きっと無事にいくと信じて
「あぁひどい目にあいました……」
「でも何とか追っ払えてよかった。てかこの十字架、ほんとなまくらだね。あんなバカスカ切りつけて、ヘビ無傷って……」
切りつけたというより叩きまくったと言う方が正しかったが、確かにアグニャは叩く合間合間に切りつけてもいた。非力なアグニャが使ったから、というのもあるがそもそものキレが悪すぎるため、刃物としては期待できそうになかった。
「とにかく、これからは後ろも注意しながら進みましょう」
「そりゃこっちのセリフじゃ」
少ないながらも食事をして、ヘビを相手に思いっきり動いたので二人のストレスはだいぶ和らいだようであった。雨降って地固まる、とでも言うような出来事だったと言えよう。
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ヘビとの激闘からはや数時間。落ちかけた太陽、斜めに長く影を落とす木々、肌寒いような気温。時刻は夕方に差し掛かっていたが、まだ隣町には着きそうになかった。
ふと、アグニャは隣を歩いているエシャーティをチラリと見る。疲れているからだろうが、何だか動きがぎこちない気がした。
「疲れましたね、少し休憩しましょうか」
「はっ、はぁ、いや、そろそろ急ぎ始めないと今日中に隣町に着かないかも。先を急ごう」
気を利かせ休憩を提案したアグニャだが、エシャーティはここに来て初めて否定の意を告げた。確かにそろそろ急がねば今日中の到着に間に合わないが、もう少しペースを落としても支障はないのに、だ。
少し引っかかるものを感じたアグニャは、ちょっと踏み込んでハッタリを仕掛けた。
「エシャーティ、痛みますか?」
「え、ケガしてるのバレた!?」
「え、ケガしてたんですか!?」
「え!?」
「私はずっと歩いているので足が痛むかと聞いたのですが。それはさておきどうしてケガを私に隠してたのです? 水臭いじゃないですか」
率直な疑問をぶつけるアグニャ。ケガをしたのならば、遠慮なく自分に言ってくれたらすぐに治してあげるのに。なぜわざわざ無理して歩いているのか、全く分からなかった。
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「だ、だってさ。ケガ治したらアグニャお腹すくじゃん」
「そうですが」
「あのさ、見ればわかるけどこんなちっちゃいマメだから! そこまで気にしなくていいの!」
「いーえ治します。ほい!」
靴下をめくり、マメが出来た足裏を見せてきたのでアグニャはササッと手当てした。少し腹は減ったがこれでもう大丈夫だろう。
引っかかっていた不安を取り去れたアグニャは、心置きなく旅を再開しようとした。が、エシャーティがいきなり声を張り上げた。
「もー! なんで勝手に治すのよ! ほんとに大丈夫だったんだよ、あのくらい!」
「いや足裏のマメは歩くと痛いでしょう? それに放っておくと雑菌も恐いし」
「けど! 今この食料がない状態なら手当てより我慢した方が良かったんだって!」
「大丈夫ですよエシャーティ、大丈夫。そんなに心配しなくても何とかなりますよ」
「でも今の手当てがキッカケでアグニャの体力が尽きたら……!」
(え!? あのエシャーティが私の心配を!? え、えへ、う、うれしいかも……)
深刻そうにそう言うエシャーティ。どうやら、今日中に着かねば大変な事になると言う不安や、今まで体験したことのない疲労、それに既に食べ終えてもう食料が無くなった焦りなどから錯乱しているようだった。
そんなエシャーティをなだめるように、優しく、慈しむようにアグニャは対応する。
「絶対に大丈夫ですよ。だって私たちには特製のバラのお守りがあるじゃないですか」
「こ、こんな最近買ったばっかのバラにそんな力ないもん……!」
「いえいえ、きっと私たちが旅の準備をしている間に司祭がすんごい加護を付与していますよ。それに、」
「それに?」
「すでに一回、ヘビから私たちをお守りしてくれたじゃないですか」
「そ、そういえばそうだ!」
「ふふ、少しくらい多めに休憩しても絶対に間に合いますよ。さ、おいで」
「うん!」
近くのちょうどいい感じの岩に腰掛け、エシャーティにも座るよう促すアグニャ。アグニャに何とかなると言われ、安心しきったエシャーティはしばらく休むことにした。
「えへ、ちょっと疲れすぎて悲観的になっちゃったよ。そうだよね、司祭がこのバラにすんごい加護をつけてくれてるよね」
「その通りです。でも心配してくれてありがとう」
「ま、まあ、ちょっと不安になることもたまにはあるってだけなんだからね!」
二人は仲良くバラを眺めながらしばしの休憩を楽しんだ。
そして先ほどのエシャーティの思い込みにより、この二本のバラには本当に加護がついたのであったとさ。
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