無風の凧(たこ)
しんしんと雪が降り積もる一月三日。
私はお気に入りの凧を誇らしげに掲げながら叫ぶ。
「深海、凧上げしよう!」
「こんな雪が降ってる上に、無風の状態で凧上げとか、
正気ですか?それとも馬鹿なんですか?」
私は深海の心無い言葉にむすっとした顔になる。
「馬鹿じゃないもん!
私だって真面目に正月を楽しもうとしての行動だもん!」
「それなら尚更日を改めるべきです
今凧上げをやっても、地面を滑るだけですよ」
「その時は深海がうちわで扇げば少しは飛ぶじゃない」
「それ、わざわざ外でやる必要あります?」
「外だからこそ意味あるの!
ほら、ごちゃごちゃ文句言う暇があるなら、凧上げ手伝って!」
「使用人の一番横暴な使い方ですね」
「文句言わない!黙ってやる!」
「はいはい、分かりましたよ」
深海はため息をつきながら凧を持って私の後ろを走る。
最終的には私の言うことを聞いてくれるところが、
深海の良いところだ。
しばらく走ってみたが、やはり無風なので、
凧が一向に上がる気配はない。
「ねえ、やっぱりうちわで扇いで…」
深海に声をかけた瞬間、プツンと凧の糸が切れる。
何か鋭利な刃物で切れたような、雑な切り口だった。
深海は一瞬何かを懐に隠したが、いつもの笑顔で対応する。
「どうしました?柚様」
「今、何で凧の糸が切れたの?」
「きっとどこかに引っ掛かって千切れたのでしょう
凧はまた新しい物をご用意致します」
嘘だ。確実に深海は、私の命を狙っている。
確証もないのに、何故か私はそう思った。
大好きな平和の中に、少しずつ大嫌いな非日常が紛れ込み始めた。