゃって。」

「いいよ、気にしないで。」


山本美結と菅野陸。

二人は幼馴染で小学生の頃からもう10年ーこうしてお互いの家を挟む小さな公園で待ち合わせをして、一緒に通学するのが日課だった。


二人の関係は変わることはなく、同じ制服を着て、自転車で並んで登校する。

今日は、高校二年の始業式の日であった。


「陸、今日も部活あるよね?」

「うん、あるよー。」


陸はバスケ部に所属していて、土日を含め毎日部活に勤しんでいた。

一方の美結は入学した時から帰宅部のため、下校は別であった。

入学時からクラスも違うため、朝の登校時間だけが唯一の二人の時間だった。


「ねぇ、今日紗夜の誕生日パーティーするから陸も来れない?今年なんだかお母さん張り切って料理しちゃってさ。」

「部活終わったら行くよ!今日俺の両親も兄貴もいなくてさ。美結のお母さんのご飯なんて久しぶりだなー。」


美結は妹の誕生日の誘いに乗ってくれた陸に満面の笑顔を見せ、陸もその可愛い笑顔を見ては癒しを感じて微笑み返した。

二人の家は家族ぐるみで仲が良く、お互いの家に遊びに行くことも多かった。


「じゃあ、部活頑張ってきてね!」

「ありがとう、美結!」


公園で待ち合わせして通学し、美結の教室の前まで陸が送るー30分間程度の時間。

一日の中でみればほんの僅かな時間であるが、他愛ない会話をし心地よい時間はこれからも変わらず続くものだと、二人は思っていた。


「みんな、おっはよー!」


美結は新しい教室に入ると、クラス変えをしたが変わりばえのしない仲良しのメンバーの所に駆けて行った。


「美結!」

「おはよー!」


美結が駆け寄った先には、ショートカットで小柄な日向、ロングヘアーの大人っぽい海、そして短髪で華奢な隼人がいた。


「まさか、今年も同じクラスで本当良かった!海たちもよく同じクラスになったよねー。」

「本当だよねー。でもこいつ数学得意なくせに文系にしてんだよ。」

「ちょっと海ー。みんなに言うなよ。」

「隼人は海と離れたくないんだね~。」

「まあな。」


海と隼人は高校入学後からすぐに付き合ったカップルで、互いに高身長で美男美女のお似合いの二人は、学校内でも有名だった。

よく喧嘩もするが、ツンツンしたクールな海と人懐こい隼人は相性が良いようで仲が良かった。


「そういえば、陸くんとは前よりもクラス離れちゃったね。」

「うんー、陸は理系だからね。」

「そんな感じする、あいつ頭良さそう。バスケ部のエースだし神だな。」

「理想の彼氏だよねー。」

「ちょっ、お前が言うーそれ。」


勝手に二人が喧嘩をし出すのを苦笑しながら、海の言った三文字の単語に美結は頭を傾げて反応した。


「ん?誰の彼氏?」

「美結のだよ。」

「え?そんなんじゃないってば!」


美結は目を見開くと顔を赤くして、両手を振って取り乱した。

毎朝の登校時の仲睦まじい二人を見れば誰もがそう思わざるを得ないだろうと、三人は思っていた。

自覚がないのは本人ただけで、幼なじみだからだと自分の気持ちに鈍感な美結に、彼らは陸に同情するのだった。


「そろそろ先生来そうだし、席戻るねー。」


美結は続けてまた何かと陸とのことでからかわれそうだと察し、逃げるように自分の席に戻っていった。

そしてすぐに担任の先生が入ってくると、号令がかかった。


「起立ー。」


美結は久しぶりの早起きに急に眠気が襲い、立ちあがったときにふらつき、机が前に少し動いてしまう。

その物音に斜め前に座る日向が気付いた。


「美結、大丈夫?」

「ごめん!大丈夫ー!」

「ねぇ美結。そういえば工が来てないね、まだ。」


礼をした後、日向が小さな声で美結の後ろの席を見つめていった。


「連絡来てないし、いつもの遅刻かなー。」


そして新しいクラスの担任が自己紹介を始めようとした時、教室のドアが勢いよく開いた。

それは、少し大きめのズボンを履き、シャツの胸下もだらしなさそうに制服を着る、茶髪の工だった。


クラス全員から冷ややかな視線を浴びたが、工はくしゃっと笑い舌を出して自分の席に座った。


「おい、山崎遅刻だぞー。」

「先生ごめん!寝坊しちゃってさ!」


そしてクラス中に笑われながらも全く反省の顔を見せない工に、担任は元からの彼の評判を知ってか諦めた顔で溜息をついた。


「おいおいー。また前の席、美優かよー。」

「しょうがないじゃん、山崎と山本なんだから。」


外見は不良にみえるも中身は楽観的で自由な工も美結の仲良しメンバーの一人で、ムードメーカーとして誰からも好かれていた。


「美結、これで荷物良かったかみて。寝坊して部屋の中にあるものかき集めて持ってきた。」

「テレビのリモコン入ってるじゃん。」

「まじ!弟テレビ見れねーな。」

「いや、そこじゃないから。」


二人は担任の話も聞かず、美結は後ろを振り向きマイペースに工の荷物確認をして小さな声で笑っていた。

そしていつの間にか、クラス中が騒ついていることに気付く。


「ねぇ、転校生が来るらしいよ。」

「は?まじで?」

「美結、聞いてた?」

「え、知らないよ。初耳。」


どんな転校生が来るのだろうーとクラスメイトの期待がかかる中、担任が転校生の名を呼んだ。


「紹介する、入ってこい。篠崎。」


教室に転校生が入った瞬間、多くの女子は歓声やら悲鳴を上げた。

彼は窓からの風に靡く少し長い茶髪に、切れ長の吊り目で整った顔立ちをしていた。

そして先生の横に来ると、外見とは裏腹にふわっと人懐っこく笑顔を見せた。


「篠崎明人です。よろしくお願いします。」

「仲良くしてやってくれな。篠崎の席はあそこな。」


女子だけでなく男子も、明人に向かって正統派なイケメンだと好奇な視線を送っていた。

ーある二人を除いては。


「なぁ、美結。あいつって……。」


工は彼の名前を聞いた時、背中がゾクッとし冷汗が出るのを感じていた。

そしてすかさず美結の肩を叩いたが、振り向くことはなかった。


「明人…。どうして?」


美結は目を見開いて硬まっており、早速周りの生徒から歓迎される明人の姿をただ見つめていた。



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