嬉しい初勝利
結局あの後はアグニャも司祭も、実は巻物が本物でエシャーティがたまたま使えてしまったという事で無理やり己を納得させた。
それに少しの間エシャーティに力を使わせてみたが、本当に光をつけたり消したり出来るくらいであまり使い道も無さそうなので、まあこれなら悪さもできまい、と安心した。
そして次の日。光を操る力を得たエシャーティは、村の外れで昨日と同じようにあの男の子にケンカを売っていた。
「今日はどんな捨て台詞を吐きに来たんだ?」
「今日のあんたが聞くのは骨が折れる音よ」
「カカシを殴って骨折はダサすぎる」
「ほざけ!」
お互いにご託を並べ戦いの火蓋が切られた。エシャーティはいつものように煽って全く防御の構えをとらない男の子に勢いよく駆け寄った。
男の子はいつものように自信満々の面持ちでカウンターを狙って、エシャーティを注視する。
「いっつもワンパターン! 頭クルパーか?」
と、追い挑発をした瞬間。男の子の視界は急に光に覆われた。思わず目を閉じてしまい、驚きでとっさに身代わりを作るのに気が回らないほどの輝きであった。
「油断したわね!」
「しまっ……だが身代わり出せば!」
「ンなトコに身代わり出してもねェ!」
とっさに自分の真正面に身代わりカカシを出したが、視界が塞がれてる間にエシャーティは背後へ回り込んでいた。
隙だらけの足元めがけ、全身全霊足払い!
「えァッ!?」
間抜けな声をあげながらドチャッと倒れこむ男の子。起き上がるため膝をついたら、胸の辺りに蹴りの追い打ちをされ起き上がるのを阻止された。
「ぐぇ」
情けなく仰向けになり、上半身をエシャーティに踏まれて起き上がろうにも起き上がれない状態になったところで光は消えた。
「ふふん。弱い、弱すぎる! こんなのに今まで1発も入れられなかったなんて、恥もいいとこよね」
男の子を踏んづけたエシャーティは、今までのお返しにバシバシと男の子をぶっ叩いたり、蹴っ飛ばす。今までの人生でこんな本気で殴られたことのない男の子は、殴られる度に怯んでサンドバッグと化したのであった。
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「う、うわぁぁぁん! みんなにチクってやる、覚えてろエシャーティ!」
「待ちなさーい! まだ骨が折れただけじゃない、あたしはもっと痛い思いしてたのよ、この負け犬!」
追いかけようとしたが、ヒョコヒョコと折れた脚を引きずって逃げていく情けない姿を見たらなんだか満足したので、勝利の余韻に浸りながら教会へと帰った。
「おかえりなさいエシャーティ。例の力について私と司祭から言うことがあるので、ついてきない」
「わかった!」
「あら、なんだかゴキゲンですね。」
「ふふん、まあねぇ」
念願の勝利を得たばかりのエシャーティは、いつもより素直にアグニャの言うことを聞いた。
アグニャも今までのエシャーティの受難、苦悩を知っていたので、何があったのかは深く聞かずに司祭の所へと向かった。
「おお、来たな。さてさてエシャーティを呼んだのはちょっとした助言をしたいと思ってな」
「助言? そんなの別に大丈夫だけど」
「司祭のお話は大人しく聞きなさい」
「はーい」
二人とも何やら大事な事を言いたそうなので、エシャーティは素直に話を聞くことにした。
「でだな、力を使う代償を知ってもらう」
「力を使う代償? それなら知ってるけど」
「まあ聞け。例えばアグニャの傷を癒す力。これを使うとアグニャはすごくお腹がすくのはよく知ってるはずだ」
「満腹でも骨折みたいな大ケガを治せばたちまち空腹に……ってやつでしょ?」
この世界では誰もが特別な力を持ってはいるが、何か代償を払わねば使えない。空を飛べるが、飛びたければ息をとめねばならない者、逆に息を吐いてる間だけ空を飛べる者など代償は様々だ。
「あれ……言われてみればあたしは特に何もないな」
「エシャーティの場合は特殊な方法で得た力だから代償は要らないのかもしれない。でも、自分の体をよく見てみろ」
司祭に鏡を渡され、自分の体を見てみると……
「んん? なんかヤケに日焼けしてるような」
「やはり気づいてなかったか」
「きっとあなたの放つ光は太陽光と同じ性質なのかもしれません。なので、むやみに使うと……」
「お、お肌が紫外線でボロボロに!?」
さっきまで良い気分だったが、あの光は女の子の敵である紫外線を含んでいると思うと途端にがっかりした。エシャーティはあの力を使うのに代償は要らずとも相応の覚悟は要るのだと悟るのであった。
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