小さなかまくら
今回は深海くん目線で進行します
多少グロ描写があるかもしれませんがご了承下さい
一月四日。いつもと変わらぬ平和な一日。
朝に弱い柚様を起こしに行くのが僕の日課だ。
「柚様、起きてください。もう朝…あれ?」
寝室には柚様の姿は見当たらない、
もしや、今日は珍しく早起きしたのだろうか。
まあ、もしそうなら喜ばしいことだ。
今度から柚様には自力で起きてもらおう。
それにしても、どこに行ったのだろうか。
「柚様ー!」
「はーい」
僕が柚様の名前を呼ぶと、庭から声が聞こえる。
僕は声が聞こえた方に視線を向けた。
すると、目の前にはキラキラとした目で
何かを言いたそうな顔をしている柚様がいた。
「………何してるんですか?柚様」
「かまくら!徹夜で作ったの!」
只でさえ寒いって言うのに、
何で庭でかまくら作ってるんですかあなたは…
しかも徹夜とか、馬鹿なんですか?
「こんなクソ寒い中でかまくらとか、馬鹿なんですか?
ずっと外にいると風邪引きますよ」
「大丈夫!私風の子だか…くしゅん」
柚様からはすぐに盛大なくしゃみが出る。
ああほら、徹夜でかまくらなんて作るから…
このままじゃ本当に風邪を引きかねない。
一刻も早く、柚様の体を温めなければ…
「柚様、それ以上外にいると風邪を引いてしまいます
早く家に入りましょう」
「嫌!深海がかまくらに入ってくれるまで
家に入らないもん!」
「柚様は変な所が頑固ですね…」
柚様は僕がかまくらに入るまで、
家に入る気はないようだが、
流石に柚様も徹夜で体力を消耗したのか、
眠そうに目をこすっている。
「うぅ…寒い…眠い…」
「寝たら死にますよ」
「大袈裟だなぁ、雪山じゃないんだから、
庭で寝たくらいで死んだりは…」
「例え雪山じゃなくても、
低体温症で死にますよ」
「ひえぇ…」
柚様は知らなかったのか、ガクガクと震え始める。
そして黙って見ている僕を睨み付けた。
「それなら…」
「それなら、何でしょうか」
「深海も道連れだぁ!」
急に柚様が僕の手を掴んだかと思うと、
力一杯に僕を引っ張る。
その拍子にバランスが崩れ、
結果的に僕が柚様を押し倒したような体制になった。
「ふぇぇ?」
柚様は突然のハプニングに顔が真っ赤に染まる。
変な空気になる前に早く離れよう。
「すみません、すぐどきます」
僕はすぐに柚様から離れると、仰向けに倒れている
柚様に手を差しのべる。
「柚様、手を」
すると、柚様は何が気に入らなかったのか、
怒りながら僕の手を取って立ち上がった。
「…………深海の馬鹿」
何故か柚様は不機嫌そうな顔で不貞腐れている。
不機嫌の理由はちっとも理解が出来なかったが、
とりあえず今回は柚様のわがままに応えよう。
柚様の自信作であるかまくらに入ってみたが、
まず最初に思ったことは…
「思ったより狭いのですが」
「文句言わない、一生懸命作ったのよ」
柚様作のかまくらは、僕と柚様がギリギリ入るくらいの大きさで、
くつろげるスペースすらなかった。
狭いので、柚様と密着してる状態だ。
少し暗いのでよく見えないが、
また柚様の顔が赤くなっている気がする。
「柚様、また顔が赤くなってますよ
本当に風邪引いたんじゃないですか?」
「風邪引いてないもん」
すると、また柚様がすねて顔を背ける。
一応、熱がないか確認した方が良いだろう。
僕は柚様の額に自分の手を当てて、
熱がないか確認する。
さっきよりも熱が上がった気がするが、
風邪を引いているのは間違いないだろう。
「ど、どどどどどうしたの深海」
声から凄く動揺しているのが分かるが、
使用人に対して何を考えているのだろうか。
まあ、そんなことを考えても仕方ないことだ。
「柚様、やはり家に戻った方が良いですよ
このままでは風邪が悪化してしまいます」
「………ねえ、深海」
「何でしょうか」
背を向けた柚様からは、表情を読み取れない。
でも、さっきよりも顔が赤くなっているのは分かった。
「私のこと、どう思う?」
「柚様のことですか?」
「そう、どう思ってるの?」
「柚様は柚様ですよ
他に何があるって言うのですか?」
「………そう、そうよね
深海は私のこと、何とも思ってないわよね」
「……………柚様…」
ああ、赤く熟れた柚様は、とても美味しそうで、食べ頃で、
その真っ白なうなじに、歯を突き立てたいほどに…
今あなたを食べようとしたら、
あなたはどんな声で鳴いてくれるのでしょうか。
柚様、あなたは、こんな僕を見ても、
受け入れて、食べられてくれるのでしょうか。
今まさに、柚様に歯を立てようとした瞬間、我に返る。
待て、今僕は、柚様に何をしようとした?
僕は柚様を、食べようとしたのか?
「…………柚様、先に家に戻っていて下さい」
「え?どうしたの深海」
「僕も後で行きますので、こたつに入って待っていて下さい」
「うん、分かった
先にこたつに入って待ってるわね」
柚様が離れたのを見届けると、
段々と荒くなる呼吸を必死に抑えながら、代わりの獲物を探す。
全身が、燃えるように熱い。
チリチリと、火傷痕が激痛を伴った。
すると、近くに雀が止まっていたので、
代わりの獲物として捕まえることにした。
「こら、暴れるな」
暴れる雀に対して、隠し持っていた短刀で止めをさす。
動かなくなった雀を貪り咀嚼する。
ああ、血に飢えた喉が潤っていく。
人の肉ではないのが惜しいくらいだ。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
段々と荒かった息が収まっていく。
いつの間にか燃えるような熱い感覚も消えていた。
口元についた血を拭いながら、息をつく。
悪鬼症候群が末期状態になれば、
いずれは柚様もこうなってしまうだろう。
それならば、そんな苦しみを知る前に、
早めに死んだ方が、柚様も幸せなはずだ。
私は得意な笑顔でにっこりと笑う。
「今度こそは、共に死にましょうね柚様」
あの世でも、柚様を一人になんてさせるものか。