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悲しむ暇はどこにもない


 なんとか村人たちには気づかれず、無事に人気のない辺りまで来れた二人。走り疲れた足を止めたら、急に不安が二人を襲ってきた。


「アグニャ、あたしたちこれからどうなるんだろうね」

「分かりません。それに私たちのこれからもですが、一人残った司祭だって心配です」

「そうだね……足を止めると不安になるな、歩きながら考えよう」


 人っこ一人通る気配のない、寒々しい街道をこれからしばらく歩かなければならない。それ以外にもこれからの不安や、村の方から怒った村人が追ってこないかの恐怖が、二人を無駄に消耗させていった。


 1時間ほど歩いた頃。汗がにじんできたエシャーティはどこからか水の流れる音を感じ、会話で気を紛らわそうとアグニャに話しかけた。


「ねえ、なんか水の流れる音しない? 川あったりして」

「エシャーティも聞こえていましたか。少し汗をかいたし、川があったら休憩しましょう」

「うん! えーっと、北の方から聞こえない?」

「え、南でしょう?」


 試しに水の音が聞こえると思った方向をお互いに指差すと、違う方向を指してしまった。二人の間に、ピリついた空気が流れ始める。


「絶対あっちから聞こえるって!」

「いやいやそっちですよ。はぁ、言い合う時間ももったいないし先に進みましょう」

「ふん、折れたな」

「折れたんじゃなく、言い合うのが面倒なだけです」


 本当はアグニャの言う通り、南のほうに川があった。しかしエシャーティが北にあると思い込んだせいで南にあった川が北に転移してしまったのだ。

 そんな災害のような出来事を意図せず引き起こしたのはさておき、こんな事で仲の良い二人が険悪な雰囲気になるのは、二人とも普段こんなに歩き続ける事がなくだんだんイライラし始めてきたから。


 いつの間にか緊張感は消えうんざりとしたストレスが募りはじめていたのだが、今の二人は自分の精神状態に気を向けられるほどの余裕は無かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「はぁ、朝からあんなに歩いたのにまだお昼か」

「お昼ですか。キリも良いしそろそろ何か食べましょう。ちょうど木陰もありますし」


 合間に休憩を挟んでいるとはいえ数時間も歩き通しの二人はもう腹がペコペコだった。しかし持ってきた食料は最低限しかない。


「うう、さっき見かけた看板によるとまだ隣町まで半日はかかるんだよね」

「そうですね、でも予想よりは速い方じゃないですか。隣町にさえ着けば、夜中でも食事くらいはできるだろうし何とかなりますよ」

「だよね、心配しても仕方ないか。それにこうしてお外でひもじくパンかじるのも、たまには良いよね……」


 パンを食べながら二人は進むペースを相談する。先ほどとは違い前向きにエシャーティを励ますアグニャ。さっきはイライラしていたが、ちょっと腹に食べ物をいれたらいつものように冷静になれた。空腹を舐めてはいけないのだ。


(しかし、冷静に考えると順調すぎるような。いくら街道を通っているとは言え、人に会わなければ獣一匹すら見ないなんて)


 アグニャはこの、疲れ以外は大した障害のない移動に疑問を抱いた。以前司祭から村の外のことを聞いたときは、危険で溢れたスリリングな世界が広がっていると言われたからだ。

 隣町へ行くのにも油断すると獣に襲われる事もある、とおどかされたのをハッキリと覚えていた。そして実際、村にはときたまイノシシやクマなどが出没したのでこの街道の近くにもそれなりに危ない生き物が生息しているはずなのだ。


「エシャーティ、怖がらせるつもりじゃありませんが、もしも危険な生き物が出たら……」

「もぐもぐ」

「司祭からもらったこの変な武器で……」

「ごくん」

「や、やっつけるのですよ」

「そうだね」


 のんきに食事をするよくわかってなさそうなエシャーティに、念のためこの仕込み聖十字は何に使うのか説明する。これはただのお祈り道具じゃなく、危害を加えるヤツを成敗するものだと。

 エシャーティは理解したのか、ピンクのバラがついた鞘から剣を抜くとこう言い放った。


「こういう風に、でしょ?」


 刹那、アグニャの背後に忍び寄っていたヘビめがけて渾身の力で剣を叩きつけた。が、ヘビはエシャーティのもったりした動きにすぐ気づき俊敏に避けてしまう。


「わ、わ、わ、わァァァ! え、エシャーティ、へびが!」

「ほらアグニャも助太刀して! どうやらあいつ、そう簡単に逃げてくれないみたいよ」


 毒もなく体も小さいヘビなのでそんなに強くはないが、ヘビという種族なだけで女の子にとっては異形の怪物。エシャーティもカッコつけてはいるが、めちゃくちゃビビっていた。


(もう! さっさとどっかいってよ! こ、こわいなほんと!)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「そうだ! 今こそ光の力を使う時だっ! そらっ眩しいだろニョロニョロ丸がァ~!」


 ヘビの顔めがけ、強力な光を当ててみるエシャーティ。今のうちだとばかりに、アグニャと一緒に追い払おうと、二人で剣でつつきまくることに。


「ああ、これほどエシャーティが頼もしいことが今まであったでしょうか」

「そんなこと言うと、もう後ろになんかいても助けないよ」


 と、剣で払おうとした次の瞬間! ヘビは何事もないかのように……むしろ、剣が近くに差し出されチャンスとばかりに剣を伝いエシャーティに近寄ってきた。


 ヘビは目よりも嗅覚や熱感知に頼って生きている生き物なので、目眩ましはあまり通用しないと二人は知らなかったのだ。


「きゃあああああ!!」

「ひ、ひえー! 効いてないじゃん! エシャーティの役立たず! 効いてないじゃん!!」


 異形の怪物が急に間近に寄ってきたら、女の子は誰でもこんな反応をする。エシャーティはヘビ付きの十字架を地面に思いっきり投げ捨て、アグニャはそれをバシバシと十字架で叩きまくる。


 何だかんだで、ヘビはどこかへ逃げ去りましたとさ。


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