瞳のない雪うさぎ
今回は柚様が色々とあれな回です
引かれるかもしれませんが、温かい目でご覧下さい
一月七日。雪が降り積もるいつもの日常。
今日は珍しく深海が寝坊していた。
私は崩さないようにあるものを持ちながら、
出禁にされている深海の部屋の襖を勢いよく開ける。
普段なら壊れるからと怒られるところだが、
深海の怒号が聞こえてくることはなく、
部屋の中を覗き込むと、深海は机に突っ伏して寝落ちしたようで、
まだ寝息を立てて眠っており、起きる気配はない。
「何だろうこれ」
書類の内容はよく分からなかったが、
誰かと手紙でやり取りをしているようだ。
一体誰と文通してるんだろう…
深海の文通相手は分からないが、
こう熟睡してると、イタズラをしたくなるものだ。
私は冷たいあるものを深海の露出したうなじにそっと置く。
「ひあっ!」
深海は突然の冷たさに驚いたのか、
短い悲鳴を出した後、慌ててうなじに置かれた雪を払う。
深海も、こんな可愛い反応が出来るのか…
「ドッキリ大成功!」
私が大声で叫ぶと、深海は私を恨めしげに見つめる。
「柚様、僕に何を乗せたんですか?」
「雪うさぎ」
私は床に振り落とされた雪をかき集めて、再び雪うさぎを作る。
それを見た深海は明らかに嫌そうな顔をする。
どうやらよっぽど冷たかったようだ。
「それにしては、目がありませんが?」
深海は無理矢理起こされて機嫌が悪いのか、
やたらと無愛想に応じる。
流石にその対応は私だって傷つく。
「いつもみたいに笑ってくれなきゃ答えない」
私のわがままを聞いた深海は、
寝起きだからか面倒臭そうな顔でため息をついた。
「…………もう良いです
着替えるので早く出ていって下さい」
「え?私は気にしないよ?
何なら今着替えても…」
「僕が気にするんです!」
そして私は、強制的に深海の部屋を追い出された。
数分後…
深海の部屋の前で待っていると、
襖が開いて、いつもの服装の深海が現れる。
目の前の私を見た途端、何故か深海が引いていた。
「いや、何で僕の部屋の前で正座してるんですか…
大人しくこたつとかで待ってて下さいよ」
「深海の寝巻き姿ってさ、無防備過ぎると思うの
着替えてる時にラッキースケベイベントとか
あるかもしれないじゃない?
それって私の方が良いと思うのよ」
「えぇ…」
あれ?さっきより引いてない?
私、何も間違ったこと言ってないよね?
「どうしたのよ深海」
「…………柚様、無礼を承知で、
一つだけ言っても構いませんか?」
「ええ、良いわよ」
「柚様の、そのたまに気持ち悪くなるの
本当に何なんですか?」
「私にとっては真剣なのよ?
何なら深海の寝巻きの匂い嗅ぐの忘れて…
って、何で私から距離取るの」
今度は引かれるだけじゃなくて距離まで取ってきた。
私、どれも真面目に言ってたんだけどな…
「今日は、柚様に近づくの控えますね」
「ちょっと待って、それは流石に傷つくわよ」
「僕が引く原因を作ってるのは柚様ですからね?
いい加減自分が引かれるような発言してることに気づいて下さい」
「………深海の馬鹿
今日の夜深海の寝込み襲ってやる」
「やめろ」
そんなに嫌だったのか、ため口になる深海。
表情には強めの嫌悪感が現れていて、
炎の形の火傷痕がざわざわと動いた気がした。
私の発言で病が進行するってどういうことよ。
「それじゃあ今日、夜這い(よばい)しに来るから、
楽しみに待っててね深海」
「楽しみどころか鳥肌が出てきたのですが」
そんなに私に襲われるの嫌?
これは少しでも好感度を上げるしかない。
「深海、一緒に雪うさぎ作ろう」
「その前に朝御飯を食べましょうか」
「はーい」
深海が作った朝御飯を食べた後、
ちょっとしたセクハラを試みたが、
深海にぱしっと手を叩かれて妨害される。
それと同時に深海が私に対して軽蔑した顔を見せる。
ごめんね深海、今日はスキンシップをしたい日なの。
それでもめげずに手を出す私に対しての好感度は、
どんどん下がっていく一方だった…
「柚様、雪うさぎを作ろうにも、
肝心の目の部分がありませんが、どうします?」
「そうね…別の物で代用してみる?
例えば、みかんとかどう?」
「………サイズ的に大きすぎますが、
とりあえずやってみましょうか」
試しにみかんを使ってみたが、
雪うさぎの目が飛び出てるようになってしまい、
何だか気持ちが悪かった。
「………これは失敗ね」
「そうですね」
「別の物を使いましょう?
何か代わりになるものは…」
私は手ごろな木の枝を持ってくると、
とりあえず目の部分に刺してみることにした。
「柚様…うさぎの目を枝で抉るとか、
案外残酷なことをしますね」
「ち、違うの!そんなつもりじゃなかったの!」
「いや、良いんです何も言わなくて
柚様の狂気は良く分かりましたから」
「これは本当に違うのよ!」
結局ちょうどいい目が見つかることはなく、
ただ私の好感度が下がっただけに終わった。
その日の深夜…
私は宣言通り、夜這いに来たのだが…
「何で入れないのよ!」
深海は襖に棒でも立てて入れないようにしたのか、
この日の夜、私の計画は失敗し、
私は深海の部屋の前でふて寝したのだが、
朝起きた深海に『うわぁ…』と言われ、更に引かれた。