ラストエルフ
「ああエリー、あんたのおかげで助かったよ」
「よかったー回復魔法は数十年ぶりだったんで」
「エシャーティ、そちらの女の子は……」
質問したアグニャだったがだいたい何者かは予想がついた。エルフ全書の挿し絵で見たまんまの長い耳、幼いが美形というに相応しい顔立ち、そして回復魔法という聞きなれない言葉。確実にエルフだろうな、と。
「わたしはエリー、この世界に存在する最後のエルフです」
「あ、これはこれは。私はアグニャといいます」
「聞いてよアグニャ! エリーはね、もう20年も一人ぼっちだったんだって」
アグニャはこの、小さな恩人についてエシャーティとエリー本人から色々と聞くことになった。
「いやーまともな話し相手は20年ぶりですよ。近頃は人間もこの森を通んなくてつまんなかったとこでして」
「エリーが言うには、ある日突然エルフが急にいなくなったんだってさ。大変だね」
「はい。ある日こつぜんと。あんな異常事態は100年生きててもそう無かったですよ」
「エリーさんは長寿なんですね」
エリーはもういつだったかすら曖昧なくらい大昔に消えたエルフ族を探して世界を旅したが、もうどこにもエルフは一人残さずいなくなっていた。元々エルフは世界に少数しかいない種族だったが、こうなってはもはや種族として終いである。
「いったい何があったのでしょうか?」
「たぶんどっかのバカエルフが神の怒りにでも触れたんじゃないですかね」
「そそ、エルフの使う魔法の中には禁忌の魔法があるんだって! カッコよさそうだしエリー使ってよ」
「そんな事したらわたしも神隠しにあいまっせ」
聞くところによると禁忌の魔法を使うと、神の怒りに触れたり悪魔に魂をとられたりロクな目にあわないという。どこかのエルフの所業で怒った神さまはエルフを根絶やしにしたが、エリーだけ何かの手違いで助かったのだろう。
「ま、長い長い仲間探しの旅を終えて今では誰もいなくなったこの故郷に寂しく居着いてるわけですよ」
「あ、でね。アグニャは落っこちてすごいケガしてたんだけど、エリーがすぐ治してくれたんだから」
「いや、あそこからここまで自分と同じ体格の子を連れてきたエシャーティさんに感銘を受けましたから。結構距離ありますよ?」
「エシャーティ……ありがとうございます」
まあ実際はインチキ収納カバンにアグニャをねじ込んで来たのでさほど苦労していないのだが。二人とも感動してるようなので担いで来たってテイにしとこうとエシャーティは思った。
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「……と、いうのが魔法の基礎です」
「ははぁ~ん、なるほど」
「わかってないでしょう、エシャーティ」
3人は少し早めの夕飯を食べたあと、せっかくなので魔法について勉強会をしていた。エリーは禁忌の魔法も含めて、エルフの扱える魔法すべてを知っているエキスパートらしいのでうってつけの講師であった。
「原理はとても簡単なのですが、なぜか人間は誰も使えないんですよね。エルフにしか扱えない魔力が要るとかそんなんじゃないんですが」
「いえ私には全然理解できない内容です。ゴロさんもそうだったのでしょう?」
「あーゴロですか。ゴロはまあ……ゴロですし?」
「そういえばゴロとエリーは知り合いなんだっけ」
「そうですねえ。もうしばらく会ってないけど、ちょいと昔に世界を一緒に旅したんですよ」
とことんまでゴロは顔が広いなと二人はいつも思う。が、次のエリーの発言には驚きの名前が出てきた。
「昨日の事のように思い出せますよ。旅のメンバーはゴロとわたしと、あと旅を終えたらド田舎の教会で司祭をやると言ってた人間ともうひと……」
「ん? ド田舎の教会で司祭……その田舎ってこっから東にずっといったとこ?」
「ですです。いやーあの聖職者には程遠い人間が司祭になると言った時はみんな冗談だと思いましたがね。あの人間の能力は今や神サマに真っ向から嫌われるだろうに」
「たぶんその司祭ってあたしたちの家族だわ」
「え……じゃエシャーティ、さん、あなたは名前が同じな他人じゃなく……うそ!」
急にエリーは動揺し始める。エシャーティをじっと見つめ、ハッとした表情になり次はアグニャをじぃっと見つめる。
「アグニャさんは……あの時の子か!」
「私たち、お会いしたことありましたっけ?」
「すごい小さいときに。しかしエシャーティさん……ははぁ、いやはや、見れば見るほど本物ですなぁ」
「な、なによ、なんなのよ」
「そうですね、お二人はあの人間……ああ今は司祭か。司祭のことについて何を知っていますか?」
司祭について……そう言われると、実はエシャーティもアグニャも十何年も一緒に住んでいるのに何も知らない気がする。二人が知っているのは、ただ田舎で村人相手に神の教えを説いて、それ以外は暇を持て余しブラブラしてる姿くらいだ。思えば司祭の過去など全く知らない。
「あの人間がまさかバカ正直に司祭を続けていたとは……何が起こるか分からないものですね」
「エリーさんは司祭のことをよく知ってそうですね。よければ教えてもらえませんか」
「そうよ。だいたいあたしたち家族なんだから、知らないことが多い方が不自然じゃない?」
「うーんどうしましょう。話して良いことと悪いことがありますので。あの人間が過去を隠しているのなら、わたしも話せることはあまり」
まあそう言うのならとエシャーティたちもあまり詮索はしなかった。司祭が昔なにをしていたとしても自分達にとって司祭は家族。ならいつか本人に直接聞いて、それでも話してくれないならそれでいいと思ったのだった。
(ふーん、あの人間にしては良い子ちゃんに育てられましたね。しかし、転生したエシャーティさんをよくもまあ探せたものです)
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