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深紅の悪鬼は繰り返す  作者: 札神 八鬼
二月編 愛の後悔 
15/23

鬼と人の境目

鬼と人の境目とは何なのであろうか。

鬼とは所謂邪悪なもの、得体の知れぬ生命体を

人々は鬼と呼称するが、ならば悪鬼症候群患者の、

鬼と人の境目となると、まだ完全に解明されてはいない。

ただとある研究結果で面白いデータがある。

諸君は節分の豆まきなどに使われる大豆は知っていると思うが、

これはそれに関する研究データだ。

とある研究施設で、条件の違った悪鬼症候群患者を用意した。

A:理性の失った悪鬼症候群患者(強い嫌悪感により発症)

B:理性のある悪鬼症候群患者

C:理性のある悪鬼症候群患者(強い絶望にて発症)

この被験体に豆をぶつけてみたところ、

BとCは反応なし、Aだけが苦しそうにもがいていた。

そして次は試しに食べさせてみたところ、

BとCは同様の結果で、Aだけがもがみ苦しみながら息絶えた。

このデータを元に判明したことは、

鬼と人の境目は、我々の認識によって変わるということだ。

つまりは、一人でもその患者を人間として

認識している者がいるなら、豆も効かないのだ。

当時の研究員は誰一人Aを人間として認識してはおらず、

いつ襲いかかってくるか分からずに恐怖していた。

だからこそ、Aには豆が効いたのであろう。

この記録を読んでいる諸君は、どうか忘れないで欲しい。

本物の鬼を作り出してしまうのは、

他でもない、鬼を恐れている我ら人間なのだと。


悪鬼症候群研究家:葉桜 拓郎


◇◇◇


二月三日、節分の日。


「悪鬼を作り出すのは僕達人間…か…」


それならば僕は、周りの者にとっては何なのだろうか。

人を喰らう悪鬼か、それとも人間なのか。


「何読んでるの?深海?」


すると、背後から柚様が覗き込んできた。

手に持っているのは…大豆が入っている箱のようだ。


「柚様のお父様の本ですよ」


「私もパラ読みしたことあるけど、

お父様って何て言うか、

固い、というか、難しい書き方するわよね」


「文章には人の性格が出ますから、それが反映されたのでしょう」


「まあ、好き好んで悪鬼症候群の研究ばっかしてるから、

頭も固いのは仕方ないのかしら」


「一つのことに熱中出来るのは良いことですから、

我々がどうのこうの言う資格はありませんよ」


「そんなことより深海!豆まきやろう!深海鬼ね!」


先程の記述には、周りの認識によって、

豆が効くかどうか変わると言っていた。

柚様は…僕を人間として認識しているのだろうか。

もし、鬼として認識していたとしたら…


「………良いですね、やりましょう」


あって欲しくない悪い考えを打ち消して、

僕は柚様の後へと続いた。


「はい、これ着けて!」


庭に出ると、柚様は満面の笑みで鬼のお面を渡す。

どこで買ったのかは知らないが、まぬけそうな鬼だ。

桃太郎の絵本とかに出てくる倒された後の

情けない顔の鬼みたいな…


「ちょっと深海!いつまで突っ立ってるのよ!

早くそのお面着けて鬼役やって!」


「はいはい、分かりましたよ」


僕が鬼のお面をつけると、すぐに柚様は

嬉しそうな顔で僕に豆をぶつけ始めた。

豆がぶつかっても特に体の変化はないので大丈夫そうだ。


「鬼は~外!鬼は~外!」


「これ、僕達がやるとシュールですね」


「何言ってるのよ深海!

私達の節分は願掛けみたいなものなの!

体の中にある鬼を追い出して、

悪鬼症候群を治してもらうの!」


たかが豆にそんな効果はないだろうし、

それなら病院行った方が早く治るだろうが、

柚様が治ると豪語しているのだから信じることにしよう。

今はただ、この何気ない日常だけが僕の全てだ。

僕は完治なんて望んではいない。

一日でも長く柚様と平和に過ごして、

あの運命の日に共に死ねたら…それだけで充分なのだから…


「では、次は柚様が鬼役して下さい」


「えー…もっと豆投げたかったのに…」


「この豆まきが願掛けなら、

僕にも柚様の完治を願わせて下さいよ」


「うー…仕方ないな」


柚様は渋々と言った表情で僕に大豆が入った箱を差し出す。

完治するのが嫌なのか、はたまた本当にまだ投げたかっただけか。

その真相は、多分どれだけ繰り返しても分かりそうにない。


「それじゃあ、行きますよー」


「がおー!鬼さんだぞー!」


柚様は鬼のお面を着けた状態で、

一生懸命に怖い鬼を演じようとしているのだろうが、

ただ可愛いだけで怖さとかは微塵(みじん)もない。


「リアルで自分は鬼だと宣言してる奴いないと思いますけど」


「節分にリアルさとかいらないの!

大事なのは楽しめるかどうかよ!」


今回の豆まきで分かったことがある。

僕と柚様に豆は効かないということだ。

良かった。


僕は。


私は。


まだ人間のままなんだ。


恵方巻きを食べながら、物思いにふける。

今日も何事もなく一日を終えた。

僕達は後何回、平和な一日を過ごせるだろうか。

ああ、二月三日がもうすぐ終わる。

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