笑顔が見たい? 贈り物をしよう
司祭たちから助言を聞いたエシャーティは、やることもないので自分の部屋で時間を潰すことにした。
ふと、華奢な体躯をペシペシと叩き、己のか弱さに思いを馳せる。ヒョロガリの身代わり野郎にちょっと押されただけで転ぶし、アグニャにゲンコツを食らったらすぐ目に涙が浮かぶ。
そう、エシャーティは自分のことを虚弱だと思い込んでいた。なぜそう思い込みだしたのかというと、ずっと昔に起こったとある騒動が影響している。
(あの時はほんと死ぬかと思ったなぁ。アグニャがずっと看病してくれてなかったら……)
昔の出来事を思い出したら、なんだか無性にプレゼントをあげたくなってきた。部屋で時間を潰そうと思ったが中止にして、村唯一の商店へ行くことにした。
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「なんだエシャーティか、客かと思って損した」
「なによ、アグニャや司祭と一緒に来たときは歓迎するのに。もうひいきにしないからね」
「いつも司祭たちにくっついてるだけで何も買わないどころか、キャベツの外側の葉っぱ勝手にちぎったりして迷惑かけてる身でよく言えるな」
案の定あまり歓迎されていない様子である。この間は他に客がいたので店主も露骨にキツくは当たらなかったが(というより無視していた)今日は普段通り、さっさと出ていけオーラを遠慮なく出していた。
「って、しょうもない話をしてる暇はないんだよ。ここってプレゼントになりそうなのある?」
「ほう、エシャーティもとうとう色気づく年頃か」
「違わい」
まともに相手にされないので、自分で店内を物色することに。
(司祭は……10円の十字架模様してるビー玉でいいや! アグニャは何が欲しいかな。年頃の女の子へのプレゼントはむずかしいねぇ)
大本命はお菓子。癒しの代償でアグニャはお腹がすきやすいし、お菓子なら何が好きか覚えているから確実に喜ばせられる自信があった。
次点でアクセサリー。アグニャはシスターだし十字架の意匠が僅かでもあれば大体喜ぶとエシャーティは踏んだ。たぶん十字架模様が入ってたらこのダサいハチマキでも喜ぶだろう、と。
大穴に……
「お? おもしろいの売ってんじゃん。コレとビー玉、贈り物用に包んで」
「ほー、気合いの入ったプレゼントな。男を知って少しは丸くなってくれよ」
二人へのプレゼントを買ったエシャーティ。気まぐれの贈り物であるが、果たして喜ばれるのか?
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「ただいま! って、二人して庭でなにしてんの」
「教会のドアとか窓が壊れてたから直してる。裏口のだから壊れててもあんまり支障はないがな」
「表の門も壊れてたでしょう? それなりに頑丈な門なので、そうそう壊れる事はないのですが」
二人は蝶番の壊れたドアや鍵の壊れた窓を何やらいじくっていた。とりあえず予備の部品や代わりに使える物で修理しているようだ。
「そうそう壊れない物が一斉に壊れるなんて妙ねぇ。あ、コレあげる。ありがたく思うがよいぞ」
「なんだこの親指ほどのプレゼントボックス、中身も気になるけどこんなミニチュアみたいな箱よくあったな」
「私にも? ありがとう、開けてもいいですか?」
「あたぼうよ」
修理を中断し、二人は嬉しそうにプレゼントを開封していく。二人とも予想外の中身に、なかなか驚いた様子であった。
「ははぁビー玉。そういえば最近、童心に帰ってないな。気分転換に使うとしよう、ありがとな」
「これは……バラ? しかもピンクと純白で2本も」
「へへー。なんかそれね、花を枯らさない能力の人の加工を受けてるからずっと綺麗なままだって!」
「おいおいそっち欲しいな」
「意外とお花って高いんだもん、そんな何本も買えなかった! お財布もこの通りカラッポになったし」
エシャーティのなかなかキザなプレゼントに、アグニャは家族なのにトキメキそうになってしまう。
司祭もなんだかんだ言いながらも、大事そうに財布にビー玉を転がりこませた。これからはお祈りの度にこのビー玉を固く握り、今の喜びを忘れずにいようと決心したのは、司祭の心の中だけの秘密だ。
「とても綺麗だしこのバラは目立つ所に生けましょう。ところでなぜ色違いを1本ずつなんですか?」
「え、それ1本はあたしのだよ。梱包料が2箱まではタダだから一緒にいれ……あれ? 怒ってる?」
「怒ってないです」
「怒ってんじゃん……」
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次の日。教会の前に村の人たちが何やら集まっていた。部屋の窓からその異様な様子を見たエシャーティは、アグニャに話を聞きに部屋を出た。
「なんかうちの前に人が集まってんだけど。もしかして今日、大勢で礼拝でもすんの?」
「そんな予定は無いですよ。何があったのか司祭が話を聞きに向かいましたが、嫌な予感がしますね……」
不穏な空気を感じた二人だが、司祭の報告を待つことしかできない。重い空気のなか、二人は二色のバラを見つめながら沈黙を保つくらいしか出来なかった。
しばらくして、血相を変えた司祭が部屋に飛び込んで来て重苦しい沈黙を破った。
「二人ともいるな!? 村中にとんでもねえ噂が流れてるんだ!」
「司祭、少し落ち着いて。そんなに狼狽えるような噂とはなんですか?」
「村中の家に泥棒が入ったみたいなんだ」
「みんなの家全部に?」
「ああ、それだけでも異常なんだが恐ろしいのはここからだ!」
一度間を置いてエシャーティとアグニャの顔を見つめ、深刻な表情でゆっくり口を開く司祭。その口から出た言葉に二人は酷い衝撃を受けずにはいられなかった。
「なぜかエシャーティが犯人だと思われているんだ」
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