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深紅の悪鬼は繰り返す  作者: 札神 八鬼
一月編 深紅の悪鬼はやり直す
3/23

100回目の一月一日

がくっと肘がテーブルからずれて、私は悪夢から目覚める。

でも、どんな内容だったかは覚えていない。

ただ、二度と思い出したくない悪夢だったのは確かだ。

そんな私の姿をくすくすと笑いながら、

深海(みかい)蜜柑(みかん)の皮をむいている。

彼はすじが苦手だからいつもちまちますじを取っていた。

こたつの暖かさが、汗でぐっしょりの私を温めてくれる。


「ねえ聞いてよ、さっき嫌な夢見たの」


「へえ、どんな夢を見たんですか?」


「それは覚えてないけど、嫌な内容だったのは覚えてる」


「そうですか、覚えていないのなら仕方ありませんね

嫌なことは早く忘れた方が良いですよ」


「まあ、それもそうだけど…」


彼はすじが取れて綺麗になった蜜柑の一房を口に含み咀嚼する。

この光景はいつもの見慣れた光景だ。

テレビからは大物歌手の歌声が聞こえており、

外ではしんしんと純白の雪が降っている。

私は、この何でもない日常が大好きだ。


「そろそろお雑煮の準備をしましょうか」


彼はこたつから出ると、お雑煮の準備の為にキッチンへと向かう。

しばらくすると、お雑煮の良い匂いがキッチンから漂ってくる。

私はお雑煮が出来上がるのを待つ時間も好きだ。

小気味良い音を立てる包丁の音、

グツグツと煮立つ鍋の音、

そのどれもが、私の大好きな日常の一部なのだ。

私は忘れろと言われながらも、

待つ間あの悪夢の内容のことを考えていた。

どんな夢だったかは詳しく覚えていない。

でも、私は(わず)かでも覚えているのだ。

体が燃えるような熱さ、そしてむせかえるような鉄の匂い。

それはとても恐ろしく、私の大嫌いな非日常の世界だった。

そんな未来にはなってほしくないものだ。

すると、次第にお雑煮の良い匂いが近づいてくる。

どうやら、彼の特製お雑煮が完成したようだった。

頻繁に食べるお肉は何のお肉だっただろうか。

覚えていないが、普段普通の人達が食べている

どのお肉とも違うことは覚えている。


「柚様、冷める前に早く食べましょうか」


「そうね」


「いただきます」


私と彼は手を合わせると、お雑煮を食べ始める。

少し変わった味のお肉も、よく伸びる熱い白もいつも通りだ。


「ねえ、深海」


「はい、何でしょうか柚様」


「お雑煮のお肉は、何のお肉だったっけ」


「もしや、お忘れなのですか?

………いえ、覚えていないのであれば、

その方が幸せなのかもしれません」


「どういう意味なの?それ」


「聞いたら後悔しますよ」


「なら聞かない」


「それが懸命な判断です

もし聞けば、今のように食べられなくなりますよ」


本当に何のお肉なんだろう…

聞けば聞くほど気になるが、聞くのはやめておこう。

テレビでは、カウントダウンが始まっており、

いよいよこの年も終わりを向かえている。


ゴーン ゴーン ゴーン。


0のカウントダウンと共に除夜の鐘が鳴り響く。


「明けましておめでとうございます、柚様」


「ええ、明けましておめでとう」


今日も平和に、新しい一年が明けた。

「今年は、深海の悪鬼症候群が治れば良いわね」


「………そうですね、柚様も良くなれば良いのですが…」


「え?私どこも悪くないわよ?」


「………いえ、何でもありません

それよりも、今年も宜しくお願いしますね」


「ええ、宜しくね深海」


この中で、悪鬼症候群の患者は深海のみ。

普通なら殺処分されるところを、

国に治療の意思を宣言したことで生かされている状態だ。

いくら国から援助されるからと言って、

それに甘え続けるわけにはいかない。

深海を奇病から解放する、それが私の目的なのだ。

今年こそは、あなたを救ってみせる。

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