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禁断師弟でブレイクスルー~勇者の息子が魔王の弟子で何が悪い~  作者: アニッキーブラッザー
第九章(三人称)

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第五百三十七話 祝福の裏で

「やりやがって……あの野郎……」

「ええ……本当にとんでもない伝説を隠してたじゃないのよ……それに気づけなかった私たちも本当にマヌケ」


 ライブ後の最後の花火が空に咲き、ゴウダは消滅した。

 残ったのはアース。

 最期の花火を心に刻みながら、涙目で笑みを浮かべるヒイロとマアムももはや感無量。



『お兄ちゃん! 六覇を倒しちゃったんだよ! お兄ちゃん、やっぱ世界一だよ! んふー! 私のお兄ちゃんは世界一~!』


『伝説……英雄……うん、お兄さんは本当にそれだけの偉業を成し遂げたんだよ! 世界はもっと知るべきだ! ボクたちのお兄さんがどれだけすごい人なのか、みんなもっと知るべきだよ!』



 そして、ライブを終えたアースを抱きとめてしがみつくエスピとスレイヤも大興奮。

 アースの偉業を称え、世界はもっと知るべきだと叫ぶ。

 それは、現在世界中の者たちがそう思っていることである。

 これほどの偉業はもっと知られるべきだった。

 しかし……

 


『いや……違うよ、エスピ、スレイヤ。ゴウダを倒したのは……勇者ヒイロ……』


「「あっ……アース……」」



 アースは未来から来た。

 だからこそ、歴史の教科書になって語られることを弄ることはせず、父の名を口にした。


『なんでよ、お兄ちゃん! お兄ちゃんが倒したんだよ!?』

『倒したというより、ゴウダは寿命だったからな~、俺は一緒に歌っただけだ……』

『意味わからないよ、お兄さん! なんで本当のことを言わないの? 手柄を勇者たちに渡すの?』

『いいんだ……それで……歴史の真実は……今この場にいる皆だけの胸にしまってくれ』


 伝説の六覇を倒したということを世間に公表しない。

 そうすることで余計な歴史の矛盾を起こさせない……というアースの配慮も……



「ぎゃああああああああ、やめろぉおおおおお、俺はそれも知らずにアースの手柄を横取りイイいい、ああああ、恥ずかしいィ、もう、マジであの絵本を廃刊にしねえとぉ!」


「うぅうううう、そうだったわぁ……世間に知られちゃって……いや、私たちも知らなかったのだけれど、あぁ~~~~~もう!」



 そして、ここに来てヒイロとマアムは再び頭を抱えてのたうち回る。

 そう、今回のことで世界はとんでもない真実を知ってしまったのだ。



「ふはははは、確かに……魔界にも地上にも知れ渡ってしまったからな……七勇者は六覇を一人も討ち取っていなかったという……」


「「ぎょわあああああああああああああああ!!!!」」



 ただでさえ心が晴れやかになっているハクキは、宿敵であったヒイロとマアムの羞恥にまみれてのたうち回る姿に心底機嫌を良くし……たのだが……


「いずれにせよ、真の歴史……そして伝説のライブを行った二人に乾杯……ん? ……乾杯……かん……ぱ……はッ!?」


 そのとき、ハクキはハッとして足元を見る。

 そこには粉々に砕け散ったワインボトルと、既にワインが完全にしみ込んでしまった真っ赤なタイル……


「はうわッ!?」


 楽しみにしていた希少ワインを一口も飲めなかったハクキは、ヒイロとマアムも初めて見るほど素でショックを受けた顔をした。












「お母さんのお友達のゴウダは、すごい人でしたね」

「……ええ……そうですね」


 ライブが終わり、それでも興奮冷めやらないクロンが、ヤミディレに抱き着きながらそう告げると、ヤミディレも迷わず笑顔で頷いた。


「マジで、本当に敬礼が自然と出ちまいますね……大将軍。ダーリンにはワリーけど」

「そうでもないぞ。ワシとて、敬礼はできんが……脱帽はしてしまうわい……あの、とんでもない宿敵にはのう」


 ショジョヴィーチとマルハーゲンも、かつての上官、かつての宿敵、それぞれ立場は違えども、ゴウダに対する敬意を強く抱いた。


「ええ……私たちが勉強していた歴史と違いますけど」

「それ! 絵本とも違うし!」

「この本……ねつぞう?」


 三姉妹娘たちも満足したように笑顔を浮かべていた。



「確かに絵本はどうするのでしょう……ねえ、お母さん。これ、アースがお父様の代わりに絵本の主人公になったりしませんか?」


「……は、はは……まぁ、ありえなくもないでしょうね」


「わぁ、素敵です! アースが絵本になったら、生まれてきた子供にも毎日読んであげたいです! あなたのお父さんの絵本なのよって……えへへへ……あ、私、気が早かったですね。でも……たとえ、絵本にならなくても、私は自分の子供に絶対に教えます。アース……そしてゴウダのことも」


「クロン様……ええ……それは、ゴウダも喜ぶでしょう」



 













「坊ちゃま……お見事でした!」


 震えながらも腰が抜けたサディスがそう口にした。


「あ、ああ……アースが……六覇のゴウダを……なんということだ」

「これが歴史の真実……は、はは、僕たちの教科書には載っていない……真実」

「アース……ッ! 俺たちは全員がかりでパリピ一人に圧倒されたというのに……あいつはもう……」


 フィアンセイたちも胸の高鳴りが抑えられない。

 アースがついにやった。

 世界中が興奮した。

 だが、それだけではない。


「ゴウダも……伝説に相応しき男であったな……」

「うん」

「当然だな。何故なら……父上たちが……ヒイロさんが討ち取れなかった男だからな」


 フィアンセイが素直にそう吐露すると、フーもリヴァルも異議なく頷いた。

 

「うん、アースくんもすごかったけど、あのゴウダも本当にすごかったかな!」

「そうっすね……なんつーか……ほんと、花火みたいなデッカく派手で豪快!」

「ゴウダ、かっこよかった」


 ツクシやカルイ、アマエも……


「うむ、自分も疼きが収まらん……アレだけのものを見せられては今宵も寝れんな……ハードな筋力トレーニングをしなければ」

「そうですね、マチョウさん! うう~~、僕は今日も走るぞー!」

「オラッ! 俺らも負けてらんねぇ! 伝説の二人の男みてーによぉ!」


 そう、アースはすごかったがゴウダもすごかった。

 二人が凄かったのだ。

 アースが勝ったことへの祝福と言うよりも、世界中から二人を称える歓声が上がっていた。


「うむ、天晴じゃ! ゴウダとやらもド派手に天寿を全うできて笑っておったわい」


 伝説の住人であるバサラも心底満足したように大きく頷いた。

 そして更に……



「確かに二人とも見事じゃった。だが、それはそれとして小僧……ノジャや他の六覇たちと戦ったときは、力や技術だけでなく、策を講じて乗り切っておった……しかし今回は違う……身に着けた力と技術のみで、メルトダウン状態のゴウダを穿ちおった……すなわち今のあ奴は策を使わずとも、六覇を超えた……ぐわはははは、血ィ滾るわい……今度は……真剣に喧嘩してみたいのぉ……小僧……いや、アース・ラガン」


「「「し、師匠ッ!?」」」



 ちゃっかりとバトルマニアとしてアースをロックオンしているのだった。

 その上で……


「……ん? ……ほう」


 バサラはあることに気づいた。

 このライブの余波で興奮して熱気溢れる一同。

 今すぐにでも身体を動かしたそうに全員がウズウズしている中で……


「私はいつでも駆け付けますと言いながら……ふふふ、もはや私が駆け付けられるレベルを遥かに超越してますね、坊ちゃま……そしてこのまま坊ちゃまは帰ることもなく、私に振り返ることもなく……ただひたすら突き進んで……このまま? そんなこと……抑えきれるはずがないでしょう……ふ、ふふふふ……」


 バサラの目に留まった、沸々と何かを沸き上がらせるサディスの様子に……


(溢れんばかりの想いが引き金となり、遺伝子に刻まれた特殊な魔力が噴き出して、肉体に影響を及ぼし始めておる……あのライブの影響か、この娘……開眼の兆しがあるのう……楽しみが増えてきた!)


 また笑った。

 ただ、その時一瞬……


「……ん?」


 バサラはサディスとは別の何かに感づいて視線を向ける。


「師匠? どうされたのです?」


 唐突にあさっての方向を振り向いたバサラに首をかしげるフィアンセイたち。


「……いや……ん? う~ん……気のせいか?」


 一瞬だけ何かを感じ取ったバサラだが、今は何も感じない。

 興奮して気が立っている自分の勘違いと思ってすぐに考えるのをやめた。








 だが、それは、バサラの気のせいではなかった。







「……本当に……うるさいなぁ……こんなことで目立とうとかキャーキャー言われようとか小物のやること……なにが……ロックだ……ライブだ……アース・ラガンだ……ナニガ!」


 世界中で、それこそ魔族も含めてアースとゴウダに興奮して称える中で、例外もいた。

 アースの活躍を見れば見るほど、忌々しいと思うものもこの世界には存在していた。


「あいつさえ居なければ……あいつが全てを奪った! コロシテヤル……ソノタメナラ……ソノタメナラ……」


 アースに対して深い憎しみと殺意を抱いた一人の男。

 その男の前に、一人の黒い外套を羽織った人物がほくそ笑んだ。



「ならば、我々の誘いを受けていただける……そう解釈してもよろしいガメ?  

 アース・ラガンを始末するための仲間になっていただけると」



 その言葉に、男は振り返りながら強い口調で尋ねる。


「本当にあの男を殺せる力を与えてくれると?」


 その問いに、外套を羽織った人物は即答で頷いた。



「無論ですガメ。すでに細胞もズタズタとなり、日常生活すら困難となったあなたの肉体も元に戻したうえで、天空族のヤミディレがあなたに投与していた不完全なクスリなどでは得られない、完全無欠の超人の力を得られるように改造するガメ。ただし……それはもう普通の人間であることを捨てることに繋がりますので、そのリスクを受け入れられるかどうかガメが……」


「リスク……か……では、もう一つ聞く。なぜ僕を選んだ?」


「簡単ですガメ。あなたがこの地上で唯一と言っていいほど、アース・ラガンに殺意を抱いているからですガメ。どんな手を使ってもあの男を殺したい……それほどの想いが無ければ私たちの提案を受け入れてもらえないと思ったからですガメ。そう、あなたは世界で唯一私たちに選ばれた存在なのですガメ」



 その言葉を受けて、憎しみに染まった男の顔が歪んだ笑みを浮かべた。


「ふん、リスク? そんなものに屈する僕ではない。この体も治り、さらに強さを得られるのなら……もうこの国にも外の世界にも僕の居場所はないんだ……地獄に行って悪魔に魂を売り渡そうと構わないッ!」


 全身の体毛、髪の毛から眉の毛も失い、頬骨が浮き出るほどやつれ切った体で、もはや自分では日常生活が困難な体となっている男は、復讐に燃えていた。


「そ、そんな……ヨーセイ……い、いいの?」


 男の名は、ヨーセイ・ドラグ。そしてそのヨーセイが静養している部屋にとどまり、今では世間に堂々と顔を出すこともせずに引きこもっていた、ヨーセイを慕っていた乙女たち。



「みんなも来るだろ? もう、皆だってあの鑑賞会の所為で嫌われているみたいだし……僕の傍以外に居場所はないだろう?」


「「「「っ……それは……」」」」



 アースに惨敗し、そして更なる薬の投与で暴走し、正気を失って彼女たちをも失望させるほどの暴言を吐き捨てて、そしてその果てで薬の副作用で再起不能となって、一時は生死を彷徨ったヨーセイ。

 その一方で彼女たちはかつてヨーセイに盲目的に恋をしたが、その幻想を粉々に打ち壊されたが、それまでの自分たちの言動などゆえに、彼女たちは結局ヨーセイの傍以外にはもう行き場所がなかった。

 だからこそ、彼女たちも従うしかなかった。



「では、早速移動しましょうガメ。住民たちは浜辺で騒いでそれどころではありませんが、誰かに気づかれるのも厄介ですガメ」


「ああ、そうだな。みんなも行くよ」


「改めて、私の名は『ゲンブ』というものガメ。あなたたちを歓迎させていただきますガメ……我らの国へ」



 ゲンブと名乗る者がそう告げ、ヨーセイたちを誘い外へ出ようとする。

 だが、そのときヨーセイガールズに体を支えながらヨーセイは一度足を止め……


「待て、仲間になる前に……教えろ。お前たちがアース・ラガンをそこまで殺そうとする理由を」

「ガメ?」

「もう……大神官……いや、ヤミディレの時のように騙されるのも御免だしな」


 その問いに、ゲンブは振り返らぬまま……



「目的は二つですガメ。アース・ラガンの危険性……魔界と人類の友好関係が大幅に進んでしまいそうなこと……これまでは、ライファントとヒイロたちの間でのハリボテのような友好だったが、これからは違いますガメ。旧・六覇、そしてあのハクキも下手したら……それは我らにとって望むものではないということですガメ。そしてもう一つは……」


「もうひとつは?」



 もう一つは何か? その瞬間、部屋の扉を開けたゲンブは、そのまま外套をまくり上げる。

 すると、その背には大きな亀の甲羅が背負われていた。



「マスターキー」




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【新作・俺は凌辱系えろげー最低最悪魔将】
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