キャンプの朝
料理をするためにエシャーティは魔法で火を起こしたが、案の定超火力の火砲をぶちかましてしまい危うく大惨事であった。しかし昨日と比べると少しだけだが熱線の範囲を収束できていたのは大きな収穫だ。
「ごめんアグニャ! これじゃキャンプファイヤーね……」
「大丈夫ですよ。とっさに地魔法だか土魔法だかで土砂崩れを起こして事なきを得たじゃないですか」
「そうだね。もっとがんばるよ」
全然大丈夫ではない。事は甚大で森の生態系は危うくおじゃんである。少なくとも今のエシャーティの魔法により2つの泉は川となり、30箇所の丘は谷となり、3つの主要な道筋は5つに分岐した。今年の地図制作委員会はあまりの変わり様にギョッとするに違いないだろう......
「さ、それでは料理しますのでエシャーティはカバンからタオルや水筒を出して準備をしててくださいね」
「わかった!」
インチキカバンに荷物を入れておけば重量までなくなり非常に登山が楽ではあるが、難点は中が非常にとっ散らかっていてパパッと必要な物を取り出せない事。なのでタオルや水筒など頻繁に使って重さも気にならない物は取り出しておいたほうがいい。
そして非常時を考えるとローズリリーを入れておくのも危険なのである。今や魔法まで使えるとはいえ、それはエシャーティだけの話。アグニャは依然として自衛手段がローズリリー一択なのだ。
「ふんふふーん。卵を20個に砂糖と塩を鷲掴み、あとはおたま一杯のお水!」
キャンプファイヤーの如き火柱の上に大きな中華鍋を乗せ、その中にこれまた尋常ではない量の材料を入れまくるアグニャ。
「よしっと。あとはフタをしてしばらく待ちましょう。おっと、火を弱めなければ焦げますね」
ゴキゲンそうに一人言を呟きながら、手際よく薪と薪の間隔を広げたり中華鍋を少し火元から遠ざけたりして鍋に当たる火力を微調整するアグニャ。いくら料理が得意とはいえ、こういうキャンプスタイルで料理をしたことがないのでほとんど勘で作業しているのだが、ことごとく正解の行動を選んでいた。
しばらくすると見事な巨大目玉焼きが出来上がっていた。20個もの卵を使用したこの凄まじい大きさの目玉焼きは、実はメインディッシュではない。登山は体力を使うので普段より多めの朝食をアグニャは作っていた。同時進行で。
「お、あちらのフライパンももう出来ましたね。こっちの串焼きは……よしよし」
なによりせっかくのキャンプファイヤーでの料理。火柱全体を使って料理した方がエシャーティも喜ぶだろう、という大食漢特有のデブ思考で全身全霊の朝食を作り上げた。
「アグニャー、準備おわった……え、なにこれ」
「お疲れ様です、エシャーティ。さ、朝食ですよ!」
「いやおいしそう、おいしそうなんだけどさ。量がやばくない?」
「何を言いますか、山をナメてませんかエシャーティ。食わねば餓死しますよ」
「いや……はぁ、いただきます」
「よろしい! いただきましょう!」
長い長い朝食が始まるのであった。
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キャンプファイヤーの火が消えて少しした頃合いには、なんと非現実的な量の朝食は跡形もなく消えていた。もちろん大部分(97%程)をアグニャ一人で食べきった。
「ぐえっぷ。さすがに自分の体重の半分と同じくらい食べるのは胃もたれしますね」
「すごいわアグニャ! 鉄とか岩とか屋根じゃなくてまともな食料であの量を始末したのは初めてじゃない?」
「ま!! 人を悪食みたいに言って!」
「ちがうの?」
ちなみに今大量の食事をしたからといって、後から癒しの力に使うための源として貯めておくような、いわゆる食い溜め的な事はまったくできない。
二人は至上の満腹感に少しうぷぷとなりながら、食後の運動がてらテントや調理器具、食器の後片付け、登山ルートの確認、そして身だしなみを整えた。
「さて、火の跡もキチンと土で埋めましたしそろそろ行きましょう」
「よっしゃ! いざ東雲山へ突入よ!」
「山頂目指してのんびり登りましょう」
今日の予定は夕方までに山頂へたどり着き、そこでまた野宿をしようと考えていた。山の規模的には二人の体力でも昼過ぎには着くだろうという目論見だったし、何よりこの山には人間がほとんど来ないというのが安心である。
しかし二人の目当ては他にもあった。それは……
「やっぱここ、行くっきゃないよね」
「当たり前でしょう。何のための旅ですか」
「さすが! というか昨日体を拭くくらいしかしてなくてばっちいもんね」
「乙女にあるまじき状態ですね。お互い」
「んじゃ、まずは温泉目指そっか」
そう、温泉が湧き出てる場所が山の中にあるのだ。買ったばかりの地図には東雲山の詳細なスポット情報など無かったのだが、近場に住んでいてこの山にも詳しいエリーが教えてくれた。大まかな場所も記してくれたので至れり尽くせり。
というかこの二人はもしも温泉が見つからなかったらイカロスの羽を使ってエリーたちを呼び出してでも入浴したいと思っていた。それほどまでに女の子にとってお風呂に一日入らないという行為は一大事なのである。
ともかくエシャーティとアグニャは大陸最東端の山、東雲山の登山を開始したのであった。
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