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才能


「いいか、慣れない内は照準の若干下に弾が着弾するはずだから、それを踏まえて実際の狙いより僅かに上を撃て」

「分かりましドォォォォォン!」

「おわわっ! う、撃つなら何か合図して」

「あぶぶぶ」

「って、自分の発砲音で気を失っている……」


 銃身に顔がつかんばかりに手繰り寄せ、さらに銃声だけでなくドスンと来る反動や硝煙の濃い香りなど様々な要素が強烈に襲ってきたので、アグニャの体は数秒だけだが硬直を起こし、傍から見ると気絶したような状態になってしまった。


「……ハッ!」

「おお、大丈夫か?」

「す、すみません、思ったよりすごい衝撃が返ってきたので」

「いやいや、私も初めて撃ったときは肩が外れたりしたからな。気絶しても不思議ではない」

「そうなんですね。あ、ちなみに当たりました」

「ほう! どれどれ」


 息を大きく吸い込み千里眼で遠くを見渡してみるとキレイに眉間を撃ち抜かれたヌーがいた。よくもまあ的の大きな胴体ではなく頭を狙って、しかもヒットさせたものだ。ふぅと思わず溜め息をついて千里眼を解除したレンは、アグニャに今の狙撃の感想を聞いた。


「風が吹いてないとはいえ、この長距離で眉間を撃ち抜くのはとんでもない才能だぞ! 引き金を引いた感想はいかがかな?」

「反動が強くて腕を痛めそうですが、剣よりはよっぽど向いてる気がします」

「いやー、向いてるというか、兵として即戦力になるレベル」


 視力がよくても射撃自体が向いていなくて銃を使わせるのが危ない可能性もあったが、その不安もすぐ杞憂になった。あれほど遠くで動く獲物の小さな眉間を撃ち抜くには、正確に照準を合わせるだけではとても当たらない。もしかしたらマグレかもしれないが、この長距離でマグレ当たりを実現するにもまずは正確な狙いが不可欠なのは変わらない。


 と、二人はヌーの死体に近寄るハイエナに気づく。周囲に猛獣がいないかキョロキョロと見回しながら、しなやかなサバンナ色の体躯を走らせている。その悠々とした態度は捕食者そのものであった。


「さて、ヌーは動きがもったりしていたがハイエナならどうかな」

「さすがにあのすばしっこい動物に当てるのは……」

「まあそうだろうが物は試しだ。その銃は横についている装置を動かすともう一度撃てるから、何発で仕留められるかやってみな」

「なるほドォォォォォン!」

「だからぁ〜! もー!」


 レンが教えてくれた装置をシャコーンと動かし、そのまま間髪入れずにハイエナに向かって銃をぶっ放してしまうアグニャ。惜しくも1発目は外してしまい、モタモタともう一度シャコーンと装置を動かして焦りながら再びハイエナへ狙いをつけようと構える。しかし銃声に驚いたハイエナがなんとこちらへ向かって走ってきていた! 肉食の野生動物が襲いかかって来る恐怖で思わず2発目は草原の地べたへと大きく外してしまう。


「わあああ! こ、こないで!!」

「ははは、やはり焦るとキツいか。そら!」


 猛然と近づいてくるハイエナに対し、怯むことなくいつも通りの慣れた手付きで予備に持っていた銃を撃ち、見事にハイエナを退治するレン。一方アグニャは銃を抱え込んだままへたり込んでしまっていた。



「し、死ぬかと思いました……やはり私は、」

「外してはいたが1発目の狙いの速さと正確さは、間違いなくアグニャに潜在的な射撃センスがあることを証明していたな!」

「いえ、あの」

「そうだ、エシャーティも稽古をつけてもらっているし、アグニャにも射撃を教えてやるよ!」

「それは嬉しいのですが」

「なんだ、嫌なのか」

「私はやはり、大事な試験を務める自信が出ません」


 先ほどハイエナが凄まじい勢いで近づいてきた時に感じた恐怖が、アグニャにこれから課せられるであろう銃のテストに対して恐怖心を植え付けてしまったのだ。恐らくこれから何度もハイエナやライオンを狙う事になるのだろうが、さっきのように弾を外したらと思うと自分にはとても続けられる自信が出なかった。


 そんな弱気なアグニャにレンは心強い一言を掛けた。


「そうか。せっかくの才能がもったいないなぁ」

「才能ですか?」

「だってこんな重くて長い金属の棒みてぇな兵器を初めてであんな鮮やかに扱えるやつ、滅多にいないよ」

「で、でも私、ビビってしまうし」

「あんなのビビんない方がおかしいって!」


 ハイエナだぜ、ハイエナ! と笑い飛ばすレンにとても恐怖を感じていたとは思えないアグニャだったが、レンはアグニャの手をガシリと掴み自分の胸へと当てた。突然の行動に思わずアグニャは赤面する。


「ちょ、あの、や、やわらか……ん?」

「分かるか。私だって怖かったんだよ」


 ドクンドクン、と力強く跳ねるレンの心臓にアグニャは親近感を覚えた。そう、いくら戦争経験のある兵隊だからといって猛獣が怖くなくなるワケないのだ。それなのにいざとなればあんなにスマートに武器を取り出し、いつも通りに扱える冷静さは一体なんなのだろう?


 そんな疑問が頭に浮かんでしまったら、もうアグニャの頭からは先ほどまでの気弱な思考なんて吹き飛んでしまった。今の思考は、ズバリこの親しみがあって頼りがいのある軍人のようになりたい! という考えがどんどん湧いていた。


「私も……レンさんのように鮮やかに銃を使ってみたいです」

「そうか! 何でも教えてやるよ!」

「さっきはクヨクヨしてすみません」

「誰だって猛獣に近づかれたら堪えるさ。さて、そうと決まれば早速練習といこうじゃないか!」

「はい! お願いします!」


 どこかしっくりくる銃を手に、二人は再びヌーの群れを探しにその場を立ち去った。このサバンナにいる間でアグニャがどのくらいの射撃力を身につけられるのかはまだ分からない。しかし、レンはこの恩人に自分の持つ技術の全てを伝えてもいいと決心していた。


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「というワケで、このヌーは私が初めて仕留めた獲物なのです」

「すごいじゃないの! ねぇ、あたしにも銃を使わせてよ〜」

「別にいいが、今はホムラの稽古に集中するんだ。サバンナを渡りきったら撃たせてやろう」

「わかったわ。楽しみねぇ」


 まさかアグニャたちも自分と同じように稽古をして時間を過ごしていたとは思わなかったので、エシャーティの胸にはどちらがこのサバンナ横断中に多くの実力をつけられるか、という競争心が湧き出した。もちろんそれはアグニャも同じだったようで、二人の修練魂には密かに炎が滾り始めていた。そうなると居ても立っても居られない性分なので、食後にも関わらず早速先生たちへ稽古の申し出をした。


「「あのっ、先生!」」

「言うと思ったよ。さ、次は速射でもするかアグニャよ」

「ふふふ、自分も腹が膨れて運動したいと思ってました。行きましょう、エシャーティ」

「「はいっ!」」


 競争心が芽生えたのはエシャーティたちだけではない。レンとホムラも根は汗臭い熱血魂溢れる軍人であるから、こういう展開になると燃えるのだ。気合十分な四人は、それぞれの武器を手にサバンナの草原へと繰り出すのであった。


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