天然千里眼
「稽古お疲れさまです。初めての武術はどうでしたか?」
「なんか色々教えてもらったのに、どんどん次の事が知りたくなる稽古だった。それより見て、稽古でマメが出来たの! なおしてー!」
「おやおや、ほいっと」
「さっすが! ありがと!」
帰ってきたら既に食事は始まっており、レンの部下たちは各々好きなように気の合う者同士で食事をしていた。いくつかあるグループの中からエシャーティたちはレンとアグニャを探し出し、こうして今日あったことを共有していたのだ。
「わ、今日もヌーだ。あたしの分は……」
「ちゃんと柔らかい部分ですよ」
「きゃー、ありがとー!」
「いっぱいあるのでたくさん食べてくださいね」
そういえばどうやってヌーを捕まえたのかが気になるエシャーティ。それに気づいたのか、レンはエシャーティたちが稽古をしている間に何をしていたのか話してくれた。
「実はこのヌー、アグニャが仕留めたんだぜ」
「ええっ、そうなの!?」
「レンさんの手助けがありましたが、まあ」
「すごいじゃん! よくローズリリーで倒せたね」
「ふふふ、なんと私、特別に銃を使わせてもらったのです!」
「あのアグニャが銃を、ねぇ……」
「はっはっは、エシャーティだけが強くなっては不公平だからな!」
昼食の座はどんどん盛り上がっていく。テーブルには既にヌーはいなくなっていたが、誰も席を立つことはない。なぜならエシャーティもホムラも銃を使うアグニャがとても想像できないから、これから話されるであろうアグニャの野生動物狩りの話に耳を傾けたまま腰を据えていた。
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エシャーティたちが稽古をするためキャンプ地から離れて少し経った頃、レンは食料の調達をするために銃の用意をしていた。調達とはいっても野営食として缶詰や保存食はいっぱい持ち込んで来ているし、もし食料が完全に尽きてもサバンナの近くには東海岸の街があるので食べることに不便することは無い。
しかしシロから預かった資金や食料をバカ正直に使っていたらとても出費がかさむので、試作銃のテストも兼ねて野生動物を狩って食料を得ることにしたのだ。
連れてきた部下たちにある程度の指示を出し、ヌーを狩りにいざ行かんというところでレンはアグニャから声を掛けられた。
「レンさん、何か手伝えることはありますか?」
「そうだな、特に今は何もないが……あ、そうだ」
「私に出来ることなら何でもしますよ」
「アグニャは目は良いのか?」
「へェ? あー、まあ」
「そうか! じゃ着いてこい!」
じゃらじゃらと荷物を揺さぶりながら部下を何人か呼び出して出発してしまうレン。何をするのか全く分からないアグニャだったが、拠点にいてもエシャーティがいなくて心細いのでついていく。姉っ子ぶってはいるが、実際の社会経験などはエシャーティとどっこいどっこい。知らない人たちに囲まれたまま過ごすのは不安なのを東海岸の大食い大会にて思い知ったアグニャは、最近エシャーティの大切さを再認識していたりする。
ワケも分からないままレンについてきたが、なにやら急に大きなバオバブの木に隠れるよう言ってきたので従った。
「ふむ、群れから若干ハグれたのがいるな」
「あ、ヌーに用事があったんですね」
「この距離でヌーが見えるのか?」
「まあぼんやりですが……6匹いますね」
「すごい眼じゃないか、ドンピシャだ!」
遥か遠くにいる野生動物をヌーだと見分けるだけでも大した視力だが、それに加えて何匹いるかまでハッキリと正確に分かるアグニャに、千里眼を持っているからこそ驚愕するレン。
自分の素の視力でもここまでずば抜けた視力は持っていないので、アグニャが天然の千里眼並み視力を持つ非常に稀有な人間だと分かり、レンはふるふると己の好奇心が震えているのを自覚する。特別な力抜きでここまでの視力を持っているのはレンの知る限りではシロしかいないからだ。
「さすがは聖女、といったところか」
「あっ、1匹だけ子供がいました! かわいい〜」
「なあ、よかったら銃を使ってみないか?」
「うふふふ……ふが?」
シャコーン、と何かを銃に詰めるとレンはヌーへ向かって銃口を向けた。その一連の動きを見たアグニャはこれから放たれる轟音に備え耳を塞ぐと、ジャコァァン! という凄まじい音と爆光がヌーへと発射された。米粒のように小さく見えるヌーたちの一匹が犠牲となり、周りのファミリーヌーを散り散りにさせた。
「あんな巨体したヌーを一発で倒すなんて、相変わらず恐ろしい武器です」
「恐ろしいか。確かにそうだが、もしこれを使えるようになれば身の安全はグッと高まらないか?」
「そうでしょうが、私の手には余るのでは」
「そうは思わないけどな〜。一回やってみ?」
レンの本心はシロと同等の眼を持っているアグニャにぜひとも射撃をしてほしかった。なぜならレンの素の視力ではとてもアグニャやシロには太刀打ちできないし、かといって千里眼を使うといくらでも遠くを見渡せるから参考にならない。そして千里眼を調整して視界を二人と同じ程度にしたとしても、実際にはレンは力の代償として息を止めておかねばならないので、運動量に制限が出たりして若干不利だ。
つまりアグニャにもテストに協力してもらえればよりシロに近い条件で結果を出せるので、アグニャがこんなに眼が良いという発見はレンとしては非常にありがたいものだった。
「というわけで、もしよかったら撃ってみない?」
「そういう事でしたか。いくらでも手伝いますよ」
「そうこなくちゃなァ!」
ヌーの始末は連れてきた部下たちに任せ、レンは銃を扱う最低限の方法だけとりあえず教えてくれた。弾を込めたり装填したり各部品の調整をするのは後回しにして、本当に撃って当てるだけの最低限である照星と照門の合わせ方と引き金の引き方を教えた。
ヒンヤリとして重たい白銀の銃を持ってみて、何故か自分にしっくりくような気がしたのはアグニャの気のせいなのか、それとも銃がアグニャを惹きつけたからなのかは分からない。しかし想像していたよりも恐ろしい印象がしなかったのはアグニャの記憶にハッキリと残っている。
(この銃を持つと不思議な感じがしますね……普段から同じ素材のローズリリーを持っているからでしょうか。まあとにかく、レンさんのお気持ちに応えないと……!)




