表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

76/79

楽しい露天風呂


 エシャーティは生まれて初めて夕陽が憎らしいと感じた。なんせこちらはもう瞬きすら億劫なほど疲労困憊であるのに、サバンナを焼く夕陽ときたら腹が立つくらいに汗を焦がし、目をしみさせるのだ。


「はい、今日はここまで。お疲れさまです」

「ふぎッ、くぎッ……」

「動けないようですね。まあ無理もありませんか」


 ピクリとも動かないエシャーティを見兼ね、優しく抱き上げ仲間たちのいる拠点まで帰るホムラ。こうしてガッシリと触れるとエシャーティから噴出する汗の量がよく分かり、こんなにぐったりするまでシゴいた事に少し罪悪感すら感じてしまったが、短い期間で少しでも多くを教えるためには心を鬼にしなければならない。エシャーティの身を案じて稽古を緩めるのは今回に限っては無粋というものだ。


「ねぇ先生」

「お、どうしました」

「明日はもっと難しい事を教えてね」

「それはエシャーティの実力次第です。今日叩き込んだ基礎が全て身についていたら、遠慮なく次のステップへ入ります」

「ふわぁ、それを聞いて安心したわ」


 今日は徹底的に剣の基礎を鍛え上げた。振る、防ぐ、払う、刺すといった全ての動作に通ずる基礎をホムラは丁寧に、そして限界まで教えきった。何百とローズリリーを振り、何千と動かした肉体は速やかに休息と栄養補給を要求していた。眠りについた弟子を連れ、ホムラは足を急がせるのであった。


x x x x x x x x x x x x x x x


「ハグハグ、ごきゅごきゅきゅ!!」

「あの少食なエシャーティが三枚目のステーキを……!」

「今日はミッチミチに鍛えてあげましたから。しかしこの木の実はおもしろい食感ですね」

「それはバオバブの木の実だ。アグニャの速射の練習として、大量に生えてるこいつがちょうどよくてな」

「もしゃもしゃもしゃ……」

「アグニャさんもよほどシゴかれたみたいですね」


 お菓子のラムネのようにホロホロとして甘いバオバブの実をバクバクと喰らうアグニャ。エシャーティも昼は食べれなかったバキバキに硬いヌーの肉を物ともせずに頬張りまくっている。二人の圧巻たる夕食の様子は今日の稽古の壮絶さを物語っていたので、ホムラとレンは二人が満腹になるまでずっと食事に付き合ってくれた。


 1時間以上に渡る長い長い栄養補給がようやく終わる頃、空はすっかり暗くなっており汗でずぶ濡れのエシャーティたちはぶるりと思わず身震いしてしまった。と、二人は非常に恐ろしい事に気がついた。それはお風呂の問題である。


「ど、ど、どうしよ!」

「こんなに汗をかいたのに、こんなサバンナじゃお風呂なんて入れません……!」

「ああ、それなら心配いらないぞ。二人とも着替えを持ってついてこい」


 何か策があるだろうレンの言葉に従い二人は自分たちのテントから着替えを取ってきてレンの案内する場所へ向かったら驚きの光景を目にした。拠点の端に何やら仕切りがされたゾーンが作られており、中へ入ると東海岸で借りた浮き輪の巨大化したような物体に並々とお湯が張られ、レンの部下たちがサバンナのど真ん中で入浴を楽しんでいたのだ。


「はっはっは、さすがに驚いただろう」

「いっやー、すんごい力技ね。これ冷めないの?」

「よく分からんのだが、シロ様曰くこの柔らかい風呂釜は断熱構造がどうのこうので、数時間は冷めないそうだ! さすがはシロ様だな!」

「シロさんってめちゃくちゃ天才ですね」


 ビニールプールのようなこの即席お風呂の構造は非常にシンプルで、大中小のビニールプールを3つ重ねたような単純な作りである。しかしこうすることにより、空気の保持層が三重になるので凄まじい断熱効果が生まれ数時間もお湯が温かいまま入浴を楽しむことができるのだ。空気の”層”が3つあることが重要で、ただ空気を多く入れた一層構造ではさほど断熱できないのが肝。ちなみに空気というのはあらゆる物質の中でもかなり熱伝導率が低く、即ち断熱に優れている手頃な物質である。


 ご丁寧に脱衣場まで用意されているので、エシャーティたちはドキドキしながら服を脱ぎ、各々の裸体に思わず目を逸らしながらサバンナ・バスからお湯を汲み、しっかりと汗を流してから入浴する。想像していたよりも熱いお湯が今日の稽古の疲労をじんわりとほぐし、リラックスした表情が思わず浮かんだ。


「あぁ〜、極楽!!」

「まさかキャンプ中にじっくりお風呂に入れるとは、想像すらしてませんでしたよ」

「シロ様は常に兵たちの事を考えてこのような発明をしてくださるからな」

「確かにこりゃシロを崇める気にもなるわ」


 心地よい夜風の吹くサバンナでこんなに心地よい湯に浸かる贅沢ができるという事実が、綺麗好きな少女たちに明日からの稽古に耐える活力を与える。


 しばらく入浴を楽しんだエシャーティたちは火照った体をのんびりと動かし、清々しい風を浴びながら体を拭き始めた。その若々しくて穢れ一つない、見る人全てを魅了するようなエシャーティとアグニャの肌に思わず目が釘付けになった湯船の中のレンとホムラは、己の鍛えすぎて男臭さを感じる体に少し見劣りして自己嫌悪に陥ってしまい、しょんぼりした。


 だが逆に、エシャーティたちもレンとホムラの軍人らしい引き締まった肉体に尊敬の眼差しを向けていたのだ。結局のところみんな違ってみんな美しいものなのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ