この愛、朽ちるまで
二月一日。今日は珍しく柚様から
散歩をしようと言い出してきた。
僕は出かける準備を済ませると、
柚様と一緒に外を出た。
「こうして二人で散歩をするのは久しぶりね」
「そうですね、柚様」
あれから何度目かの二月一日だが、
こうして柚様と歩くのも久しぶりだった。
僕は後何日、柚様の側にいられるのでしょうか。
ふと、柚様の目線がある場所へと留まる。
「深海、少し寄っても良い?」
柚様が指を指しているのは甘味処だった。
目を輝かせる柚様に対し、僕も笑顔で応じた。
「それなら、僕は店の前で待っていますね」
甘味を買うだけなら、柚様一人でも大丈夫だろう。
店の前に腰掛けると、段々と眠くなってきて、
僕は夢の中へと堕ちていった。
◆◆◆
見渡すと、そこには一面クロッカスが生えていた。
どこに行ってもクロッカス畑が終わる様子はなく、
他に人も建物も見当たらなかった。
確か、クロッカスの花言葉は…
青春の喜び、切望、あなたを待っています。
そして…
「……………これは、紫色のクロッカス?」
ふと気づくと、真ん中には紫のクロッカスが咲いていた。
確か、紫のクロッカスの花言葉は…
「愛の後悔」
紫のクロッカスを優しく手折ると、
生気を吸われたかのように枯れていった。
◆◆◆
目が覚めると、地面には何かを引きずった跡と血痕があった。
血痕を辿ると、そこには柚様の姿があった。
「やっぱり、両想いじゃないと美味しくないわね
いつも食べてるお肉と同じ味なのは気のせいかしら?」
「柚様、ここにいたんですね
用事が済んだのなら帰りますよ」
柚様は僕に気付くと、にこりと笑う。
「先に帰って良いわよ
私はまだ用事が終わっていないから」
僕は、柚様が既に鬼となっているのを知っている。
だからこそ僕は、あなたの想いには答えられない。
そうしてしまえば、僕はあなたの側にはいられなくなってしまう。
だから僕は、鈍感な使用人を演じるのだ。
「分かりました
僕も少し寄り道してから帰りますね」
◇◇◇
「深海、私の部屋に紫の花が飾ってあったんだけど、
あれ何の花なの?」
「あれはクロッカスという花でして、
僕からのプレゼントです」
「そうなの?ありがとう!
深海もやっと私の有り難さが分かったのね!」
「昨日こたつでお菓子を食べ散らかしていなければ、
もっと尊敬出来たんですけどね」
「だって、こたつが離れたくないって言ったのよ?
それは仕方ないじゃない」
「そう思ってるのは柚様だけです」
「彼もちゃんと私を愛してくれてるわよ!」
「柚様」
「何?深海」
「柚様は僕が一生をかけて、お仕えしますからね」
「?そんなの当たり前じゃない」
「それもそうですね
柚様にとっては、当然のことでしたね」
この愛、朽ちるまでは共にいよう。
あの紫のクロッカスのように、
いつかは枯れゆく命であろうとも、
僕は己の命をかけて、彼女に尽くし続けよう。
どうか、僕を裏切らないで下さいね柚様。
クロッカスには、『裏切らないで』という
花言葉があるそうです
何か深海にぴったりだと思ったので入れてみました(偏見)