第六百四十話 残った二つの狂女
森の妖精であるエルフたちが住む隠れ里。
外界と隔絶されたような神秘的な空間。
邪な侵入者などが到達できない結界などが張り巡らされたその村にて……
「これはモッコーリ鯨のアレから作り出された超強力精力剤。これを摂取すれば男は一日何十発もヤらねば精神崩壊して死ぬほどの強力なーのじゃ♥」
「これがジャポーネの遊女や後宮の女官たちに伝わる、男を誘惑するための……勝負を超えた……決闘下着! これを着て、ベッドでデュエルスタンバイよ!」
「巨乳化、強制搾乳剤、逆に男を小さくする薬もあるのじゃ。幼児化させてあえてという趣向も楽しめるのじゃ♥」
「後宮から殿様サイズベッドという、子作り専用のベッドを運んできたわ」
メチャクチャ邪な会話をする美女二人が、禍々しい瘴気を放って会話をしている。
「……なーんか、空気がほんと寒いじゃなーい。どうしてこうなったやら……」
「それもこれもアースくんが無断で出て行ったからこそじゃな……」
そんな二人を、集落に滞在中のコジローとミカドは青ざめた表情で眺めていた。
そう、ジャポーネでの騒動を終え、その後の国の混乱を収めるべく、シノブの父であるオウテイたちが復興含めて従事している中、アース、エスピ、スレイヤ、そしてアミクスとラルウァイフ、さらにはガアルまで姿を消した。
「アミクス……嗚呼嗚呼ああああ、アミクス~~~、今日も帰ってこない……嗚呼ぁああ、アミクス~」
「落ち着きなさいよ、あなた。大丈夫よ……アースもエスピもスレイヤもラルだってついている……世界最強のボディガードがついてるんだから、きっと大丈夫よ」
「でもぉぉお、ああ、アミクスに何かあったら……ただでさえエルフは希少……それがあんなに可愛くて美人で、我が娘でありながらあの巨乳……嗚呼ぁあああ、心配だあぁぁああ」
愛娘であるアミクスまでいなくなったことに、族長夫妻は気が気でなく、特に族長は一夜明けても激しく取り乱してしまっていた。
そして何よりも……
「分かってるのじゃ、シノブ…………黙って消えた婿殿への折檻を……」
「私もハニーとはまともな恋愛をしたかったわ…………だけど……先に約束を破って不義理をしたのはハニー……黙っていなくならないように釘をさしたのに、本当に黙っていなくなったんだもの……事情は聞くけれど、答え次第では……さらにもしまた、素敵すぎるハニーに堕ちた、新たな女が『増える』なんてことになっていたら……もう、私も……うふふふふふふ」
アースは黙って消えて心配という気持ちはあるが、そこはアースたちの力を誰よりも信頼しているからこそ、そっちはあまり心配ではない。
むしろ、アースが黙って消えたということに対する憤りが大きいノジャとシノブ。
その目は明らかに歪んで病んでいた……
「しかし、あのアーナ・ニーストの息子……オウナくんが、お兄さんたちがナンゴークに行ったことを教えてくれたんだから、シノブの力で合流すればいいだけじゃない」
「まぁ、そこら辺は……シノブなりの気遣いもあるのじゃろうな……優しい娘じゃよ、本当に」
そう、コジローの言う通り、アースたちは姿を消したものの、どこへ行ったかは既に分かっていた。
それは、アースたちに情報提供をした、アースのかつてのクラスメートであるオウナの口から明かされたものだった。
さらに、そこには……
「のぉ、シノブ……やはり合流せぬか? おぬし、時空間のマーキングを婿殿に仕掛けておるのじゃろう? なら、ひとっとびなのじゃ」
「ええ、そうね……」
「こうやってノンビリ作戦会議している間に、もしあの厄介な娘……クロンという娘と再会で燃え上がって一線超えていたらどうするのじゃ! 孕んでいたらどうするのじゃ!」
その地にはクロンがいるということも、オウナからの情報が入っていた。
そう、アースたちがクロンたちの危機に駆け付けたということを、シノブたちも把握していた。
「悠長なことしてられないのじゃ! あの娘は本当に危険なのじゃ! だいたい、あの娘も婿殿に心底惚れておるのじゃ! 婿殿も満更ではないのじゃ!」
「分かってるわよ。でも、だからこそ……まぁ、ね……」
ノジャはクロンの存在がどれほど危険なものなのかを鑑賞会を通じて理解していた。
そして、それはシノブも同じである。
特にシノブはクロンと直接会ったことがあるからこそ、クロンがどれほど魅力的で、自分にとってはサディスとは別の意味で最大最強の脅威であるということを、カクレテールと天空世界での一連の出来事で知っている。
だからこそ、ノジャはシノブの力を使って今すぐにでもアースの元へ飛んでいき、なんならクロンの邪魔をしてやろうと騒ぐ。
しかし、シノブは……
「一応……天空世界のアレ以来、彼女もハニーとはしばらく会えてなかったわけだし……同じ男に惚れた女として……まあ、一日ぐらいは……私もこのジャポーネでハニーとは二人だけの時間を過ごしたりしたしね……」
シノブにとってクロンはライバル。だが同時に同じ男に惚れた同士でもあり、更には天空世界でも共に戦ったりという縁もある。
そのクロンが久しぶりにアースと会えたのだ。クロンにとってそれがどれほど嬉しいことかをシノブも容易に想像できた。
だからこそ、その再会に喜びと、アースと過ごせる時間を多少なりとも……と、狂った目つきをしながらも優しさと気遣いがあるがゆえ、昨日の今日でアースに合流しようとすることはしなかったのだった。
「甘いのじゃ! 本当に一線超えてたらどうするつもりなのじゃ!」
「ソレはないわ……ハニーがそう簡単に堕とされるなら、私だって苦労しないわ。大体、彼女は純真無垢が服を着て歩いているようなもの……そんなことを迫ったりは―――」
「何を言うのじゃ! そのクロンという娘の傍にはヤミディレがおるのじゃ! あの女は婿殿を気に入っているからこそ、クロンと無理やりくっつけようと画策するのじゃ! 何よりも、あのクロンという娘……純真無垢ぅ~? そういうのに限って、恋を知って、惚れた男といい雰囲気になったら意外と大胆に行動したり、結構エロスに興味津々なピュアビッチ化するようなものなのじゃ!」
シノブと違って、ノジャに至っては「甘い」とシノブを叱責する。
そして、意外とノジャのその予想はだいぶ正解だったりするわけだが……
「そ、そうかしら? ……ん~……でも……」
「何を躊躇っておるのじゃ! やはりすぐに―――」
「だ、だけど……ほら、あまりこういうのでしつこく纏わりついたりすると……ウザい女と思われるかもしれないし……」
「のわあああ、まだるっこしいのじゃぁぁぁあああ!!!!! そんなもんにビビってると、一生処女なのじゃ嗚呼ああああああ!! パトスがどうとかどうしたのじゃぁあああ!!」
いずれにせよ、本当はすぐに合流できるのだが、シノブなりの気づかいゆえに、シノブたちはまだアースとの合流を少し先延ばししていたのだった。
「ほーんと、怖いけど可愛いじゃない……オイラとしては、シノブに報われて欲しいじゃない」
「まあ、ジャポーネのワシらにとってはそうじゃなぁ……その方がジャポーネにとって……いいや、それは大人の醜い願望じゃな」
そんなシノブにコジローたちはホッコリしながら、同時に大人たちの打算を考えないようにと言い聞かせた。
「それもそうじゃない。実際、ウマシカ国王が万が一戻ってきたとしても、その前にもうこの国は国王ではなく議会で国を……ということにするよう、今は動いている最中じゃない」
「ウム。新しい時代、国……そこにはワシのような古臭い考えを持つ者も不要……というか、コジロー! おぬしはむしろここに居とる場合か! おぬしこそ、これからのジャポーネを導く一人として、王都で手伝ってこんかい!」
「いやぁ……オイラそういう小難しいのは……ソレに――――」
そのとき、ミカドと話している最中、コジローは少し真剣な表情で……
「例のシテナイ総合商社……さらに、ジャポーネの問題に多少なりともハクキも関わっていたみたいだし……もうちょい何かあるかもしれないし、いつでも動けるように今はまだオイラは待機……じゃない?」
「……例のナグダの遺産……持ち運ばれたものについてか」
「そ。族長が落ち着いてから……そして、あのオウナ君にももう少し話を聞く必要があるじゃない」
と、諸々の後処理やらこれからに備えてコジローは静観中。
そしてそれが後に功を奏することになるのだが……
「それと、クロンやらまだ見ぬオナゴばかりを気にしてはおれんのじゃ……実はもっと危険なポテンシャルを秘めた危険な存在が婿殿の傍におるのじゃ、シノブ……」
「え? ……どういうこと?」
「アミクスなのじゃ……」
「……え?」
「……わらわ、ちょっと色々と煽ってしまったのじゃ……エルフと人間の寿命が違う者同士の恋愛…………悲しい結末とか気にせず、今をズコバコしろとか……ややこがどうとか……」
「……ゑ?」
今はまだ、ノジャとシノブはそれどころではなかった。




